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誉田哲也さんの小説『月光』が、文庫化から5年が経ったいま注目を集めています。
警察ものから青春小説まで幅広い作風で知られる誉田さんですが、その中でもこの『月光』は読者からの賛否が大きく分かれ、5年前にも話題を呼んだミステリーの“問題作”。それが再度注目を集め、新たな読者を獲得しているのには、問題作だからこそのプロモーションがあったようです。
文庫化当時の編集担当だった中央公論新社・三浦由香子さんに、その仕掛けの内容と経緯、また『月光』の魅力について文章を寄せていただきました。
「この本の担当でしたよね? 今度仕掛けることになったんだけど……」
書籍の編集しか経験のなかった私が営業局へ異動して、ひと月ほどたった今年の7月のことです。先輩の瀧澤から声をかけられました。差し出された文庫は誉田哲也さんの『月光』。思わず私は「おお?」と唸ってしまいました。
この本は2013年に私が編集を担当した作品です。ストーリーは、バイク事故で亡くなった姉の死の真相を探ろうとする妹が、やがて恐ろしい真実を知ってしまう……というもの。その姉の過去があまりに凄惨なので、当時、誉田さんにも率直にご相談し、帯に「衝撃のR18ミステリー」と入れさせていただきました。
そのほか、内容紹介や装幀などもいろいろと考えながら編集したので、密かに思い入れのある作品ではありましたが、そうした描写を含むだけに、仕掛けるほど万人にお薦めできるのかなと戸惑ってしまったのです。
瀧澤も、本書を読んで衝撃を受けたそうですが、偶然、芳林堂書店高田馬場店さんでその感想を漏らしたところ、仕掛け販売を行なうことになったとのこと。実は、弊社内でも「面白かった」という意見の一方で、読後の反応は賛否両論でした。そこで、「いっそ、この結末は『アリ? ナシ?』とパネルで訊いてみては」と提案してみたところ、瀧澤はすぐに「アリ派」「ナシ派」双方のコメントを集め、「誉田哲也史上、最大の“問題作”。果たして、これはエンタメ小説としてアリ? ナシ? 賛否両論! あなたはどっちだ」と見出しを掲げたパネルを作ってくれました。
▼パネルには「誉田小説の裏ベスト1」(アリ派)や、「ページを捲るのが苦しい」(ナシ派)といった意見が。
(※クリックすると画像を拡大して見られます)
その後、同店店頭で展開を始めたところ、赤と黒で塗り分けられたパネルの配色も目を惹いたのか、8月には1か月で40部販売という実績が出ました。瀧澤は「これはいける」と営業局内ですぐさま共有。やがて、皆でこのパネルと実績を持って、いっせいに各店舗へお薦めするようになりました。私もちょうどその頃、お店を1人でまわり始めたので、この本を挨拶がわりにご提案できて、ありがたく感じたものです。
11月現在、仕掛け始めてから9万部の増刷がかかり、展開店はまだ増え続けている状況です。偶然ながら、異動したての不安な時期に過去の担当作に助けられ、仕事のめぐりあわせということをしみじみ感じます。そして、パワフルな作品を書いてくださった誉田哲也さん、インパクトのある装幀を作り上げてくださったbookwallの松昭教さん、パネルで展開してくださった書店員の皆さんへ、御礼を申し上げたいと思います。
今後、弊社では12月に文庫『ノワール 硝子の太陽』、1月に単行本『歌舞伎町ゲノム』と、誉田哲也さんの新刊が続きます。こちらもぜひご注目ください。
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中央公論新社 営業局 販売推進部 三浦由香子