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文庫書き下ろしシリーズ「羽州ぼろ鳶組」で人気を集め、平安時代を題材とした『童の神』が第160回直木賞にノミネートされるなど、歴史・時代小説の双方でもっとも旬な書き手の一人として注目される今村翔吾さん。
そんな今村さんによる時代小説『てらこや青義堂 師匠、走る』が、2月27日(水)に発売されます。
本作は明和7年、日本橋の寺子屋を舞台に、元忍びである師匠の活躍と、彼を慕う筆子たちの冒険を描く長編小説。そこには今村さんの前職での経験と、深い思いが込められているそうです。著者が「特別な作品」と語る本作について、編集を担当した小学館出版局の菅原朝也さんに、文章を寄せていただきました。
2017年3月刊行の『火喰鳥 羽州ぼろ鳶組』(祥伝社文庫)の登場は、鮮烈の一語に尽きた。その後4か月毎という驚異のスピードで書き下ろされてきた同シリーズ(現在7作)の大ヒットは誰もが知るところだろう。翌年5月には『童神』で第10回角川春樹小説賞を受賞。10月に『童の神』と改題して刊行されたこの作品は、同年下期の第160回直木三十五賞候補となった。
今村翔吾さんは、いま最も時めいている作家である。そしてこれからも注目され続ける人だと思っている。
今村翔吾さんに初めて連絡をさし上げたのは去年の6月だった。編集部の加古(もう一人の担当者)からメールをさし上げた。その後、最初にお目にかかったのは7月、七夕の日だったのだが、実は本作の初めの原稿はその前にいただいていた。
当日、琵琶湖畔のホテルのレストランで、今村さんから本作はご自身にとって特別な作品なのだとうかがった。今村さんは作家になる以前、ドロップアウトした子どもたちにダンスを教える仕事をしていた。のべ千人以上と関わられたという。そこで様々な出来事(喜びばかりでなく、苦しさ悔しさも)を経験された。その経験がこの作品に生きている。
もう一つ。今村さんが小説家になると宣言して仕事を辞めたとき、たった一人、今村さんを信じた人がいたという。あなたは必ず小説家になる。そう、その人は言った。今村さんはその言葉に勇気を得て、小説家になる決意を固めた。その人との心の思い出が、深く深くこの作品に注がれた。
弊社に「本の窓」というPR誌がある。その最新号で今村さんはこの作品についてこう語っている。「今までの作品の中で、最も自分自身を剥き出しにして書いたかもしれない」さらに同じ文章から引用する。
「今思えば私は進む道を決めていた。それを誰かに信じて欲しかったし、背中を押して貰いたかったのだ。その人は私の臆病心を見抜いていたのだろう。そして本作の十蔵もたった一人、生き直せると信じてくれる者の力で、踏み出すことを決めることになる」
やがて完成した原稿は力強く、おもしろく、そしてこの上なく美しかった。ぜひぜひ多くの方々に読んでいただければと、心から願う。
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小学館 出版局 菅原朝也
明和七年、太平の世となって久しい江戸・日本橋で寺子屋の師匠をつとめる十蔵は、かつては凄腕と怖れられた公儀の隠密だった。
貧しい御家人の息子・鉄之助、浪費癖があって親を困らせる呉服問屋の息子・吉太郎など、事情を抱えた筆子たちに寄りそう日々を送っていたが、藩の派閥争いに巻き込まれた加賀藩士の娘・千歳を助ける際、元忍びという自身の素性を明かすことになる。
年が明け、政情不安から将軍暗殺を企てる忍びの一団「宵闇」の動きが激しくなると、筆子たちと伊勢神宮へおかげ参りに向かう十蔵に報せが入る。
危険が及ばぬようにと離縁していた妻・睦月の身を案じた十蔵は、妻の里へ向かう。
そして筆子たちは、十蔵の記した忍びの教本『隠密往来』をたよりに、師匠を救う冒険に旅立つ。〈小学館 公式サイト『てらこや青義堂 師匠、走る』より〉