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  • 「鳥山明先生は僕を“不登校の子”として見なかった」『学校へ行けない僕と9人の先生』著者・棚園正一さんインタビュー

    2019年03月24日
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    日販 ほんのひきだし編集部 芝原
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    2015年に発売された『学校へ行けない僕と9人の先生』(双葉社)という漫画が、今ふたたび注目を集めています。

    学校へ行けない僕と9人の先生
    著者:棚園正一
    発売日:2015年02月
    発行所:双葉社
    価格:815円(税込)
    ISBNコード:9784575845822

    『学校へ行けない僕と9人の先生』は、著者・棚園正一さんが自身の実体験をもとに描いた作品。

    不登校だった小学校~中学校時代の日々が「9人の先生」との交流を軸に描かれており、“9人目の先生”として登場する鳥山明さんが、巻末に1,600字超のコメントを寄せていることでも発売当時大きな話題を呼びました。

    再ブレイクのきっかけは、昨年10月末に棚園さんのインタビューがネットメディアに掲載されたこと。発行元の双葉社にも注文が殺到し、それから現在までに4度重版が行なわれています。

    今回はそんな『学校へ行けない僕と9人の先生』について、棚園正一さんにメールインタビューでお話を伺いました。


    棚園正一(たなぞの・しょういち)/漫画家
    漫画家。1982年生まれ、愛知県出身。著書に自身の不登校経験を描いた『学校へ行けない僕と9人の先生』(双葉社)がある。「ビッグコミックスペリオール」(小学館)で連載された、「病院訪問教育」がテーマの漫画「マジスター 見崎先生の病院訪問授業」(原作:山本純士)の単行本が3月29日(金)に発売予定。



    『学校へ行けない僕と9人の先生』を描いたきっかけ

    ――ご自身の不登校の経験を漫画にしようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?

    もともとは担当編集さんが、打ち合わせで「棚園さんの過去の不登校時代を描きましょう!」と勧めてくれたのがキッカケです。当時は“コレでいける!”なんて確信もなく、誰に向けて描くという、具体的なイメージもありませんでした。

    ――『学校へ行けない僕と9人の先生』という印象的なタイトルは、どのようにして決まったのでしょうか?

    担当編集さんと候補を出し合い決めたものです。はじめに自分が提案したタイトルは「月はチーズの蓋(フタ)のよう」でした。

    学校へ行っていない当時、夕方の空に浮かぶ月をジッと眺めていると月が円形チーズの箱の蓋のように見えたんです。学校へ行けていない負い目もあり、その時間帯しか外に出られなかったという意味も含めて。自分では気に入っていたのですが、分かりにくいと(笑)。

    その後、提案したタイトルが「学校へ行けない毎日」。でもインパクトが弱いと。それで各話のタイトルが先生の名前になっていたので、それを使って『学校へ行けない僕と9人の先生』となりました。

    ――子ども時代の出来事や先生・友人との人間関係、少年の心情などが詳細に描かれており、とてもリアリティがあります。当時の日記やメモのようなものがあったのでしょうか?

    メモなどはなく、記憶で描いています。当時のことは、その時に感じた空気感や匂いなど、とても鮮明に覚えています。きっと、最近のことより覚えています(笑)。

    執筆中は、油断するとポエム調になりそうだったので(笑)、分かりやすい台詞で、とにかく正直に!描くように心がけました。

     

    当時は“学校へ行けない自分”という現状で頭が一杯だった

    ――作中には、少年が出会った学校の担任や塾の先生たちが登場しますが、いい先生ばかりではなく、なかには暴力を振るう先生や、無神経な先生、強引すぎる先生も。そんな先生たちに少年が怒っているように見えないのが気になりました。私は、読んでいて先生に腹が立つことも多かったのですが……

    当時から周りの人たちへの怒りや恨みは、ほとんど持っていません。それよりも“学校へ行けなくなってしまった”という、自分の現状で頭が一杯でした。

    自分が大人になった今では、「ついつい、そう言ってしまった。そんな行動をしてしまった」という先生たちの気持ちが分かります。

    現在私は、専門学校や絵画塾で講師の仕事もしており、生徒さんに対して、こちらの想いだけをぶつけてしまって反省する時があります。もちろん仕事だけではなく、普段の人間関係についても同じです。

    このような経験をしているからといって、自分は間違えない、上手くやれている、ということはありません。反省、勉強の繰り返しです。

     

    「鳥山明先生は僕を“不登校の子”とは見ていなかった」

    ――棚園さんは偶然の縁で中学生のときに“9人目の先生”である鳥山明さんに出会い、世界の見方を大きく変えています。鳥山さんについては、小学生の頃から『ドラゴンボール』を模写するくらい大ファンだったそうですね。

    もともとジャンプっ子だったので、「週刊少年ジャンプ」の漫画は、ほとんど好きでした。その他の漫画を圧倒するほど、飛び抜けて『ドラゴンボール』が好きでしたが(笑)。

    ――鳥山さんとの出会いの何が心に刺さったのでしょうか?

