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  • 新人絵本作家の活躍に注目!MOE絵本屋さん大賞2015受賞作をご紹介

    2016年01月16日
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    日販 商品情報センター 「新刊展望」編集部
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    世界で唯一の絵本月刊誌「MOE」が、全国の絵本専門店、書店の児童書担当者にアンケートを行い、その年のおすすめ絵本30冊を選ぶ「MOE絵本屋さん大賞」。第8回となる今回は、これまでで最多の2,700人がアンケートに参加し、個性豊かな30作品が選ばれています。「MOE」編集部プロデューサーの位頭久美子さんに、上位作品のご紹介と、大人にも親しんでほしい絵本の魅力についてお話を聞きました。

    MOE (モエ) 2016年 02月号
    著者:
    発売日:2015年12月29日
    発行所:白泉社
    価格:897円(税込)
    JANコード:4910187870265

     

    新しい顔ぶれが揃った受賞作

    【第1位】ヨシタケシンスケ作『りゆうがあります』
    圧倒的な票を集めての第1位です。ヨシタケシンスケさんは、2年前にも『りんごかもしれない』で1位を受賞されていて、MOE絵本屋さん大賞で2回1位になった方は初めてです。店頭でもヨシタケさんのコーナーを力を入れて作っている書店が増えていて、実力と勢いのともなった絵本作家の一人です。

    りゆうがあります
    著者:ヨシタケシンスケ
    発売日:2015年03月
    発行所:PHP研究所
    価格:1,430円(税込)
    ISBNコード:9784569784601

    【第2位】さくらせかい作『いしゃがよい』
    デビュー作がいきなり2位にランクインしたさくらせかいさんは、イラストレーターとして活動してきた方で、『いしゃがよい』は十数年温めていた作品。さくらさんは4歳のときにご両親が亡くなって、近所に住む血縁のない老夫婦に引き取られたそうです。その育ての親への感謝の思いから生まれたお話なのですが、そういうエピソードが知られていなくても、2位に選ばれたということは、作者の人生が投影された作品が真実だからでしょう。子どもだけでなく、大人も率直に感動するお話です。

    いしゃがよい
    著者:さくらせかい
    発売日:2015年05月
    発行所:福音館書店
    価格:990円(税込)
    ISBNコード:9784834081640

    【第3位】トーベン・クールマン作、金原瑞人訳『リンドバーグ 空飛ぶネズミの大冒険』
    作者はドイツの方ですが、この作品も、学生時代の卒業制作の絵本をずっと温め続けて、ようやく出版されたデビュー作です。作者は宮崎アニメの影響を受けた、大のジブリファン。「日本で賞を受けて本当にうれしい」とコメントをいただきました。

    リンドバーグ
    著者:トーベン・クールマン 金原瑞人
    発売日:2015年04月
    発行所:ブロンズ新社
    価格:2,420円(税込)
    ISBNコード:9784893096005

    【第4位】わたなべちなつ作『きょうのおやつは』
    この作品も2015年の大ヒット絵本です。鏡を使った仕掛けでホットケーキができるまでを描き、そのリアルさに驚きます。作者はインスタレーションも発表している、若手現代美術家です。

    きょうのおやつは
    著者:わたなべちなつ
    発売日:2014年10月
    発行所:福音館書店
    価格:1,650円(税込)
    ISBNコード:9784834081237

    【第5位】なかやみわ作『そらまめくんのあたらしいベッド』
    おなじみの「そらまめくん」ですが、実は9年ぶりの新作です。久々の出版を、やはりみなさんが心待ちにしていた、安定した人気と実力のシリーズ最新刊です。

    そらまめくんのあたらしいベッド
    著者:なかやみわ
    発売日:2015年06月
    発行所:小学館
    価格:968円(税込)
    ISBNコード:9784097265726

    今回は上位に新しい顔ぶれが多いのが特徴です。しかも、子どものくせを描いたユーモラスな作品から、仕掛け絵本、大人向けの画集のような翻訳絵本まで、バラエティに富んだランキングになりました。

    MOE絵本屋さん大賞では、受賞された作家上位5名と同時に、ベストレビュアー賞として、思いのこもったコメントをいただいた書店員さん5名も12月の贈賞式で表彰しています。それは、書店員さんのアンケートに熱意のある文章が多く、広くお知らせしたいと思ったからです。絵本へのこだわりや思い、どんな絵本が良いのかといった、それぞれの美意識で作品が選ばれていて、レビューにも純粋に読者に薦めたいという思いがあふれています。新人作家の絵本が上位に選ばれるのも絵本屋さん大賞の特徴で、作家名よりも一作一作に力のある絵本が揃っています。そんな書店員さんをはじめ、作家、読者の方みんなで「絵本の世界は豊かでおもしろい」ということを共有し、絵本雑誌としてジャンル全体を盛り上げていけたらという思いで「絵本屋さん大賞」を開催しています。

