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  • 瀬尾まいこさんが初めての書店回りで経験した「とっておきの本を読んだような気分」

    2019年04月01日
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    日販 ほんのひきだし編集部「日販通信」担当
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    『そして、バトンは渡された』で「ブランチBOOK大賞2018」受賞、「キノベス!2019」第1位獲得、そして4月9日(火)に発表される「2019年本屋大賞」にもノミネートされている瀬尾まいこさん。

    最新刊『傑作はまだ』も、発売前に重版が決まるなど話題を呼んでいます。

    そんな瀬尾さんは先日、実は「本格的なものは初めて」だという書店回りを経験されたのだそう。今回はその時のエピソードを、エッセイとしてご寄稿いただきました。

    瀬尾まいこ
    せお・まいこ。1974年、大阪府生まれ。2001年「卵の緒」で坊っちゃん文学賞大賞を受賞し翌年デビュー。2005年『幸福な食卓』で吉川英治文学新人賞、2008年『戸村飯店 青春100連発』で坪田譲治文学賞を受賞。『僕らのごはんは明日で待ってる』『あと少し、もう少し』『春、戻る』『君が夏を走らせる』『そして、バトンは渡された』(2019年本屋大賞ノミネート)など著書多数。

     

    店長、愛を語る  瀬尾まいこ

    先日、書店さんへのあいさつ回りを行った。何冊か本を出しているのだけど、本格的に書店を回るのは初めてで、行く前から楽しみだった。

    どこの書店でも温かく迎えてくださり、とても居心地が良かったうえに、今まで店頭しか見ることがなかった書店の事務所に入ることもでき、裏側を見られたようで得した気分にもなった。ただ、書店の裏は物がぎっしりで、見るからにやることが山積みの様子に、時間を割いてくださっているのが申し訳なかった。

    書店員さんは、シャイな方や朗らかな方、いろんな方がいらっしゃって、でも、みなさん本が好きだというのは共通していて、本について話される時は生き生きとしていた。

    普段、自分の本を読んでくださった人と話すことがないので、率直に感想を聞けるのもうれしかった。

    なかでもおもしろかったのは、自分が住む地元の書店に行った時だ。

    そこの店では、中央に「歓迎!瀬尾まいこ先生」と垂れ幕がつけられ、私の本が並べられた長テーブルが用意されていた。他の書店さんでは、事務所でごあいさつをしたりサイン本を作ったりで、こんな店の真ん中に堂々と場を設けられたのは初めてだ。

    「もう、瀬尾さん来るからサプライズしようとはりきったんですよー」と緩やかな口調のN店長が出迎えてくださるのに、私は「すごい!びっくりしました」とがんばって驚いた。

    実はここに来る前の書店にお邪魔していた時、N店長から、「サプライズの用意するから、瀬尾さんそこ出る時教えて」と電話がかかってきて、そこの店員さんがそっくりそのまま私にも電話内容を伝えてくださったのだ。だから、サプライズが用意されていることは薄々いや、しっかり勘付いてしまっていた。それでも、想像以上に華やかな場が設けられていて、こそばゆい気持ちになった。

    ただ、盛大な席を用意してくださったのに、一向にお客様は寄り付かず、みんな「え? このおばさん誰?」という顔で私の前を通り過ぎていくだけだった。これでは、サプライズではなく罰ゲームだ。さすがに気の毒に思ったのか、N店長は私の本を二冊も買ってくれた。

    結局、その書店では自分の名前が掲げられた前に座って一時間近く、N店長の「愛ってなんなんですかねー」「僕、奥さんがめちゃくちゃ好きなんです」という話を聞いていた。他の店員さんたちに突っ込まれながらも、奥さんへの愛を語る店長はとても愉快で、素敵だった。

    いくつか本にサインを書きその店を出るころには、なぜか新しい本を一冊、がっつりと読んだような気分になっていた。それも自分では手を出さないジャンルの、それでいてすごくおもしろい本。書店で本に囲まれていたせいだろうか。いや、きっとN店長の話を聞いていたからだ。

    「愛とはなにか」そんな論文はなかなか読む気にはならないけど、N店長が語る「愛」は、聞きごたえがあった。

    たくさんの本に触れている書店員さんと話すと、とっておきの本を読んだような気分になれる。私にとってはおしゃべりは読書より簡単で楽しいし、それはちょっとお得だ。

    また、いろんな書店員さんの話を聞いてみたい。

    【著者の新刊】

    傑作はまだ
    著者:瀬尾まいこ
    発売日:2019年03月
    発行所:ソニー・ミュージックディストリビューション
    価格:1,512円(税込)
    ISBNコード:9784789736855

    引きこもりの小説家・加賀野(かがの)の元へ、生まれて以来一度も会ったことのなかった息子・智(とも)が突然訪ねてきた。加賀野は、しばらく泊めてほしいと言う智の頼みで、会ったばかりの【息子】と一緒に暮らすことになり――。
    息子のことは何も知らない。血がつながっている、ただそれだけの関係。ただそれだけのことがこんなにも俺の心をかき乱す。
    『そして、バトンは渡された』など切なくてやさしい物語を送り出してきた瀬尾まいこが、不器用な親子の同居生活を描く笑って泣けるハートフルストーリー。

    エムオン・エンタテインメント公式サイト『傑作はまだ』より)

    (「日販通信」2019年4月号「書店との出合い」より転載)

     

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