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累計40万部を突破した、柚月裕子さんの「佐方貞人」シリーズ。その6年ぶりの新刊『検事の信義』が、4月20日(土)に発売されました。
孤高の検事の男気と正義への執念を描く本シリーズは、『孤狼の血』とともに多くのファンが新作を待ちわびる人気作ですが、今回、刊行までに時間を要したのには、ある「2つの理由」があったのだそう。
「6年ぶりの佐方は、手強かった」という著者の柚月さんに、労作誕生までの道のりと、作家としての覚悟について綴っていただきました。
デビュー10周年記念作品の『検事の信義』は、自分の著作のなかでも難しい作品だった。
佐方貞人を最初に登場させたのは、デビュー2作目の『最後の証人』だ。デビュー作の『臨床真理』は投稿作品なので、実質プロになってはじめて書いた作品になる。
当初は、シリーズ化するつもりはなく、1冊で完結の予定だった。が、読者の方の反響と出版社の要望があり、『検事の本懐』『検事の死命』と繋がっていく。
どの作品も悩みながらの執筆だったが、『検事の信義』は特に悩んだ。どうしても筆が進まず、昨年秋の刊行予定が大幅に遅れてしまった。
その理由はいくつかあるが、ひとつに、プレッシャーがある。
サイン会などで読者の方にお会いすると、「次の佐方シリーズは、いつ出るんですか」と訊ねられることがあった。佐方の新作を何年も待ってくださっていることをありがたく思うと同時に、その方々が満足できる作品を書けるだろうか、という不安が大きくなっていた。
ほかに大きかった理由は、自分自身の心の問題だ。
私は作品を書くときに、真犯人は誰かとか、殺害方法といったもの以上に、犯人の動機の部分――なぜこの事件は起きたのか、に心を砕いている。事実は真実ではない。真実は人の心のなかにある、そう思っているからだ。
人の心を描くには、自分の心と対峙しなければならない。それはときに辛い作業となる。自分の醜さ、狡さ、弱さに直面するからだ。
『検事の信義』は6年ぶりの佐方シリーズとなるが、『最後の証人』からは、9年の月日が経っている。そのあいだに、私自身いろいろなことがあった。嬉しいことも楽しいこともあった。もちろん、そればかりではない。むしろ、辛いことのほうが多かったように思う。なにかを恨み、嘆き、なにも信じられなくなったこともある。
しかし、佐方は変わらない。自分の確固たる信念のもとに、真実を追求する。佐方の正義がぶれることはない。
その佐方に気持ちを重ねるには、自分が一度見失ったものを、取り戻さなければならなかった。最初に佐方を書いたときまで遡り、自分がデビューをしてからどのように過ごし、作品とどう向き合ってきたかを見つめ直した。辛い作業だったが、無事に刊行したいまは、再び佐方を――これからも小説を書き続けるためには必要なことだったと感じている。かなり苦労した本作だが、デビュー10周年記念作品に相応しい本になったと思う。
プロになってはじめて書いた作品を、9年経ったいまも書き続けられることに、深い喜びを感じている。これもすべて、執筆にあたり伴走してくれている編集者、応援してくれている方々、そしてなにより作品を読んでくださっている読者のみなさまのおかげだ。
これからも精進し、人として、作家として成熟していきたい。
任官5年目の検事・佐方貞人は、認知症だった母親を殺害して逮捕された息子・昌平の裁判を担当することになった。昌平は介護疲れから犯行に及んだと自供、事件は解決するかに見えた。しかし佐方は、遺体発見から逮捕まで「空白の2時間」があることに疑問を抱く。独自に聞き取りを進めると、やがて見えてきたのは昌平の意外な素顔だった……。(「信義を守る」)
〈KADOKAWA 公式サイト『検事の信義』より〉
柚月裕子 Yuko Yuzuki
1968年、岩手県生まれ。2008年『臨床真理』で「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、デビュー。2013年『検事の本懐』で第15回大藪春彦賞を受賞。2016年『孤狼の血』で第69回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞。2018年『盤上の向日葵』で「2018年本屋大賞」2位。「佐方貞人」シリーズは本作のほかに、『最後の証人』『検事の本懐』『検事の死命』がある。他の著書に『蟻の菜園―アントガーデン―』『パレートの誤算』『朽ちないサクラ』『ウツボカズラの甘い息』『合理的にあり得ない 上水流涼子の解明』など。
・映画公開を前に『孤狼の血』の続編が発売!『凶犬の眼』は、松坂桃李演じる日岡刑事の成長を描く物語