    当時、いろいろな大人たちが家に来てくれましたが、みんな当たり前ですが、僕を“学校へ行っていない子”として接していました。鳥山先生は僕を“不登校の子”とは見ていなかったと思います。ただ“近所の漫画好きな少年”だと。

    何気ないことかもしれませんが、その関係は当時の僕には、とても新鮮でした。

    ――『学校へ行けない僕と9人の先生』に関して、構想段階では鳥山さんに相談したのでしょうか?それとも、完成してからお見せしたのでしょうか。

    ネームを描き始めた時、「こんな漫画を描いてるんですよー」ということは、お会いした時に話したことはありましたが、作品自体はネームが全て描き終わった時に見てもらいました。鳥山先生は僕の目の前で1話からラストまで一気に読んでくださり、「君にしか描けない漫画になってる。よく描けてるね」とおっしゃってくれました。

     

    “フツウじゃない”ことへの考え方の変化

    ――主人公の場合は、勉強や人付き合いなど、みんなが“フツウ”にできることがうまくできないことへの焦り・負い目が、不登校につながったように思えます。無理に“フツウ”にならなくてもよいと考えられるようになったきっかけは、鳥山さんとの出会い以外にも何かありますか?

    中学校を卒業後、専門学校、定時制高校中退、大検予備校など、いろいろな人たちと関わるようになる中で、自分の価値観が少しずつ変わっていきました。特に定時制高校、大検予備校にはいろいろな環境、考え方の人たちがいましたから。

    大学の頃には「学校へ行けない、フツウじゃない負い目」なんて忘れていました。

    ――今はもう人と自分を比べて負い目を感じることはないですか?

    いろいろな経験を重ねる中で“人と違うのが当たり前”ということを知りました。それでも上手くいかないことがあると、ついつい今でも人と比べてしまいます(笑)。

    それでも今は“人と違うのが当たり前”ということを知っているから、落ち込みはしますが、すぐに持ち直して頑張ろう!って思えます。

     

    「悩んだ経験は、必ず後々の人生を生きる大きな力になる」

    ――『学校へ行けない僕と9人の先生』について、ご両親の反応はいかがでしたか。

    両親には第7話のみ、ネームの時点で読んでもらいました。「育て方を間違った」という父の台詞がある回です。担当編集さんが「これは原稿にする前にご両親に読んでもらった方が良い」と言ってくださって。

    その上で両親は「好きなように描いて良い」と言ってくれました。完成した単行本も、もちろん読んでくれています。この作品が多くの方々に読まれていることを喜んでくれているようです。

    ――作品が世に出て、読者からはどのような反響がありましたか?

    「勇気をもらった」「背中を押してもらった」「子どもの気持ちを知るキッカケになった」という反応が多いです。

    僕は正直、「苦しんでいる誰かのために」なんてことは、描いている当時、考えてもいませんでした。ひたすら「単行本を出す」という自分の夢を叶えることで必死でした。

    完成した作品について、そのようなたくさんの言葉をいただいて、僕のほうが、はじめに思い描いていた夢以上のものをもらいました。

    とても感謝しています。

    ――いま、お子さんが不登校状態にある親御さんに、アドバイスするとしたら?

    親御さんは必死で答えを探しておられると思います。あくまで僕個人の意見ですが、解決法に「こうすればこうなる」「ああすればこうなる」など、その子に完璧に当てはまる説明書があるわけではなく、さまざまな試行錯誤を繰り返して、道を模索する時間こそが、その人、その家族だけの答え、後々の人生においての糧へと繋がると思っています。

    焦らずに見守りつつ、子どもさんと一緒に過ごす時間が大切ではないかと感じています。

    ――不登校はもちろん、現在生きづらさを抱えている子どもたちはたくさんいます。「学校に行けなかった毎日は宝物」と作中でおっしゃっている棚園先生が、子どもたちにアドバイスするとしたら?

    「この苦しみ、悩んでいる時間は無駄なんじゃないか?」と渦中の時は思いがちです。そして誰の言葉も耳には入らなくなっていきます。でも、それだけ苦しんだ分、悩んだ経験は、必ず後々の人生を生きる大きな力になります。無駄なんてひとつもないんだから。これでおしまいだなんて卑下せずに将来の自分を楽しみにしてほしいです。

     

    漫画への思い、読者へのメッセージ

    ――漫画との出会い、関わりが、先生の人生を大きく動かしています。ご自身にとって、漫画はどのようなものでしょうか。

    もう自分にとっては漫画を描くことは息をするのと同じぐらい当たり前のことになっています。もともと学校へ行っていない代わりのアイデンティティとして漫画を描き続けていた部分もありました。

    なので、上手くいかない時は、その分、自分の価値がなくなったようで苦しんだりもしますが、大人になり、周りの人たちを知り、少しずつ自然な付き合い方ができているような気がします。上手くいかない時の苦しさも含めて、僕の人生を充実させてくれた生きがいです。

    ――この本をどんな人に読んでほしいですか。これから漫画をご覧になる方へのメッセージを。

    この漫画は自身の不登校経験で感じた気持ちが中心になっています。ただ改めて読み返すと、大人になった僕は両親側の気持ちも、先生側の気持ちも、子どもの頃より、ずっと分かるようになりました。そこで感じる気持ちは不登校に限らず、大人になった今の社会生活でも共通する部分があることに気づきます。自分のことばかりで相手のことが思いやれず失敗、なんて経験・・・皆さん当たり前にあると思うんです。

    不登校をしている本人、その親御さん、教育関係者の方々はもちろん、なんだか上手く生きられないなー、なんて感じている全ての方々に読んでいただけたら嬉しいです。

    学校へ行けない僕と9人の先生
    著者:棚園正一
    発売日:2015年02月
    発行所:双葉社
    価格:815円(税込)
    ISBNコード:9784575845822

    マジスター
    著者:山本純士 棚園正一
    発売日:2019年03月
    発行所:小学館
    価格:650円(税込)
    ISBNコード:9784098602551

    ©棚園正一/双葉社




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