     

    心を開く、絵本の魅力

    絵本は絵と詩のような短い言葉でできています。絵も詩も、感情にダイレクトに届くものなので、その2つが組み合わさった絵本は、心に訴える力も最強だと思うんです。絵本は、日常生活で感情を抑えて仕事や家事をしたりしている大人の心も開いてくれる。そこが大きな魅力ではないでしょうか。忘れていた感覚や静かな感情を刺激されて、気持ちが良かったり、少し楽になったり。そういう絵本の効果はとても大きいと思います。大人も楽しめる絵本も増えていますので、絵本の魅力をもっと知ってほしいと思います。子どものものと決めつけて絵本売場に行かないのはもったいない。また、幼い頃に読んだ思い出の絵本を、もう一度楽しめるのも大人の特権です。『ぐりとぐら』をはじめ、40~50年前と全く同じものが重版され読み継がれているロングセラーも数多くあります。当時の感覚が甦ってきたり、幼い頃は気がつかなかった主人公の気持ちを成長してから発見することもあり、子どものときとは違った楽しみ方もできます。

    絵本はページを開けばそこに世界が広がっているので、すぐその中に入ることができます。忙しくて疲れて帰ってきても、短い時間で楽しめるのもいいですね。

     

    2015年の絵本の傾向

    猫絵本が人気です。「MOE」でも「I LOVE 猫絵本」というムックを出しましたが、すぐ重版したほどです。

    I LOVE猫・絵本
    著者:月刊Moe編集部
    発売日:2015年09月
    発行所:白泉社
    価格:990円(税込)
    ISBNコード:9784592843030

    「MOE」は絵本の雑誌なので各出版社が書評用に絵本の新刊見本を送ってくれるのですが、猫が主人公だったり、登場人物と絡んだり、ストーリーには直接関係ないけれどさりげなく猫がいたり、猫が描かれている絵本がとても増えました。特に注目したのが『ばけねこ ぞろぞろ』という妖怪絵本や、芥川賞作家の保坂和志さんが猫を通して生と死を書いた『チャーちゃん』。「MOE」で連載したヒグチユウコさんの『せかいいちのねこ』も11月20日に出たばかりですが、すでに3刷です。ヒグチさんは絵がとにかく上手。猫にしてもぬいぐるみにしても、その卓越したデッサン力を活かした毒気のある、かわいらしい生き物たちはヒグチワールドとしか言いようのない独特の世界。こういう絵を描ける方が今後どのような絵本を描いていくのか注目したいです。

    ばけねこぞろぞろ
    著者:石黒亜矢子
    発売日:2015年03月
    発行所:あかね書房
    価格:1,540円(税込)
    ISBNコード:9784251098832

    チャーちゃん
    著者:保坂和志 小沢さかえ
    発売日:2015年10月
    発行所:福音館書店
    価格:1,540円(税込)
    ISBNコード:9784834082036

    せかいいちのねこ
    著者:ヒグチユウコ
    発売日:2015年11月
    発行所:白泉社
    価格:1,540円(税込)
    ISBNコード:9784592761891

    絵本作家は犬好きよりも、比較的猫好きが多く、ご自分の家の猫をモデルにしてお話を描いている方も多く見られます。主人公でなくても、絵の隅にさりげなくいるだけでも絵本に深みが出たり、猫と絵本は親和性があるのかもしれないですね。

    また、2015年はやはりヨシタケシンスケさんに注目が集まりました。子どもも少し窮屈に感じる時代に、サバイバルの物の見方を面白い絵で提示してくれます。独自の発想とユーモアセンスを持つ、貴重な絵本作家だと思います。

    雑誌で、これまで多くの絵本作家にインタビューしてきましたが、みなさん驚くほど子どもの感覚をお持ちです。子どもに目線を下げて描くのではなく、子どもの感覚を保持した優れた作家がおもしろがって描いたお話が、子どもに受け入れられています。私たち大人も、子どもの感覚をどこかに持っているはずなので、絵本を読むことで、忘れかけていた感情や感覚を呼び覚ますことができます。そんな魅力あふれる絵本を、ぜひ大人にももっと楽しんでいただきたいですね。

    (2015・12・9)


    ●あわせて読みたい:『りゆうがあります』で第8回MOE絵本屋さん大賞受賞!ユーモア絵本で大人気のヨシタケシンスケさんインタビュー


    (「新刊展望」2016年2月号より転載)
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