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恩田陸さんの代表作『蜜蜂と遠雷』が、ついに文庫化されました。上下巻ともに4月10日(水)に発売されます。
直木賞と本屋大賞をW受賞したことでも話題となった本作は、ピアノコンクールをめぐる群像劇です。
舞台は3年に一度の国際ピアノコンクール。世界でもトップクラスの天才たちが集まる舞台です。そんななか、一人の少年の出場が周囲に波紋を呼びます。
少年の名前は風間塵(かざま・じん)。養蜂場の息子で、家業を手伝う傍らピアノコンクールに出場しているといいます。何よりも周囲を驚かせたことは、彼に亡き偉大な音楽家であるユウジ・フォン=ホフマン氏からの推薦状があったことです。
皆さんに、カザマ・ジンをお贈りする。文字通り、彼は『ギフト』である。……だが、勘違いしてはいけない。……彼は劇薬なのだ。……彼を本物の『ギフト』とするか、それとも『災厄』にしてしまうのかは、皆さん、いや、我々にかかっている。
(本書p.45より)
この推薦状でホフマン氏が予言する通り、風間塵の演奏は審査員やコンテスタントにも影響をもたらしていきます。
かつて天才少女と呼ばれていた栄伝亜夜(えいでん・あや)。優勝候補と目される名門ジュリアード音楽院のマサル。楽器店に勤務しながら挑戦する高島明石(たかしま・あかし)。そして、養蜂場の息子でありホフマン氏の推薦する風間塵。
第1次から第3次予選、そして本選を勝ち抜き優勝するのは、いったい誰になるのでしょうか。
コンクールで演奏される曲は、ピアノ経験者でもない限り知らない曲ばかり。クラシックは苦手、と思っている方も多いのではないでしょうか。
かく言う私もその一人ですが、『蜜蜂と遠雷』はその演奏の表現がすごいのです!
たとえばこんな表現。
指から生み出されるえんえんと続くトリルとトレモロを聴いていると、ちらちらと上下しながら宙をはばたく小鳥が、ぼろをまとった青年と荒野で向き合っている姿が目に浮かんでくる。
(本書p.73より)
トリルやトレモロは、音楽の反復表現のことですが、それを知らなくとも小鳥のさえずりのような音楽が浮かぶと思います。
同じ曲でも、審査員やコンテスタント同士など、立場によって聴こえ方の表現が異なっている部分にも注目です。
構想12年、取材11年、執筆に7年と、長い時間をかけ執筆された本作は、まるでノンフィクションのようにリアルな描写が魅力。
手に汗握る緊張感や本番前の高揚感、そして夢破れる絶望感は、かつて自分が“夢中になった何か”を思わず想起してしまいます。
コンクールで優雅に演奏しているような主人公たちも、その至高の瞬間のためだけに気の遠くなるような時間を練習に費やしています。
ピアノも、音楽も、趣味も、人生に必須なものではありません。それでも本作の登場人物たちは、己の人生をかけて全力で音楽に向き合っていきます。その真摯な姿勢に「自分も頑張ろう」と背中を押される作品です。
映像化は不可能と思われていた本作が、なんと今年映画化されます。監督は「愚行録」でおなじみの石川慶監督です。
著者である恩田陸さんですら、映画化の話を聞いた当初は無謀すぎる挑戦に呆れたとインタビューで述べるほど、難しい表現が多い本作。
文章を読んでイメージしていた音楽を、映像とともに楽しめるのが映画の醍醐味ですが、どのような仕上がりになるのでしょうか。公開が楽しみですね。
▼映画「蜜蜂と遠雷」場面写真
©2019映画「蜜蜂と遠雷」製作委員会/配給:東宝
▼映画「蜜蜂と遠雷」の詳細はこちら
・恩田陸『蜜蜂と遠雷』松岡茉優主演で実写映画化!「文学の勝利」に“映画にしかできないこと”で挑む
「音が聞こえてくるような小説」といえば、これ! 昨年映画化された『羊と鋼の森』です。こちらも本屋大賞を受賞して話題となりました。
主人公の青年・外村は、高校のピアノ調律師板鳥の影響を受け、調律の面白さに目覚めます。その後板鳥の楽器店で調律師として働き始め、さまざまな人たちに出会っていきますが……。ピアノの調律によって変わっていく音が、まるで聞こえてくるかのような至高の音楽小説です。