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  • 『りゆうがあります』で第8回MOE絵本屋さん大賞受賞!ユーモア絵本で大人気のヨシタケシンスケさんインタビュー

    2016年01月16日
    楽しむ
    日販 商品情報センター 「新刊展望」編集部
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    ひとつのりんごをめぐり、「もしかしたら、これは○○かもしれない」と果てしない想像が広がる初の絵本作品『りんごかもしれない』で話題をさらったヨシタケシンスケさん。新シリーズの『りゆうがあります』も多くの支持を集め、「発想を楽しむ」独特の世界観は、子どものみならず大人にも大人気。そのユニークな発想はどこから生まれるのか、ヨシタケさんにお話を聞きました。

    yoshitake-workspace

    (アトリエにて。机の周りには「いつの間にか集まった」人の形をしたユニークな置き物がいくつもあって、見ているだけでも楽しい。家中のそこかしこに、ヨシタケさんの立体作品や2 人の息子さんのイラストがたくさん飾られていて、アートな雰囲気たっぷりのお宅でした)

    〈PROFILE〉
    1973年、神奈川県生まれ。筑波大学大学院芸術研究科総合造形コース修了。日常のさりげないひとコマを独特の角度で切り取ったスケッチ集や、児童書の挿絵、装画、イラストエッセイなど、多岐にわたり作品を発表している。『りんごかもしれない』で、第6回MOE絵本屋さん大賞第1位、第61回産経児童出版文化賞美術賞などを受賞。2015年、『りゆうがあります』で第8回MOE絵本屋さん大賞第1位を受賞。著書に『しかもフタが無い』『結局できずじまい』『せまいぞドキドキ』『そのうちプラン』『ぼくのニセモノをつくるには』『もうぬげない』など。二児の父。

     

    お題に対してどう打ち返すか

    ―『りゆうがあります』が全国の書店の絵本担当者が選ぶMOE絵本屋さん大賞第1位に選ばれました。2013年には絵本デビュー作『りんごかもしれない』で同賞を受賞されていますね。

    りゆうがあります
    著者:ヨシタケシンスケ
    発売日:2015年03月
    発行所:PHP研究所
    価格:1,430円(税込)
    ISBNコード:9784569784601

    『りゆうがあります』を作る際には、『りんごかもしれない』とどう差別化を図るかが目標でした。『りんごかもしれない』のときは初めてのこともあって、絵本の作り方がよくわからなかったんですね。そこで「何かひとつのモチーフをいろんな目線で見てみる絵本はどうでしょう」とお題をいただいて。2冊目の『ぼくのニセモノをつくるには』は「自分とは何かを子どもに考えさせる」アイデンティティがテーマ。僕が普段やっているイラストレーターの仕事が「お題に対してどう打ち返すか」という作業なので、その2冊で絵本の作り方がわかってきました。

    りんごかもしれない
    著者:ヨシタケシンスケ
    発売日:2013年04月
    発行所:ブロンズ新社
    価格:1,540円(税込)
    ISBNコード:9784893095626
    ぼくのニセモノをつくるには
    著者:ヨシタケシンスケ
    発売日:2014年09月
    発行所:ブロンズ新社
    価格:1,540円(税込)
    ISBNコード:9784893095916

    『りゆうがあります』も担当編集者に絵本のテーマとして気になっていることを聞いてみると、「くせ」と「うそ」の2つのキーワードが出ました。おもしろいと思ったのは、どちらも「あまり良くないもの」のイメージがあるけれど、ときには必要な嘘もあるし、大人にだってくせはある。そこで考えた企画が「くせについてうそをつく」というもの。それなら大人と子どもの関係や、「ものは言いよう」といった普段感じていることを散りばめて、何か作れるのではないかと思ったんです。

    僕は息子が2人いるのですが、子育てをしていると、自分も似たような行動で注意されていたことや、大人に言われて納得できなかったことを思い出します。今は言う側になって、納得できない子どもの気持ちも、言わざるを得ない親の立場もわかる。考える機会が増えることで、絵本のいいネタになっていますね。

    yoshitake-diary

    ヨシタケさんがいつも持ち歩いているA6判の手帳には、日常で見たり感じたりした“ヨシタケワールド”ネタがぎっしり。時々見返して、作品に採用されることもあるのだとか。

    もうぬげない
    著者:ヨシタケシンスケ
    発売日:2015年10月
    発行所:ブロンズ新社
    価格:1,078円(税込)
    ISBNコード:9784893096098

     

    “すき間”を大事に

    ―絵本を作るときに大切にされているのはどんなことですか。

    ヒントだけ書いてあって、読んだ人が自分の経験や好みを反映できる、“すき間”が空いている絵本になるといいなと思います。子どもの頃を思い返すと、『からすのパンやさん』のパンがずらっと並んでいるページを見て、「僕はこのパンが好きだけど、お母さんはどのパンがほしい?」と会話が始まる。そういう絵本が好きだったんですね。読んでおしまいではなくて、家族がコミュニケーションできる道具の一つになればすごくうれしい。そういう仕掛けがある本は大きくなっても覚えているし、その子なりに何かを考えるきっかけになると思うんです。

