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ミステリー小説の醍醐味といえば、犯人当て。
二転三転するストーリーに怪しい人物、意外な証言や伏線の数々に翻弄され、ちっとも当てられないものの、ラストの謎解きシーンでちらばったピースが集まり、パズルが完成する爽快感はクセになりますよね。
謎はすべて解かれ、事件は一件落着!
でも、つかまった犯人の〈その後〉って気になりませんか?
「あの事件の犯人の量刑はどのくらい?」
「あんなにかわいそうな過去があるんだ! 情状酌量とかないの?」
など、事件解決のその先を想像してみましょう。
今回取り上げる事件は『オリエント急行の殺人』。ミステリーの女王、アガサ・クリスティーが1934年に発表した長編作品です。
どんな事件もご自慢の“灰色の脳細胞”で解決に導く名探偵、エルキュール・ポアロが活躍するシリーズの中でも特に人気の高い作品で、これまで何度となく映像化されてきました。
2015年には三谷幸喜の脚本でドラマ化、17年にはハリウッドで映画化されています(ともに作品名は「オリエント急行殺人事件」)。
それぞれ続編の制作が決定されるなど、クリスティーの作品は、彼女の死後40年以上たった今も世界中で愛されています。
『オリエント急行の殺人』はあまりに有名な作品なので、「犯人だけは知っている」という方も多いでしょう。
もしも、あなたがまだこの事件の結末を一切知らないのであれば、こんなにラッキーなことはありません!
今すぐ原作小説を読むか、映画を観ましょう(筆者のオススメは、デヴィッド・スーシェがポアロを演じるイギリスドラマ版です)。
この記事はぜひその後に…。
※というわけで、この先には盛大なネタバレがあります!
イスタンブールとカレー(フランス)を結ぶ豪華寝台列車に乗り合わせた、国籍も階級もさまざまな乗客たち。
世界的な名探偵を自負するポアロもそのうちの1人だ。
彼はアメリカ人大富豪ラチェットに身辺警護を頼まれるが、嫌悪感から断る。
果たして大雪のために立ち往生した2日目の朝、全身12ヶ所を刺されて死亡しているラチェットが発見される。
ポアロが捜査を進めていくと、殺されたラチェットの正体が、かつて幼女を誘拐して殺害しながら証拠不十分で釈放されたカセッティであることが判明。
さらに、一等車の乗客12人と車掌のいずれもが、過去の事件の関係者であったことがわかる。
ポアロに証言した乗客と車掌、あわせて13人での犯行だった。
正確には、実行犯は12人。
12の刺し傷は、めいめいが恨みを込めてカセッティを突き刺したことによるものだった。
ポアロはカセッティが『マフィアに殺された』説と、『13人の乗客らによって殺された』説の2つを示し、居合わせた鉄道会社の重役と医師に委ねる。
2人は前者を選択し、地元の警察には、カセッティはマフィアに殺されたのだと報告されることになる。
犯人は12人で順番に、睡眠薬で眠らせた被害者を刺しました。
誰の一撃が致命傷を与えたのかはわかりません。
この場合、仮に自白があったとしたら12人全員が罪に問われるのでしょうか?
また量刑に差が出るとしたらどんな理由?
〉弁護士の見解は……
12人に殺人の共謀(相互の共同行為により被害者を死に至らしめる結果を実現することに対する意思疎通)があり、これに基づいて犯行が行われたのであれば、全員が殺人罪の共同正犯に問われます。
量刑については、共犯者の中での役割の重要性(犯行を主導した者か他に追従したに過ぎないのか)で差が生じる可能性があります。
13人の犯人のうち、1人は実際の殺人には参加していませんが、犯行計画を知っていて、探偵の聞き取りに対しては素性を隠すようなことをしました。
この人は何らかの罪に問われるのでしょうか?
〉弁護士の見解は……
実際の殺人に加担しておらずとも、殺人の共謀に基づいて犯行が行われた場合は殺人の共犯として処罰される可能性があります。
例えば、犯行計画に加担し、犯行のための資金を提供したり、凶器を用意したりといった重要な役割を果たしていれば、実際の犯行には参加していなくても、殺人の共犯として処罰される可能性は十分あります。
なお、犯行計画段階では加担したものの、その後、自分は協力しないとして共謀から離脱したと評価されれば、殺人の共犯として処罰されることはありません。
探偵の聴き取りに対して素性を隠したことは、犯罪とは関係ないでしょう。
ストーリーのラストで、探偵と居合わせた2名は犯人らを警察に突き出さず、犯人は別にいてすでに逃走したとの報告をしました。
この場合、この3名が罪に問われる可能性はありますか?
〉弁護士の見解は……
警察に対して嘘の供述をして捜査を撹乱した場合には、犯人隠避罪(刑法103条後段)や証拠偽造罪(同104条後段)に該当する可能性があります。
ポアロの行為はこれに明確に該当するように思われます。
容疑者全員が犯人という、その大胆な結末はいまも色あせることなく読者を魅了し、掟破りのミステリーとして語り継がれています。
法の裁きを逃れた悪人に自ら裁きを下すのは正義か、それもまた悪なのか――。
原作小説のポアロはあっさりと犯人たちを見逃していますが、映画やドラマでは犯人らの行為は到底許されるものではなく、彼らもまた法で裁かれるべきだと激しく激昂。
しかし、葛藤の末に犯人らを見逃すという、正義とは何かを問う視点が加えられています。
時代背景によって異なる解釈を楽しめるのも、古典を味わう魅力かもしれません。
さて、あなただったら犯人たちを見逃しますか?
弁護士法人プラム綜合法律事務所
梅澤康二 弁護士(第二東京弁護士会)
アンダーソン・毛利・友常法律事務所を経て2014年8月にプラム綜合法律事務所を設立。企業法務から一般民事、刑事事件まで総合的なリーガルサービスを提供している。
※この記事は、「刑事事件弁護士ナビ」に2018年7月4日に掲載されたものです。
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