'); }else{ document.write(''); } //-->
ふとしたきっかけで過去に刊行された本が猛烈にほしくなり、近くの書店で検索するが在庫はない。足を運べる範囲の大型店に電話で問い合わせてみてもやはり在庫なし、「取り寄せすら難しい」と言われてしまう。
こうなったら最後の手段だとECサイトで調べても、新品の取り扱いはすでになく、出品されているのは中古のみ。──そんな経験をしたことはありますか?
電子書籍でも中古本でもなく、新品の紙の本を手に入れたい。そもそも10年も前の作品となると、電子書籍版が配信されていること自体が多くありません。
できればぜひ、一刻も早く再販してほしい……! 今回は、そんな【面白いのに超入手困難な小説】を4作ご紹介します。
今回紹介する4作には、参考までに「入手難度」という指標を添えてみました。
これは「Amazonにおける中古本の最低価格」および「約3,000書店の直近3年間の売上」(※日販 オープンネットワークWIN調べ)をもとに、筆者が独自に評価したものです。
ちなみに売上は、最低で0冊、最高でも5冊でした。いかに“市場にない”状態かが、おわかりいただけるかと思います。
舞台は、おそらく日本。現実とは大きく異なる歴史を辿ったと思しきその地では、相次ぐテロによる奇病や食糧難で、いつ人々の生活が破綻してもおかしくない極限状態が続いていました。
国はテロ実行犯と思しき「テロリン」を排除せよと扇動し、疑わしい行動をとれば民衆に問答無用でリンチされるのが日常の一部に。
それだけでも酸鼻をきわめる状況ですが、本当の地獄が展開されるのは、テロリンが潜んでいるとされる「大陸」に、志願兵となった主人公が渡ってから。
ネタバレになってしまうためくわしくは書けませんが、大陸で完成間近だという究極兵器「神充」の真実や、人々が殺戮されていく場面のグロテスクさといったらありません。映像ならともかく、活字を読んでいて本から目を背けたくなるという貴重な経験を読者に提供してくれる稀有な小説です。
もちろん、スプラッタ描写ありきでは決してなく、狂気とグロテスクの骨頂でこそ際立つ「人間の生死・情念」が丹念に描かれており、エンタメと純文学の領域を横断するハイレベルな戦争小説です。
「フォギー」ことジャズ・ピアニストの池永希梨子は演奏中に不思議な感覚にとらわれた。柱の陰に誰かいる……。それが、時空を超える大冒険旅行の始まりだった。謎の音階が引き起こす超常現象に導かれ、フォギーはナチス支配下、1944年のドイツへとタイムスリップしてしまう――。(文庫版裏表紙より引用)
著者の奥泉光さんは、フルートを吹くジャズ演奏家としての一面も持っており、時折自らセッションイベントに出演もしています。『鳥類学者のファンタジア』は、そんな奥泉さんのジャズ愛が全編にみなぎるSF冒険長編。とはいえ、ジャズに明るくなくとも十二分に楽しめる魅力ある作品です。
たとえば、遊び心たっぷりで自意識過剰な語り口。長く激しいうねりとともに続く文章は、どことなくジャズの旋律に似てとにかく自由自在です。
うだつの上がらないジャズ・ピアニストの希梨子と、しっかり者の弟子・佐知子の凸凹コンビも微笑ましく、ふたりの行く先を見守ってあげたくなります。
これに「タイムスリップ」「歴史ロマン」「オカルト」などいろいろな要素が交じり合っており、独特の世界はきっと読者を虜にしてしまうでしょう。
ある町が突然、目の見えなくなる伝染病におそわれた。視界が真っ白になる病気。政府はただちに患者たちの隔離をはじめる。収容所では、失明者たちの本性がむきだしになり、地獄絵のような世界がおとずれる。途方もない不条理な場面であらわれる人間の弱さと魂の力が、圧倒的な空想力と美しい旋律で描かれる。
(NHK出版公式サイト『白の闇』より)
著者 ジョゼ・サラマーゴさんは、2010年に亡くなったポルトガルの作家で、1998年にはノーベル文学賞を受賞するなど世界的に高い評価を受けています。
本作『白の闇』は、「ブラインドネス」のタイトルで2008年に映画化されており(日本・ブラジル・カナダ合作)、ジュリアン・ムーアさん、マーク・ラファロさんといったハリウッドスターと、木村佳乃さん、伊勢谷友介さんの共演でも話題になりました。