    ―“すき間”であるだけに、読む時々で違った心の動きが味わえそうです。

    子育てしていると次々と問題が出てくるので、記憶がどんどん上書きされてしまう。それも含めて(子育ての)おもしろさだと思うのですが、読んでくれた方が30年前の子育てを思い出したり、今まさに大人ってずるいと思っている子どもたち、うちの子と一緒だと思ってくれる親御さんなど、読んでくれたそれぞれの年代がはまる場所があるといいですね。

    すき間を空ける利点の一つとして、クレームが来にくいこともあります。クレームをどうしたら避けられるかと考えた時に、「読む人によっていろんな読み取り方ができるんですよ」と言い返せることで守りに入れます(笑)。良くも悪くも断言していない、どっちともとれる余地を残して世に出すことが、結果的に僕らしさになっているのかもしれない。

    ―そうした「自分なりの読み取り方」ができることが、多くの読者を惹きつけているのでは。

    たくさんの方に親しまれたいとはもちろん思うのですが、具体的にどうしたらいいのかよくわからないんです。自分と他人は違うので。結局小さい頃の自分はおもしろがってくれるかなという部分を手掛かりに作るしかない。小さい頃の僕みたいに、いつもビクビクして怒られるのが嫌いな子が喜んでくれる確信はあって、それは全体の2割か3割くらいだろうという気持ちだったので、こんなにたくさんの方がおもしろいと言ってくださるのは想定外でした。

    読み聞かせのイベントなどをやると、自分から前にぐいぐい来られる子と、お母さんの後ろに隠れて出て来ない子がいる。僕はその来ない子の側だったので、彼らの気持ちはよくわかるんです。そういうコミュニケーションを取るのが苦手な子にとって、一人っきりで自分の世界に入れる絵本はすごく大事。そこで、自分というものを肯定してもらえたり、いい感じに否定してもらうことで、世界が開けていく。引っ込み思案の子が持っているのは、強さや社会性を身に付ける前の、実はみんなが共有している部分。そこに、こちらが思っている以上にみなさん共感してくれたんだな、というのが一つの発見でした。

    絵本も含めて、僕がいろいろ考えた結論が、「人は自分が思っているほど自分と一緒ではないし、違ってもいない」ということ。これまでの本はたまたま読者と共有できる部分が多かったけれど、そうでない現象もたぶん同じ確率で起こるんです。その時にエンターテインメントとしてちゃんと楽しめるものにするためには、編集者の意見がすごく大事。僕は大人向けのイラストを長いこと書いてきたので、ともすると子どもには文脈が読みづらいものになりがちです。編集者が行き過ぎた部分を絵本の表現として成立するギリギリまで戻してくれる印象があって、絵本としてはとんがった、珍しいものとして世に出すことができる。そういう作業を経てのものなので、絵本を作るのは編集者と二人三脚だと常に感じています。

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    『ふまんがあります』の原画。A4のコピー用紙に見開きで描かれている。細かく描き込まれたものを、拡大して印刷しているのだそう。

    ふまんがあります
    著者:ヨシタケシンスケ
    発売日:2015年10月
    発行所:PHP研究所
    価格:1,430円(税込)
    ISBNコード:9784569785028

    ―子どもが読むものだからこそ、絵本ならではの工夫がされているのですね。

    自分が好きなものはわかっているけれど、自分が作るものをさほど信用はしていないんです。だから言われたことはなるべく真摯に受け止めますし、ダメな理由もわかりたい。「おもしろいけれどダメ」なのには、それこそ「りゆうがあります」(笑)。イラストの仕事は相手が求めるものを全部満たした上で、どれだけ+αできるかの世界。相手の要望を無視しておもしろさだけを追求しても仕事にはならないので、絵本の世界でも似た考え方をしています。

     

    絵本で提案したいこと

    ―イラストと絵本、今後も2つのお仕事を両立されるのですか。

    イラストの仕事では自分の思い通りにならないことが多々ありますが、絵本はまるごと自分が気に入ったものにできる。分けて考えることで、お互いにいい作用があると思っています。絵本で好きなことができているからイラストで辛抱強くなれるし、それによって表現の幅が広がって、持ち駒が増えていきます。そうして得たものを、今度は絵本で自由に配置することができる。お題をもらうのも、自分では気付かないようなキーワードで、持ち駒をどう使って表現できるかと考えることで、最終的に出来たものの幅が広がっている気がします。

    ―表現の幅とともに、読者層もさらに広がりそうですね。

    実は、「大人が読んでもおもしろい」と言ってもらえるのが一番うれしいんです。絵本だからといって、「子ども向けね」と思われてしまうのはつまらない。本当にいい絵本は大人が読んでもおもしろいですよね。ただ、子どもがいないのでなかなか絵本売場に行かないなど、普段、絵本というジャンルに触れる機会がない人も多いと思います。僕の本も「絵本ってなかなかおもしろいね」と手に取ってもらえるきっかけになれば。絵本の持つ可能性や使いどころを(作品で)提案していくことで、誰かの役に立ったり、幸せな時間を持ってもらうことにつながればうれしいです。

    (2015・12・11)


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    (「新刊展望」2016年2月号より転載)
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