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――本書では才気あふれる方たちの“秘密”が、私たちにもわかりやすく解き明かされていますが、その秘訣はどのようなところにあるのでしょうか。
それは僕の中に強くある、“凡人”の感覚を出すだけでいいようなところがあります。
登場いただいたみなさんには、「どうしたら、あなたみたいに素晴らしい作品が生み出せるんですか」ということを聞いているわけですが、「そう言われても普通の人は同じようにできない」ということも伝えなくてはならない。
ただ対談を終わって感じたことは、「特殊な人はひとりもいなかった」ということ。ある意味自分と変わらない、普通に会話している人が、ものすごい作品を作ってしまう。そこがおもしろいところで、きっと回路の問題なんだと思うんです。
――“回路の問題”とはどういうことでしょうか?
みなさん90パーセントくらいは普通の人で、彼らはその普通さの中から“輝き”を作り出す回路を掴んだ人たち。つまりその回路の構築さえできれば、誰もが素晴らしいものを作る可能性はあるんじゃないでしょうか。
同じように才能があっても、うまくアウトプットできる人とそうでない人の違いは何なのかということに興味がありましたが、対談を重ねていくうちに、100パーセントの“天才”である必要はないんだなと思うようになりました。
――アウトプットが優れた人には、その“輝き”がある、と。
輝きとは、別な言い方をすれば「今、唯一無二だと思われている現実を覆す可能性」のことですね。“革命”と言い換えてもいい。血が一滴も流れなくて、けれども人間の心が変わることが革命だとすると、武力や経済力で革命を起こしたとしても、本質的には成功していないといえます。
表現や芸術はそういう“本質的な革命”を志向するものだから、僕にとっての輝きはその可能性を提示できることなんです。
――そういう風に表現をとらえると、なんだかワクワクしますね。
たとえば、「地球上ではお金というものが存在しない国はないと思うけれど、お金の概念がない世界の可能性はないのだろうか」と考えてみる。もし宇宙人が来たとして、宇宙人にお金の概念があるかというと、可能性は低そうですよね。
これも、いまある概念や当たり前だと思われていることが、どの程度便宜的なものかというひとつの思考実験なわけですが、それをどの程度魅力ある形で提示できるかが表現の本質だと思うんです。
愛にしても、「どの程度必然性があるのかな」とかね(笑)。
いまの我々にとっては、両極にお金と愛があるイメージでしょう? お金も愛も大事だといわれるとうんざりするけれど、もちろん僕も、お金も愛もいっぱい欲しい(笑)。そこは自分の限界だなと思うところでもあって、お金も愛もまったくいらないクリエーターがいたら、ものすごくいいものを作るんじゃないかな。
――萩尾望都さんとの対談の中で、そういう“大人の社会”で生きていくことについてのお話がありましたね。物質的な現実社会と、そういうものにとらわれない世界。「その2つの世界の間で、揺らぎながら生きていてもいい」というお話が印象的でした。
本当に素敵だったんです、そう言われた時の萩尾さん。子どものいいところと大人の魅力が両方あって。
――対談の端々に、そうしたみなさんの人間性と、それぞれに対するリスペクトが詰まっていますよね。本書は、穂村さんにとっても格別な対談集になったのでは?
僕にとって、ここに登場してくれた人たちと同時代に生きているということは、大きな意味を持っていると思います。
高橋源一郎さんが、評論家の吉本隆明さんが亡くなったときに朝日新聞に寄せた追悼文で、「吉本さんの、生涯のメッセージは『きみならひとりでもやれる』である」と書かれていましたが、高橋さんは吉本さんの影響を一番大きく受けた世代ですよね。
ある人にとって吉本隆明がいるということは、「この世で信頼できる人が一人はいる」ということで、それはすごく大きなこと。
僕は思想家ではそういう人を見つけることができなかったけれど、苦しかった青春時代に、「こんな素晴らしい作品を作った人がいるなら、この世の可能性はゼロではない」と思えるクリエーターたちに出会うことができた。
この本は、そんな人たちに会いに行った一冊です。
穂村 弘 Hiroshi Homura
歌人。1962年、北海道生まれ。歌集『シンジケート』でデビュー。著書に『手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)』『ラインマーカーズ』『ぼくの短歌ノート』『世界音痴』『にょっ記』『本当はちがうんだ日記』『野良猫を尊敬した日』ほか。訳書に『スナーク狩り』(ルイス・キャロル)ほか。『短歌の友人』で第19回伊藤整文学賞、「楽しい一日」で第44回短歌研究賞、『鳥肌が』で第33回講談社エッセイ賞、『水中翼船炎上中』で第23回若山牧水賞を受賞。
【もくじ】
「よくわからないけど、あきらかにすごい人」に会いに行く――穂村弘
谷川俊太郎(詩人) 言葉の土壌に根を下ろす
宇野亞喜良(イラストレーター) 謎と悦楽と
横尾忠則(美術家) インスピレーションの大海
荒木経惟(写真家) カメラの詩人
萩尾望都(漫画家) マンガの女神
佐藤雅彦(映像作家) 「神様のものさし」を探す
高野文子(漫画家) 創作と自意識
甲本ヒロト(ミュージシャン) ロックンロールという何か
吉田戦車(漫画家) 不条理とまっとうさ
・【穂村弘寄稿エッセイ】穂村弘が“運命の本探し”の記録を綴った2冊『きっとあの人は眠っているんだよ』『これから泳ぎにいきませんか』発売
・穂村弘さんの仕事場訪問:コレクター気質の人気歌人が集める“拘りの品”とは?