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〈『カラマーゾフの兄弟』の新訳を手掛けミリオンセラーに導いた亀山郁夫さんによる、名作の“完結編”が発売! 担当編集者の方に作品ガイドを寄せていただきました〉
ぼくが6年前に亀山氏に依頼したのは、『カラマーゾフの兄弟』の続編でした。ドストエフスキーによって予告までされながら、その急死により書かれずに終わった「第二の小説」と呼ばれる続編を、作者に成り代わって書いてくださいとお願いしたのです。
しかし、亀山氏が書き始めたのは続編でもなければ、パロディでもなく、正編と続編を合体して、日本を舞台に完結させるという、こちらの想像を上回る小説でした。
手にとった方は、その分厚さに怯むかもしれません。しかし怖じ気づくにはおよびません。読み始めれば、よけいなメタファーのそぎ落とされたシンプルな文章と、スピーディーな展開につられ、飛ぶように頁がめくられていきます。
しかも、原作を読んでもなかなか理解しがたいと言われる、あの有名な「大審問官」の章も、現代のグローバリゼーションと関わる身近な問題に置き換えられ、リアルな話題に変貌しています。
また、人物名もロシア語の覚えにくいドミートリー(愛称ミーチャ)はミツルに、アレクセイ(愛称アリョーシャ)はリョウに変換され、複雑な原作のストーリーも自然に理解できる仕組みになっています。
作家辻原登氏は、「亀山郁夫にはドストエフスキーが憑依している」とまで書いておられますが、これは誇張ではありません。小説内でも探偵役のK先生にドストエフスキーが憑依しますが、亀山氏にはドストエフスキーが憑依していたとしか思えないシンクロが起きています。
文学にはかつて、人生のすべてがつまっていると信じられていました。今や失われつつある文学のオーラが、この一冊には満ち満ちています。もし人生であと1冊しか本を読めないとしたら、必ずこの本を読んでください。後悔はしないはずです。
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文・河出書房新社 編集部 吉田久恭
(「新刊展望」2016年1月号「エディターの注目本ガイド」より転載)