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主要ミステリランキングで3冠を達成し、本格ミステリ大賞を受賞するなど、デビュー作にして2017年のミステリ界を席巻した、今村昌弘さんの『屍人荘の殺人』。今年には、神木隆之介さん、浜辺美波さん、中村倫也さんという豪華キャストで映画化されることが決まっています。
そんな話題作の続編『魔眼の匣(まがんのはこ)の殺人』が、2月20日(水)に発売されました。
ミステリ界が待ち望んだ第2弾ですが、その執筆には思わぬ課題があったのだそう。そんな本作刊行までの苦難の道のりについて、今村さんにエッセイを寄せていただきました。
デビューして1年余。ありがたいことに第1作『屍人荘の殺人』は望外の評価を賜り、本屋大賞ノミネート、本格ミステリ大賞受賞、映画化決定と多くのニュースを私にもたらしてくれた。こんなシンデレラストーリー、現実離れしすぎて小説のネタにもならない。
改めて読者をはじめ、書籍の刊行、販売に携わってくださった皆様に深く感謝申し上げます。
ならば熱の冷めぬうちに第2作を刊行し波に乗ろうとするのが新人作家の常道だと思う。しかし『魔眼の匣の殺人』の刊行を迎えた今、前作からすでに1年4か月もの時間が経過してしまっている。不思議なこともあるものだ。
他人事みたく言っている場合ではない。
デビュー後、各方面から「1作目がこれだけ派手に売れると次が大変だね」とのお声を頂いた。作品の質も売り上げ部数も『屍人荘の殺人』を超えるのが至難というのは自明だ。ただ私自身、それをプレッシャーに感じることはあまりなかったように思う。
なぜなら次作は『屍人荘』シリーズの続編であり、この世にシリーズものの2作目から手をつけるという奇特な読者が相当数いない限り、1作目の売り上げを超えることはあり得ない。ならば気に病んでも仕方ないではないか。
じゃあ何故これほど2作目の刊行が遅くなったのかというと、続編だからこその“縛り”に手こずったのが一番の理由だと思う。
読んでくださった方はご存じだろうが、『屍人荘の殺人』はいくつかの謎を孕んだまま物語が閉じる。シリーズ化を見越した版元の入れ知恵ではなく、応募原稿の時点であの形だった。読者に想像の余地を残すような終わり方が、純粋に私の好みだったのだ。それがまさか、続編への縛りとして自分の首を絞める羽目になるとは。
懊悩の日々は思い出したくもない。
同じ登場人物を使用するのはいいとして、前作を経た主人公らの人間関係や、放置していた謎への言及をストーリーに含まねばならない。あの人はどうなったの? 班目機関って結局何者? こっちが知りたいよ。それに屍人荘の規模の事件がどっかんどっかん起きたら日本が滅びちゃう。どうしよう――。課題は山積み、プロットの段階で悶絶した。完全に自業自得である。
愚かなことに、私は自分で苦しむだけでは飽き足らず、編集部や印刷所にまで迷惑を振りまいた。締め切りを受け流すこと風の如く、催促の電話を無視すること林の如し、ゲラの赤入れ炎の如く、開き直ること山の如し。よく寝首を搔かれなかったものだ。
そうして多くの犠牲の上に完成した『魔眼の匣の殺人』が、どのような評価を受けるのかは分からない。反省すべき点も多く、正直なところお褒めの言葉をかけてもらっても素直に受け取れない自分がいる。けれども作者が手を抜かずに書き上げたということは十分に伝わる作品になったと思う。
このごつごつとした手応えが、今の私の道しるべだ。
その日、“魔眼の匣”を九人が訪れた。人里離れた施設の孤独な主は予言者と恐れられる老女だ。彼女は葉村譲と剣崎比留子をはじめとする来訪者に「あと二日のうちに、この地で四人死ぬ」と告げた。外界と唯一繋がる橋が燃え落ちた後、予言が成就するがごとく一人が死に、閉じ込められた葉村たちを混乱と恐怖が襲う。さらに客の一人である女子高生も予知能力を持つと告白し――。ミステリ界を席巻した『屍人荘の殺人』シリーズ第2弾。
▼シリーズ第1弾『屍人荘の殺人』はこちら
今村昌弘 Masahiro Imamura
1985年長崎県生まれ。岡山大学卒。2017年『屍人荘の殺人』で第27回鮎川哲也賞を受賞しデビュー。同作は「このミステリーがすごい!2018」、〈週刊文春〉ミステリーベスト10、「本格ミステリ・ベスト10」で第1位を獲得し、第18回本格ミステリ大賞[小説部門]を受賞、第15回本屋大賞3位に選ばれるなど、高く評価される。今最も注目される期待の新鋭。
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