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〈森沢明夫さんの『ヒカルの卵』文庫版がこのほど発売されました。単行本刊行時(2013年10月)に収録したお仕事場でのインタビューを再掲載します。〉
自宅の執筆部屋。強い存在感を放つのは、カラフトマスとサーモンの剥製。知床で釣ったもの。「編集者を辞めた後、半年ほど放浪の旅をしたんです」。その後フリーライターを経て作家デビューを果たした。「学生時代は年に120泊くらい野宿生活。日本中を放浪して、きれいな川を探して、潜って魚を獲って。今も時間があれば出かけます」。書棚には小説ととともにアウトドア関連本がぎっしり。筋トレも欠かさない。「執筆で頭ばっかり使ってると身体が凝ってくるから(笑)」
『ヒカルの卵』は、山間の小さな集落に革命を起こしてしまった愛すべき主人公と仲間たちの物語。数年前に雑誌の取材で訪れた“卵かけごはん専門店”をいつか小説にしたい、とあたためてきたのだという。「頭で考えて生きるより、心に従って生きるほうが幸せになれると僕は思っています。そんなピュアな生きざまは、この主人公のようにまわりの人も巻き込んでいくのではないかと」。ほっこりとした感動の後に読者が思いを馳せるのは、それぞれの「幸せのかたち」かも知れない。
人の善意や心の美しさが描かれていること。それが森沢明夫さんの小説の持ち味だ。「新聞やテレビで見る現実は、汚いことばっかり。せめて小説の世界ではきれいなものに触れていなければ、と思うんです」「基本的に僕は、自分の子どもが将来読むことを想定して、作品を書いています。小説もエッセイも絵本もすべて。父ちゃんが死んだら、本を読んで人間の素敵な生き方を知ってほしい。そんな遺言みたいなものです」
パプアニューギニアの首狩り族のネックレス(豚の牙と貝殻)、ピラニアの剥製、オウムガイの殻、縄文時代の黒曜石の鏃など、ワイルドな物がいっぱい。「こういう物を眺めていると心地いいんですよね。生物としての人間の生き方が感じられて」
森沢明夫 Akio Morisawa
1969年、千葉県生まれ。早稲田大学卒業。日韓でベストセラーとなった『虹の岬の喫茶店』は、吉永小百合主演映画「ふしぎな岬の物語」として2014年10月に公開。この映画はモントリオール世界映画祭で二冠を受賞。また、縄文と現代がリンクするラブストーリー『ライアの祈り』も映画化され、2015年6月に公開。ベストセラー小説『あなたへ』『津軽百年食堂』も、それぞれ映画で話題になった。『癒し屋キリコの約束』は、東海・フジテレビ系の昼ドラとして、2015年8月からオンエア。近著に『きらきら眼鏡』『夏美のホタル』『ミーコの宝箱』『大事なことほど小声でささやく』などがある。
(「新刊展望」2013年11月号「創作の現場」より)