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―― もとの表紙と復刊後のものをあらためて見比べると、雰囲気がかなり違いますね。
栗俣:前の表紙ももちろん素敵ですが、せっかく今のタイミングで復刊するなら“今”に合ったデザインで、もっと若い世代に刺さるようにしたかったんです。当時は中村佑介さんが装画を手がけた作品がすごく売れていて、まず手に取りやすいのはこういう感じだなという考えがありました。
谷藤:栗俣さんのイメージを伺いながらイラストレーターさんを探して、最終的に坂本ヒメミさんにお願いしました。
―― どんなイメージをお持ちだったんですか?
栗俣:「横顔を描いたイラストで、メインは女性キャラ。男性キャラの顔ははっきり描かないほうがいい」みたいなことを伝えましたね。実際に店頭でお客様に話を聞いてみたりするんですが、男性読者より女性読者のほうが、すごく細かいところからも情報を受け取っているんですよ。なので、顔を具体的に描くと読者を狭めてしまうんです。
▼復刊した『九月の恋と出会うまで』の表紙
谷藤:イメージをつけないほうがいいってことなんですね。自分で想像できる余地が残っているくらいの表紙がいい。
栗俣:男性の場合は逆に、はっきり描かれたイラストのほうが売れるんですよね。表紙の女の子が今流行りの絵でかわいく描けているなって思う本は売れます。店頭で見てると面白いですよ。女性は本を手に取って、じっくり見てから決める。男性はぱっと見て、すぐにレジに持っていく。まさに自分もそうなんですけど。
―― そんなにはっきり分かれるんですね。
栗俣:売り場での展開の仕方も、ターゲットが男性か女性かで違うんです。『九月の恋と出会うまで』は女性がターゲットだったので、棚のゴールデンゾーンで展開するようにお店にはお願いしました。普段自分が推したい本は、ほとんど平台で展開するんですけど。
―― なぜですか?
栗俣:お客さんの目線を見るとわかるんですが、男性って下を向いて平台を眺めながら移動してるんですよ。でも女性は、あまり平台を見てないんです。平台じゃなくて棚の、立ってまっすぐ視線がぶつかるところに商品を並べたほうがいいなと思いました。
―― 本の外見を変えるだけじゃなくて、売り場での工夫もヒットの要因だったんですね。
栗俣:そうですね。「復刊プロデュース文庫」第1弾ということで思い入れも強かったので、発売後は全国のTSUTAYAを回って、売り場の担当さんと「こういう感じにしたほうがいいかも」と個別に話し合ったりしていました。
谷藤:ちなみにこのプロジェクトはTSUTAYAさんの企画なんですけど「全国の書店様でも展開して、そこからも火をつけよう」というふうに最初から話されていたんですよ。だから双葉社としても、TSUTAYAさん以外の書店さんの旗艦店にも協力していただいて、しっかり店頭でアピールしてもらいました。
栗俣:うち以外も巻き込んで盛り上げたかったんです。業界全部が盛り上がるっていうのが、一番幸せな形なので。
谷藤:心おきなく全国で売らせていただきました(笑)。『九月の恋と出会うまで』の文庫は初版3万部からスタートしたんですが、最初から売れ行きがよくて発売5日で重版が決まりました。
今では文庫が累計18万部、先日出た上下巻のコミカライズ版が5万4千部で、あわせて20万部突破しているんですよ。これは復刊した作品としては聞いたことがない数字です。
栗俣:先日ある試写会で映画のプロデューサーさんと対談イベントをさせていただいたんですけど、試写を見に来てくださった人に「映画になる前から読んでた人」って聞いてみたら、手を上げていただいた方が何人もいて。
主催者のスタッフの方と話をした時も、今回映画になったから文庫を手にとったのではなくて、それ以前に、「学生の頃読みました」みたいな人が多かったんですよ。
ちゃんと店頭で気がついて、本を買ってくれている。しっかり当たったなあという感じで感慨深かったですね。最近映画化で本を売るみたいなところがありますけど、ちゃんと本が話題になって、それが映画化に繋がった。
ちなみに、TSUTAYAのTカードのデータで見てみると、2009年に出た最初の文庫の時の購買層は40代、 50代の女性が中心なんですよ。でも、装丁を変えて出した2016年に復刊した文庫は、まさに狙った通りに10代、20代の若年層の女性が買ってくれてます。おじさんたちが仕掛けて、若い女の子たちが買ってくれた感じですね(笑)。
谷藤:ほんとですね。我々にも女子の心があるのかもしれません(笑)。
栗俣:本当に本ってタイミングが大事だなって思いますね。出すタイミングによって、作品が生きるか死ぬかみたいなのが決まってしまう。
これ書店員で集まって喋ると必ずでる話なんですけど、つまらない本ってないんですよ。売れる本と売れない本があるだけなんです。
谷藤:そういう意味で、『九月の恋と出会うまで』は、本当にいいタイミングでやれましたよね。
栗俣:店頭にいるとすごい分かるんですよね。今こういうトレンドが来てるって。本の内容とか装丁とか。
復刊した作品って、実はすごい売りやすいんです。どうしてかというと、時代のトレンドを見据えた上で、内容がトレンドにあっていて、しかもおもしろいと分かっている作品を、そこにぽんって置きにいくことができる。新刊だとそれは難しいんです。
『九月の恋と出会うまで』は、内容のおもしろさには絶対の自信があったので、今っぽい装丁に変えて、タイムリープブームに当てに行ったら、期待通りに売れてくれたという感じですね。
(後編につづく)
▼公式フォトブック、コミカライズ版も好評発売中!
3月1日(金)全国ロードショー
出演:高橋一生、川口春奈、浜野謙太、中村優子、川栄李奈、古舘佑太郎、ミッキー・カーチス ほか
監督:山本透
原作:松尾由美『九月の恋と出会うまで』(双葉社)
配給:ワーナー・ブラザース映画
http://wwws.warnerbros.co.jp/kugatsunokoimovie/