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朝井リョウさんの『ままならないから私とあなた』の文庫版が、4月10日(水)に発売されました。
表題作のほか『レンタル世界』の全2篇が収録された一冊で、単行本からさらに一章分の書き下ろしが加わっています。
『レンタル世界』
先輩の結婚式で見かけた新婦友人の女性のことが気になっていた雄太。
しかしその後、偶然再会した彼女は、まったく別のプロフィールを名乗っていた。
不可解に思い、問い詰める雄太に彼女は、
結婚式には「レンタル友達」として出席していたことを明かす。『ままならないから私とあなた』
成長するに従って、無駄なことを次々と切り捨ててく薫。
無駄なものにこそ、人のあたたかみが宿ると考える雪子。
幼いときから仲良しだった2人の価値観は、徐々に離れていき、
そして決定的に対立する瞬間が訪れる。
単行本に、さらに一章分を加筆。少女たちの友情と人生はどうなるのか。
技術の発達により、どんどん便利になっていく私たちの生活。
「欠勤連絡はLINEに送りました」「黒板は後で写真に撮るので板書しません」「電子マネーしか使わないので現金は持っていません」10年前までは考えられなかったような考え方が、今や当たり前になりつつあります。
表題作『ままならないから私とあなた』では、そんな技術を巡り、主人公2人がすれ違っていく様子が描かれています。
無駄なことを次々と切り捨ててく薫と、無駄なものにこそ人のあたたかみが宿ると考える雪子。同じ環境で同じものを見ているのにもかかわらず、全く物事の捉え方が異なります。2人の価値観の違いは、成長につれ、どんどん浮き彫りになっていきます。
意味がないこととか、無駄なこととか、新技術で簡単に省けちゃうようなことにこそ、人間性とか、あたたかみとか、そういう言葉にすらできないような、だけどかけがえのないものが宿るような気がするの
(本書P.265より)
と長年感じてきた思いをぶつける雪子に対し、
車乗る、電車乗る、冷房も暖房も使う、スマホも使う、曲作るときだってもうパソコンで楽器の音打ち込む。自分にとって都合のいい新技術とか合理性だけ受け入れて、自分の人生を否定される予感のするものは全部まとめて突っぱねるって、そんなのずるくない?
(本書P.266より)
と、技術の良い部分だけを都合よく利用している矛盾を指摘し、強く反論する薫。
無駄が生むあたたかみを尊いと思う気持ちも、技術によって無駄を省くことを便利だと思う気持ちも、どちらか一方の主張を「正しい」と決めることはできません。
同じように育ち、幼いころから仲が良かったはずの雪子と薫であっても、全く異なる価値観を持っています。2人の決して相容れないやりとりを読んでいると、自分以外の人間と完全に分かり合うことはできないのだと痛感させられます。
「ままならない」とは、思い通りにならない、という意味。「どうしてわかってくれないのだろう」と、他人の「ままならなさ」に傷ついた経験が、誰しも一度はあるのではないでしょうか。
そして決して予定調和では終わらない衝撃の結末は、朝井リョウさんならでは。
新元号「令和」が発表され、まさに時代の変わり目を迎えているいま。新しい技術や考え方が生まれていくなかで、否応なく「それは平成(昭和)の考え方だね」と、自分自身の価値観を否定されることもあるかもしれません。
新しい価値観と出会ったとき、私たちはその「ままならなさ」とどう付き合っていくべきなのか。本書を読むと、そう問いかけられている気がします。
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