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史上初のゴールデンウィーク10連休。
ほんのひきだしでは「10連休読むならこれしかない!」と題し、さまざまな出版社の文芸編集者に「10連休に読むなら?」というテーマでおすすめ本を選んでいただきました。
今回本をご紹介いただくのは、河出書房新社 編集部の吉田久恭さんです。
あなたは、「お気持ち」と題されるようになった、退位についてのメッセージをご覧になったろうか? VTRに収められたこの映像から感じられた違和感。それは、この映像が生放送ではないにもかかわらず、あたかも「現在」であるかのように再生されてしまうことから来るのではないか。あの「玉音放送」が録音だったと知ったときと同じ驚き。
言葉になりにくいこの違和感を言葉にしたのが、あの名作『東京プリズン』で戦後論ブームの火付け役となった作家・赤坂真理だ。打ち合わせをしていたファミレスの四人掛けの広めの席で、赤坂はiBookを開き、この映像をYouTubeで再生して見せてくれた。この時「箱の中の天皇」という小説はすでに始まっており、我々は小説という「箱」の中に囚われたのだ。
冬から春にかけて小説はゆっくり進んでいった。作家は懸命にテレビという箱のなかで「お気持ち」を述べる「天皇」との対話を試みたが、なぜかうまくコンタクトできなかった。
作家は、小説を第3章から書き始めてしまっていたのだ。1、2章が存在するとは知らずに。そしてある日作家に第1章の冒頭が訪れた。その瞬間、突如小説の全体像が姿を現した。作家さえ想像しなかった謎の全貌が浮かび上がったのだ。
この小説の魅力は、このように、書き手自身にさえ、先が読めず、小説という「箱」の中身さえ見えない、ほんものの「ミステリー(謎)」であるという成立の仕方に支えられている。
連休の合間にこの本をめくりながら、この国の姿を見つめ、見えない箱の中身を、作家とともに想像し、問いかけてみてほしい。“日本”という箱の“かたち”が、変わって見えてくるはずだから。
内容紹介
文学史的事件と呼ばれた『東京プリズン』から六年。
赤坂真理が、小説によってしか書き得ない形で、天皇に退位の真意を問う。
日本と日本人の行方に迫る驚くべき天皇小説……マリとアメリカの戦いの行方は?
次回は【松井玲奈さんのデビュー短編集『カモフラージュ』担当編集者】の推薦文をお届けします!
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