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出版不況、なかでも「小説が読まれない」という逆境の中、売れない小説家と大手出版社の編集者を主人公に、小説の力を信じる熱い男たちの物語を描く『小説王』。
4月22日(月)よりフジテレビ系にてドラマ化され、白濱亜嵐さん(EXILE / GENERATIONS from EXILE TRIBE)が主演を務めることでも注目を集めています。
小説が世に出るまでを描いた業界ものとして楽しめるだけでなく、家族や恋愛の要素も盛り込まれた読みどころ満載の本作について、著者の早見和真さんと、編集を担当した小学館の庄野樹さんにお話をうかがいました。 (右から、著者・早見和真さん、小学館・庄野樹さん)
大手出版社の文芸編集者・俊太郎と、華々しいデビューを飾ったものの鳴かず飛ばずの作家・豊隆は幼馴染みだった。いつか仕事を。そう約束していたが、編集長の交代で、企画すら具体的にならないまま時間だけが過ぎていく。やがて、俊太郎の所属する文芸誌は、社の経営状態から存続を危ぶまれ、豊隆は生活すら危うい状況に追い込まれる。そんな逆境の最中、三流編集者と売れない作家が、出版界にしかけた壮大なケンカの行方は!?
――小説家と編集者がタッグを組んで奮闘する本作ですが、どのようなきっかけで書かれた物語なのですか?
早見 5、6年前に、庄野さんから声をかけてもらったんです。その当時、僕は伊豆に住んでいたので、上京したタイミングで初めてお会いしました。
庄野さんは今でこそこんな感じですが、当時はかなり胡散臭い風貌で(笑)。趣味を聞いたら「サーフィンです」と言われて、話すことないなあと思ったのを覚えています。
庄野 僕の第一印象が悪すぎたみたいで、その日は話が進展せず……(苦笑)。
早見 それでも「今すぐにはできないから、定期的にご連絡ください」とお伝えして。2回目に会ったときに、試しに「何を書かせたいと思ってるんですか?」と聞いたら、「小説家と編集者の話」と言われて「やっぱりないな」と(笑)。
――それはどうしてですか?
早見 僕は、お仕事小説といわれるようなものを書くつもりがなくて。しかも、デビューしてたかだか5年くらいの自分が書く小説家と編集者の物語なんて、需要もないだろうと思ったんです。
でも庄野さんはそこからが結構しつこくて(笑)、最後は「いま小学生の息子が高校生になった時に、自分の親父はこんな仕事をしているんだと思える物語を、僕は早見さんに書いてほしい」というセリフで口説かれました。
その言葉を聞いたときに、この物語の目指すべき読者がそこにいる感じがあったんですよね。それなら書いてみようかなと。
――庄野さんはなぜ、その物語を早見さんに書いてほしいと思ったんですか?
庄野 当時、僕自身が「小説編集」という仕事に倦んでいる部分があって、「出版は本当にこのままで大丈夫なんだろうか」という鬱なモードに入っていたんですね。
その一方で、早見さんの作品で僕が特におもしろいと思うのは、『ひゃくはち』とか『ぼくたちの家族』といった作品。その2作に通じるような、「早見さんが自分に近しい世界を描いたら絶対にうまくいく」という確信がありました。
早見さんは出版社の編集部でバイトしていたこともありますし、ライターの経験もある。ぜひ業界のことを書いてほしかったんです。
早見 もう一つのきっかけとなったのは、僕が編集者に対してかなり「求めるタイプ」だということ。編集者は僕にとって必要不可欠な存在なのですが、そんな面がデビュー5年の小説家としては珍しいタイプとして捉えられていて。それならその部分をむき出しにして書いてみようかなと思いました。
――『小説王』は、デビュー作は話題となったものの、その後くすぶっている作家の豊隆と、彼の才能を信じる、幼なじみであり編集者の俊太郎が、厳しい出版状況の中、何としても作品を世に出そうと奮闘する物語です。
創作の裏側を読む楽しみがありましたが、実際の執筆や編集作業はどんなふうに行なわれたのですか?
