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  • 『破裂』『無痛』の著者・久坂部羊さん最新作『虚栄』は、がん治療の最先端を描く医療サスペンス!

    2015年11月20日
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    日販 商品情報センター 「新刊展望」編集部
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    専門家だからこその誠意とは

    「病気というのは自然現象だし、人生の中で避けることのできない哲学的なテーマでもある。病気にならないのが一番だけれども、治らない病気になったときにどうするかというのはその人の死生観、人生観に関わる問題なので、小説のテーマとしても生きてきます」

    『虚栄』は470ページを超える長編だが、不可解な事件やスキャンダルが次々と起こり、登場人物それぞれの人間ドラマが描かれるため、ページを繰る手は止まらない。がんに立ち向かういくつもの人生を垣間見ることで、「自分だったらどうするか」と思わず考えさせられることも。それも久坂部さんが読者に伝えたいことの一つである。

    「病気になってから考えるのでは遅いのです。つらい現実を受け止めることに精いっぱいになってしまうので。普段から当てにならない希望で安心しているよりは、嫌でもほんとうのことに目を向けていると、つらいことがいざ降りかかったときに冷静さが得られます。絵空事ばかり見ていると、どうしようもない病気になったときに、何とか治りたいとしか思えない。それでは患者さんが命を縮めるような治療にこだわって、残されたせっかくの時間を無駄にしてしまうことにもなりかねません。それはとても残念なこと。患者さんが病気を冷静に受け止めて判断できるような心の準備があると、医療の側も実現可能な中で一番いい道を選べる。そのためには普段からかなり厳しい現実があるということを意識しておいたほうがいいと思うんです」

    「報道はいい話でほっとさせるものが多いけれど、必ずしもそのままほんわかと一生を終えられるわけではないですよね。老化現象もあるし、難病や認知症、うつ病、がん、社会には災害や事件もある。我々の暮らしているところは決して安全な場所ではないし、いつ幸せや日常が崩れてもおかしくない、ということは知っていたほうが何かあった時にもしっかりと生きられる。その思いで、皆さんにはちょっと嫌な話を書いています(笑)」

    作中で雪野がつぶやく〈当てにならない希望と、つらいけれどほんとうのことと、どちらがいいですか。(中略)聞こえのいい話でごまかすより、いやがられても、ほんとうのことを話すほうが誠意があるでしょう〉という言葉には、久坂部さんの創作姿勢も現れているのだろう。作中の、自分のなすべきことや命と懸命に対峙する人間たちの姿に触れて、自分がどのように生きるか、いざというときにどう死と向き合うのかといった覚悟を“疑似体験”していくと、いっそ清々しいような読後感がある。それも医師として死と直面する経験を重ねてきた久坂部さんならではの筆の力だ。

    「医者の仕事をしていると死は常に身近にあります。拒絶しても拒絶しきれないということが実感としてよくわかるので、そうであればできるだけ上手に受け入れるためにはどうすればいいかということを作品に反映させています」

    終末期医療や高齢者医療に医師として関わってきた久坂部さんには、『人間の死に方』という著書がある。元麻酔科医でありながら、徹底した医療嫌いで自由奔放に晩年を過ごした父を看取るまでの記録だが、来るべき死に向かって人はどう生きるのかという死生観が浮き彫りになって興味深い。また久坂部さんは、作家、医師に加えて大学の社会福祉学科で教える教授としての顔も持つ。「ひとつのことに集中していると煮詰まることもあります。○曜日は大学、○曜日は診察、○曜日は執筆と決まっていると否応なくそちらに気持ちを向けるので、うまくサイクルが回っているなと感じています」

    常に現場にいることも、医療ミステリーの書き手として作品に大いに生かされているはずだ。

    人間の死に方
    著者:久坂部羊
    発売日:2014年09月
    発行所:幻冬舎
    価格:858円(税込)
    ISBNコード:9784344983595

    医者は、どう死ぬのか。どう親の最期を看取るのか。医療嫌いを徹底した著者の父が、87歳で果たした超絶オモロイ幸福死。

    この10月からは、『無痛』(フジテレビ系、毎週水曜日、西島秀俊主演)と『破裂』(NHK、毎週土曜日、椎名桔平主演)の2作が同時にドラマ化され、絶賛放映中だ。『無痛』は「心神喪失者の行為は、罰しない。心神耗弱者の行為は、その刑を減軽する」の刑法第39条を、『破裂』は大学病院の実態と超高齢化社会を取り上げ、終活についても考えさせられる物語。

    破裂 上
    著者:久坂部羊
    発売日:2007年08月
    発行所:幻冬舎
    価格:660円(税込)
    ISBNコード:9784344409880

    医者の診断ミスで妻を傷つけられた元新聞記者の松野は、医療過誤をテーマにノンフィクション執筆を思いつく。大学病院の実態を克明に描き、老人社会の究極の解決法を提示する医療ミステリー。

    無痛
    著者:久坂部羊
    発売日:2008年09月
    発行所:幻冬舎
    価格:922円(税込)
    ISBNコード:9784344411982

    神戸の住宅地での一家4人殺害事件。精神障害児童施設の14歳の少女が自分が犯人だと告白するが……。外見だけで症状が完璧にわかる驚異の医師・為頼が連続殺人鬼を追いつめる。

    ドラマ化のタイミングは「たまたま重なった」とのことだが、「話の運び具合や登場人物の関係性、場面の転換など、ドラマと小説という表現方法の違いはあれど、参考になるところはたくさんありますね」と語る。いずれもテーマは深刻だが、ミステリーとしてのおもしろさも超一級。読んで、観て、楽しみながら〈つらいけれどほんとうのこと〉にじっくりと向き合ってみてはいかがだろうか。

    (2015・10・8)


    kskb0019ok_cPROFILE 久坂部 羊 Yo Kusakabe
    1955年、大阪府生まれ。医師・作家。大阪大学医学部卒業。2003年、デイケアや在宅医療など高齢者医療に携わりながら書いた小説『廃用身』でデビュー。第2作『破裂』が「平成版『白い巨塔』」と絶賛され、10万部を超えるベストセラーとなる。2014年『悪医』で第3回日本医療小説大賞を受賞。小説に『無痛』『芥川症』、エッセイに『大学病院のウラは墓場』『人間の死に方』などがある。

    悪医
    著者:久坂部羊
    発売日:2013年11月
    発行所:朝日新聞出版
    価格:1,870円(税込)
    ISBNコード:9784022511256

    治療法がない ―患者に死ねというのか!?再発したがん患者と、万策尽きた医師。「悪い医者」とは、と問いかけ運命のラストが待つ。悪の深さを描く、第3回日本医療小説大賞受賞作。

    いつか、あなたも
    著者:久坂部羊
    発売日:2014年09月
    発行所:実業之日本社
    価格:1,650円(税込)
    ISBNコード:9784408536507

    在宅医療専門クリニック看護師の“わたし”と新米医師、院長らが、患者本人と家族、病とその終焉に向き合う。終末医療、看取り、安楽死、死後処置……カルテに書かれない6つの物語。


    (「新刊展望」2015年12月号より転載)
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