ノーベル文学賞作家というと面白さより「難解そう」というイメージが先行するかもしれませんが、本作は大雑把にいえば「感染パニックもの」。ゾンビこそ登場しないものの、失明する謎の病が伝染し、徐々に拡大して街が混乱に陥っていくようすは「バイオハザード」などの作品を彷彿させます。
一度ページをめくりだすと止まらない読みやすさが特徴。外国文学というととっつきにくいかもしれませんが、純粋にエンターテインメントを楽しむ気軽な気持ちでぜひ読んでみてほしいです(新品を入手するのはかなり難しいと思われますが……)。
全米図書賞受賞作。『ホワイト・ノイズ』は、ジャック・グラドニーと彼の4番目の妻であるバベット、4人の現代っ子な子どもたちが、ブランド名偏重の消費社会の喧騒を背景に、波乱万丈な暮らしを送る物語である。
とある産業事故によって「空媒毒物事件」が発生し、化学物質で出来た致死性の黒い雲が一家の命を脅かす。その恐るべき雲は、無線通信、サイレン、マイクロ波、超音波装置、やかましいテレビの雑音を飲み込む「ホワイト・ノイズ」よりさらに緊迫し、かつ目に見えるものであり、そのうえ何か不吉なものを暗示している。
原文)Winner of the National Book Award, White Noise tells the story of Jack Gladney, his fourth wife, Babette, and four ultramodern offspring as they navigate the rocky passages of family life to the background babble of brand-name consumerism. When an industrial accident unleashes an “airborne toxic event,” a lethal black chemical cloud floats over their lives. The menacing cloud is a more urgent and visible version of the “white noise” engulfing the Gladneys-radio transmissions, sirens, microwaves, ultrasonic appliances, and TV murmurings-pulsing with life, yet suggesting something ominous.
(ペンギンランダムハウス公式サイト掲載内容を翻訳)
アメリカにおける最重要作家の一人とされる、ドン・デリーロさん。その存在感は、選考過程が50年間開示されないため「誰が候補になっているか」すら分からないにもかかわらず、「ノーベル文学賞最有力」と長年言われ続けているほどです。
「太陽と死は直視できない」と、フランスのモラリスト、ラ・ロシュフーコーは言いました。私たち人間はいつの日か自分の身に死が訪れることを知っていますが、普段の生活ではそれをあまり意識しません。ニュースで報道される災害や事故を見ても、他人事のように感じてしまうことは誰にだってあるでしょう。
ですが、『ホワイト・ノイズ』の主人公の妻・バベットは、常に死の恐怖に苛まれており、脳を麻痺させて死の恐怖を取り除く薬物に手を出してしまいます。また主人公のジャックも、事故によって発生した毒物を体に浴び、差し迫ったものとして死を恐れるようになります。
そして“死の恐怖”を克服するために彼が取る行動は、痛烈な皮肉、あるいは人間社会への風刺とも受け取れ、読者の心に暗くもやもやとした何かを残すのです。
*****
書籍は毎年8万点前後の新刊が発行されていますが、それらが「いつまで手に入れられるのか」はわかりません。
重版は当たり前のことではありませんし、順調に売れて版を重ねていた作品にも、ピークを過ぎて重版されなくなり、そのまま市場から姿を消してしまう本がたくさんあります。
しかし、そんななかにも面白い本が存在するのもまた事実。今回ご紹介した4作は、あくまで氷山の一角です。
今は紙の本として手もとに置くのが難しいかもしれませんが、これらの本に目を向けることで、人生が今より少し充実したものになるかもしれません。