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史上初のゴールデンウィーク10連休。
ほんのひきだしでは「10連休読むならこれしかない!」と題し、さまざまな出版社の文芸編集者に「10連休に読むなら?」というテーマでおすすめ本を選んでいただきました。
今回ご紹介いただいたのは、松井玲奈さんの小説家デビュー作を含む短編集『カモフラージュ』(集英社刊)です。
松井玲奈さんの『カモフラージュ』は、6つの物語を収録した短編集です。デビュー作とは思えないほど色彩豊かな作品群で、一編ごとの作風も違えば、印象も違います。原稿が届くたびに、新鮮な驚きがありました。
「ジャム」という短編を初めて読んだとき、まず書き出しから驚かされました。
“僕のお父さんは一人じゃない。夜、仕事から帰ってくるお父さんの後ろには、真っ白な顔で洋服を着ていないお父さんが三人並んでいる”
……!?
いきなり怪奇?ホラー?テイストの原稿が送られてくるとは想定しておらず、不意を突かれました。少年・健太の視点で語られる物語は、お父さんが1人の日もあれば、3人の日も、7人の日もある、という奇想天外な設定。お母さんにはお父さんが1人しか見えておらず、普段通りの生活をしています。
しかし健太が学校へ行くと、クラスメイトは自分たちの親が複数いることを認識しており、この現象は一体何だろうと話し合っている。子供たちだけに見えている不思議……。物語は予想だにしない方向へ展開し、「スプラッター映画が大好き」という著者の持ち味が遺憾なく発揮された驚愕のラストを迎えます。
また「完熟」では、名前のついた登場人物は出てきません。「男」と「女」と「男の妻」、その3人だけが登場します。
物語は男の回想から始まります。田舎での退屈な夏休み、当時15歳だった男は年上の女と出会う。水辺で一心不乱に桃を食べる彼女の何とも言えない色気に、そして得体のしれない何かに、彼の心はかき乱されます。その日以来、男は桃を食べる女に対して、異常なまでのフェティシズムを感じるように。
視点は、男の妻へと変わります。男の知られざる執着心に気づいている妻が取った行動とは――? 男性の持つ過去への憧憬を著者に見透かされたような気持ちになる、ドギマギする一作です。
ホラーから恋愛まで、様々なジャンルを縦横無尽に往来する原稿を読むたびに「ゼロから生み出すことの苦しさも含めて、著者は、心の底から楽しみながら小説を書いているのだな」と感じました。その楽しさが、読み手にも伝わってくる作品になっています。
(寄稿:集英社 文芸編集部 N)
内容紹介
いつもより荷物の重い日が好きだ。 お昼の弁当に加えて、もう二つ、夜に彼と食べる用の弁当を作る。食べる場所は決まって“ホテル”で ──「ハンドメイド」。
僕のお父さんは一人じゃない。お父さんの後ろには、真っ白な顔のお父さんたちが並んでいる ──「ジャム」。
恋愛からホラーまで、多種多様な全六編。(集英社公式サイトより)
次回は【文藝春秋 第一文藝部 山田憲和さん】のおすすめ本です!
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