庄野 本作に内山という先輩作家が出てきますけれど、彼と編集者のやりとり同様、アイデアフラッシュはものすごくしましたよね。ひたすら「どう思う?」と早見さんに質問されて、全部しゃべりましたし。
――内山は編集者に、「俺のためだけに時間を使え」と要求するタイプの作家ですね。エピソードなどもリアルなため、モデルがいるのではないかと気になりました。
早見 この本は特にいろんな人に聞かれたのですが、僕の小説には基本的にモデルはいないんです。
『小説王』には普段僕が思っていることばかりを書いていて、それはこれまでたくさんの人と付き合ってきた中で生まれたもの。なので、多分僕と関わりのある出版人は、どこかしらに出てきているんだと思います。そのせいか、「僕、出てきたね」と言ってくれる人が周りにたくさん現れたんですが……。
――必ずしもそうではないと(笑)。ただ、「みんなが当事者だと思える作品」という意味では本作の内容ともぴったりですね。
庄野 『小説王』を読んで、全早見担当の編集者が感動して泣いていますからね。
――豊隆と俊太郎は作品に全力で向き合うのはもちろん、その作品を多くの人に届けるため、業界内外の人を巻き込んで、いわば“営業”面でも仕掛けていきます。
本当に大切なものを突き詰めていくと、戦い方が見えてくる。その過程にもワクワクさせられました。
早見 特に意識して書いたわけではなかったのですが、いわれてみればそうかもしれませんね。
僕はいま愛媛の松山に住んでいて、そこである“戦い”をしています。
松山は“文学のまち”を標榜しているのですが、僕はそれをあまり実感できていなくて。自分が作家として働きかけることで、そう感じられる何かを生み出せるんじゃないかと思っているんです。
そのひとつとして、地元紙の「愛媛新聞」に「かなしきデブ猫ちゃん」という童話を連載しました。絵は愛媛出身の絵本作家である、かのうかりんさんに描いていただき、デブ猫ちゃんは、愛媛銀行のキャッシュカードのキャラクターになっています。
FM愛媛で番組を持たせてもらっているのもその一環。「明日学校に行きたくない」という中学生がいたなら、「無理しなくてもいいから、その代わり明日からこの本を読んでみたら」と伝えられる場を持っていたいからです。
――本作にも小説に対する熱い思いはあふれていますが、早見さんのその原動力はどこから来るのでしょうか?
早見 僕は昔から、「物語をないがしろにしているから世の中が息苦しいんだ」という持論を持っています。
登場人物の誰かに自分を投影して読むことは、自分以外の人間やその人生を想像することだと思うんです。日々読書をすることで、みんなが他者を思いやることができたら、それは優しい世界になりますよね。
だからこそ物語はすごく有効だし、己との対話が深められるという意味で、小説に勝るものはないと思っています。
僕が挑戦し続けることで、少しでも物語を通して「優しいまちづくり」を実現することができたなら、それは『小説王』を書いたことの延長線上にあるといえるかもしれません。
――今回のドラマ化では小説家の豊隆を白濱亜嵐さんが演じますね。
早見 キャスティングを聞いてから、白濱くんのインタビューを読んだり映画を観たりしたんですけれど、生命力のある感じが印象的でした。実際にお目にかかってみると、志のある役者さん。自分とはかけ離れた世界で戦っている方なので、そこで新たなシナジーが生まれればいいなと思いました。
小説家にしては、ちょっとマッチョすぎるんですけどね(笑)。
――編集者の俊太郎役は小柳友さんが、ヒロインの晴子役は桜庭ななみさんがつとめます。熱い男たちの物語である本作ですが、豊隆のファンであり、彼を支えていく晴子や俊太郎の妻・美咲など、女性たちの颯爽とした生き方も印象的ですね。
早見 『小説王』は技術として“熱い物語”を書こうと思った作品なので、なおさら女性をちゃんと描かなきゃいけないなと。「この人たちがかっこよく生きようとするならばどうするかな」と考えました。
豊隆と同じように、僕もデビュー作の『ひゃくはち』で「女が書けていない」という指摘を受けたんです。それまで「わからないのはお互い様」と思って生きてきたけれど、そこで初めて女性をわかろうとし始めた。
本作は、作家になって女性との向き合い方が変わった僕の、一つの集大成にしたいと意識した作品でもあります。
庄野 『小説王』はことのほか読んでくれた女性からの評価が高いんですよね。ぜひドラマとあわせて、女性にも多く手に取っていただきたいです。
――ドラマに先駆け、コミカライズもスタートしています。
早見 大沢形画さんという女性作家が描いてくれているんですけれど、すごくいいです。
ドラマも漫画も、もちろん原作も、それぞれの媒体を生かした表現になっているし、それぞれに関わるみなさんが原作を大事にしてくださっているので、幸せなメディアミックスだと感謝しています。その作品に、多くの人が触れてくださるとうれしいですね。
2019年4月22日(月)よりフジテレビ系にて放送(30分×全10話)
※FODにて地上波と同日配信。アジア圏でも同日配信予定。
出演:白濱亜嵐、小柳友、桜庭ななみ ほか
原作:『小説王』(早見和真著/小学館刊)
スタッフ:
エグゼクティブプロデューサー:久保田哲史(フジテレビ)
チーフプロデューサー:清水一幸(フジテレビ)
プロデュース:中野利幸(フジテレビ)、中山ケイ子(FCC)
協力プロデュース:木沢基(フジテレビ)
制作著作:フジテレビ
早見和真 Kazumasa Hayami
1977年、神奈川県生まれ。2008年『ひゃくはち』でデビュー。同作は映画化・コミック化されベストセラーに。2014年『ぼくたちの家族』が映画化。2015年『イノセント・デイズ』で第68回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞。他著に『ポンチョに夜明けの風はらませて』『95 キュウゴ―』『神さまたちのいた街で』などがある。
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