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  • 恋愛におけるマイノリティが逆転した世界で多様性の問題を描く漫画『ルポルタージュ』

    2019年01月19日
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    ほんのひきだし編集部
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    ルポルタージュー追悼記事ー 1
    著者:売野機子
    発売日:2018年10月
    発行所:講談社
    価格:659円(税込)
    ISBNコード:9784065131039

    若者の恋愛離れが進む今、彼氏や彼女がほしいと思わない人が全体の約40%にのぼるとも言われている。「恋愛なんて面倒くさい」という風潮が確かにあり、もっと時代が進んだら「恋愛なんてバカのすること」と言われる日が来るかもしれない。

    この物語は、そんな未来を予見するがごとく、「恋愛が無価値」とされている世界を描いている。

    時は2034年。若者の中で「恋愛は非合理的なもの」とされ、恋愛の過程を“飛ばし”て結婚する者が多くを占めるようになっていた。

    「合理的な結婚相手のマッチング」を目的としたシェアハウスも登場し、非・恋愛コミューンとして知られるようになったが、事件はそこで発生した。住民30人が犠牲となるテロが起きたのだ。

    新聞社の社会部で記者として働く青枝聖は、この事件の犠牲者たちの人生を追う追悼記事──ルポルタージュを書いている。しかし、ある犠牲者の家族を訪ねた結果、兄から門前払いされてしまうのだ。

    「弟には褒められるところなどない。記事にはならない」「『人間は恋愛すべきだ』という記事を書きたいだけだろう」と言い放つ彼は、恋愛そのものにも否定的だ。

    この後、聖は犠牲者の妹が何かを話したがっていると感じ、直接話を聞きに行く。兄とは真逆で、恋愛に憧れを持っているという彼女は、「恋バナがタブーの今の時代を寂しく思っている」と話す。

    さらに、彼女は「恋愛のプレッシャーを感じてきた兄にとっては生きやすい時代になった。恋愛を肯定するかのように書かれるこのルポルタージュを警戒しているのでは」と続けたのだ。

    恋愛におけるマイノリティが逆転していった世界の中、それぞれの思いがあることを実感する描写だ。どちらが正しいわけでもなく、その時々の世の中の風潮に合致する者がマジョリティーとなる。そして、マイノリティとなった人々はそこに生きづらさを感じるもの。「恋愛」という1つのフィルターを通じて、現代社会の複雑な構造が透けて見える。

    一方、聖自身にも、國村葉という恋人がいた。そう。「恋愛は馬鹿げていない」と考える彼女もまたマイノリティの1人だ。そして、聖たちは、街の中の恋人たちを冷笑する若者を見かけても、2人の関係を隠さないスタンスを取っている。

    聖は、それぞれの価値観の違いを見つめながら、犠牲者の学生時代の友人や会社の同僚、シェアハウスを通じて知り合った人々にも取材を続ける。が、出てくる話は悪評ばかり。一緒に記事を担当する会社の後輩が「嫌われていた記事なんて書けるわけない」と呟(つぶや)くほどに……。

    しかし、彼女は自分に都合のいい記事を書くことも、取材した内容をお蔵入りさせることも選ばない。実は、聖には自分の書いたインタビュー記事への激しいバッシングを受け、心を閉ざした過去があったのだ。

    ここにまた、マジョリティーとマイノリティの複雑な構造が描かれている。ネットの発達によって、誰もが情報発信できる今の時代。そして、マジョリティーの旗を振りながら個人を簡単に殺すことができる時代でもある。ネットではマスコミを「世論(=大衆)を情報で操るマスゴミ」と非難する者も多く、この漫画にもそうした描写が登場するが、しかし彼らが一斉に攻撃したのは、そこで働く聖という個人なのだ。

    聖は諦めることなく、足を使って犠牲者の取材を進め、自分なりに1つの記事を完成させる。

    それが本当に遺族にとって、世間にとって、良きものであったかどうかはわからない。そう思いつつも、彼女は「どんな人生も美しく、生きるだけの意味がある。それを記事にしたい」と考えている。迷い悩み、苦しみながら、聖は犠牲者たちのルポルタージュを書き続けていく。

    今の世の中には様々な価値観があるが、ネットによる集中砲火で、違う価値観を持つ者が叩かれやすくなっている時代でもある。マイノリティとなった人間は、「息苦しさ」や「生きづらさ」を感じている人も多いだろう。

    しかし、すべての人間は違う考えを持つ生き物であり、一人ひとりに複雑な思いや背景がある。何が正しいのかは誰にも決められるものではない。

    「正しさとは一体何なのか。互いを認め、共に生きる道はないのか」
    この物語が描いているのは、現代社会が抱えている問題点であり、この作品そのものが時代を描くルポルタージュであると言えるのかもしれない。

    (レビュアー:ゆたかまり)

    ルポルタージュー追悼記事ー 1
    著者:売野機子
    発売日:2018年10月
    発行所:講談社
    価格:659円(税込)
    ISBNコード:9784065131039

    ※本記事は、講談社コミックプラスに2018年12月15日に掲載されたものです。
    ※この記事の内容は掲載当時のものです。




     

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