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高橋一生さんの恋愛映画初主演作、そして川口春奈さんとのダブル主演として話題の映画「九月の恋と出会うまで」が、3月1日(金)より公開中です。
ほんのひきだしでは映画の公開を記念して、絶版状態にあった原作小説を復刊から18万部の大ヒットに導き、映画化のきっかけを作った“仕掛け人”のお二人を取材。
インタビュー後編では、「復刊」にフォーカスしてお話を伺います。
(写真左から)
谷藤甫:双葉社 営業局第二営業部所属。2008年の入社以来、書店営業を担当。
栗俣力也:TSUTAYA書店員。また書籍プロデューサーとして、数多くの新刊、絶版、既刊作品を現場の目線からヒット作へ導き注目を集める。
――お話を伺っていると、お二人はまさにツーカーの仲という感じですね。
谷藤:初めて会ったのは、もう7~8年前ですかね。自分がTSUTAYA BOOKSTORE有楽町マルイの担当になって、ご挨拶したのが栗俣さんとの出会いです。
当時から、栗俣さんのお店はすごくおもしろかったんですよ。新刊中心じゃなくて、栗俣さんがおもしろいと思った本をドーンと積み上げるような、まさに“栗俣棚”という感じで。
栗俣:向かいにあった三省堂さんがすごく大きかったので、「新刊は三省堂さんで買う」というお客さんが多かったんです。
だからうちは、新刊・既刊関係なく「本当におもしろいもの」をしっかり推すしかないなと。
文庫の新刊って日々たくさん出ているので、全部フォローすることなんて誰もできない。だからお客さんからすると、いつ発売されたかは関係なくて、「お店で出会った時が新刊」なんですよ。
「おもしろいもの」を推すのに、新刊にこだわる必要なんてないんです。そこを突き詰めていったら、あんな店になってしまった(笑)。
――「出会った時が新刊」というのは、まさに復刊にも当てはまる話ですね。ちなみに、お二人が最初に手がけた復刊作品は何だったのでしょうか?
谷藤:お店に伺って3回目くらいの時、栗俣さんが「おもしろい作品があるんだけど、絶版で手に入らない」という話をしてくれたんですよ。
「笹沢左保さんの『どんでん返し』という本で、全編ト書きなしの会話だけで話が進んでいくんだ」と聞いて、栗俣さんが推しているということもあるし、絶対おもしろいに違いない」と思って。
それで、その場で「うちで復刊します!」って言っちゃったんですよ。まだ読んでもないのに(笑)。
栗俣:売り場で相談してみたら、まさかの即答で(笑)。
谷藤:そのままの勢いで会社に戻って、上司に「こういうおもしろい本があるから、うちから出しますよ!」って宣言したら、「まず読んでからにしようよ」って言われました(笑)。
「それはそうだな」ということであらためて読んだら、期待以上におもしろかった。それで正式に双葉社で復刊することを決めました。
まずは版権を取りに行って、栗俣さんのイメージを聞きながら新しい装丁をデザインし直して。「たぶんこういうことを求めてくるだろうな」と想像しながら、栗俣さんが自分に憑依したみたいな気持ちで作業を進めたのを覚えています(笑)。
栗俣:『九月の恋と出会うまで』もそうでしたけど、双葉社さんって、装丁のイメージを伝えると、自分が思っているものがそのままポンって出てくるんですよ。
谷藤さんがお店の担当だったのは有楽町の時だけなんですけど、それ以降も仕掛けたい作品がある時は、いつも谷藤さんに相談してますね。たくさん本を読んでいらっしゃるだけじゃなくて、ちゃんと商売っ気もあるので、頼りにしています。
――『どんでん返し』の表紙、かなりインパクトがありますよね。
栗俣:今でこそこういう表紙は増えてますけど、当時は「黒と赤だけの表紙をやるなんて何事か」という時代でしたよね。
谷藤:編集者って、当然のことなんですが装丁を凝りたがるんです。 この時も「表紙に文字だけでいいのか」「色使いが赤黒黄って下品じゃないか」みたいな意見が編集サイドからありましたが、「だからこそ目立つんだよ」って説得して回りました。
栗俣:みんな売ろうとすると、いろいろ足し算したがるんですけど、実は情報量って少なくするほど、人の心にストンと落ちやすいです。
自分は店頭で黒いバックに赤文字でバーンとコピーを書いたPOPを何度か試していて、「これで仕掛けると売れるぞ」という確証はありました。
谷藤:『どんでん返し』もTSUTAYAさん以外の書店さんにも案内したんですけど、「これは絶対売れるでしょ」という声が多くて、全国から問い合わせが殺到しました。
結局この時復刊した『どんでん返し』は、累計で9万部まで行きました。
栗俣:現場にいる書店員さんには、このデザインは売り場で映えるのがわかったんでしょうね。
――『どんでん返し』の著者・笹沢左保さんの作品は、双葉社さんでもその後いくつか復刊されていますよね。
谷藤:復刊プロデュース文庫の第3弾で『セブン殺人事件』、第11弾で『人喰い』を復刊しました。
最近他の出版社でも笹沢さんの復刊が進んでますよね。
栗俣:笹沢さんの復刊の相談はよく来ますね。
笹沢さんは昔から大好きな作家さん。こうやって過去作が復刊されるのは、とてもありがたいです。
笹沢さんはTVドラマ化もされた『木枯し紋次郎』シリーズをはじめとして時代小説のイメージが強いからか、ミステリー作品は絶版が多くて、ほぼ手に入らなくなっていたんですよ。
笹沢さんの作品がもう1回読者の目に触れる機会を作れたのは、一人のファンとしても書店員としても嬉しくて。
谷藤:いまの50代以上の男性には、笹沢さんってドンピシャなんですよ。若い頃に読んでいた方が、本屋さんで久々に見かけてまたハマるという。
栗俣:でも、笹沢さんって実は今の時代にもマッチしていると思っているんです。この方の文章って、難しい表現は使わず、ちゃんと伝えることは伝える。シンプルで非常に読みやすい文章なんですよ。今、ネットで小説を読んでる人にも読みやすいと思います。
――中高年の方にウケている笹沢さんの小説が、 ネット発の“なろう系”作品を読んでいるような若い人たちにも向いているということですか?
栗俣:まさにそうです。ライト文芸と呼ばれている作品は、情景描写がシンプルで、さらさらと読みやすいものが多い。そういった文章に親しんでいる人たちにも、笹沢さんは向いているんではないかと。
――なるほど。
栗俣:僕から見ると、ミステリーにしてもいわゆる文学的な作品にしても、今の若い世代にとっては説明が多すぎると思うんです。もちろん作り手としては必要なのだと思いますが、読み手としては本筋がよくわからなくなってしまうんじゃないかと。
谷藤:笹沢さんの文章って、細かい描写がなくても、情景が浮かぶんですよね。そこが文章のうまさなんですよね。