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「物語と出会う場所」知念実希人さんが綴る本屋さんへの想い

累計100万部を突破した「天久鷹央の推理カルテ」シリーズ、ベストセラー『仮面病棟』、2018年本屋大賞ノミネート作『崩れる脳を抱きしめて』など、現役医師の知見を生かした数々の医療ミステリーが大人気の知念実希人さん。9月21日(金)に発売された最新刊『ひとつむぎの手』は、大学病院を舞台にしたヒューマンドラマです。

今回は、知念実希人さんから本屋さんにまつわるエッセイをお寄せいただきました。

週に5日は書店に寄って、店内を“徘徊”しているという知念さん。「ネット書店がリアル書店に絶対にかなわない点」として、あることを挙げています。さて、それはどんなことでしょうか?知念実希人
ちねん・みきと。1978年、沖縄県生まれ。東京慈恵会医科大学卒業。2011年、第4回島田荘司選ばらのまち福山ミステリー文学新人賞を受賞。翌年、受賞作を改題した『誰がための刃 レゾンデートル』でデビュー。現役医師の知見を生かした医療ミステリーで人気を集める。2018年『崩れる脳を抱きしめて』で広島本大賞と沖縄書店大賞受賞、本屋大賞第8位。著書に「天久鷹央の推理カルテ」シリーズ、『仮面病棟』『時限病棟』『螺旋の手術室』『祈りのカルテ』『リアルフェイス』など多数。

 

物語と出会う場所  知念実希人

書店は出会いの場だ。

そう書くとなにか、書店から恋が始まるストーリーの序章のようだが、もちろんそういうことじゃない。というか、個人的には書店にいる間は相手が知り合いであったとしても、あまり声をかけてもらいたくないと思っている。なぜなら、そのとき私は、素晴らしい出会いを探して店内を彷徨っているからだ。

子供の頃からいつも近所に書店があった。それは別に偶然などではなく、両親が「子供の教育上、近くに書店があることは大切なことだ」と考え、住居を決める際の一つの条件にしていたからだ。そのため、子供の頃から暇な時間があったら書店に行くようになり、それは今年不惑を迎える現在も習慣として残っている(いまでも週に五日は書店に寄っては、店内を徘徊している)。私がいま、小説を書くことを生業にしているのも、両親の教育方針のおかげなのは間違いないだろう。本当にありがたいことだ。

書店には今も昔も、知識が、そして物語が溢れている。もともとやや空想癖がある子供だった私にとって、平台や棚に並ぶ様々な小説は、冒険へといざなう夢の切符そのものだった。

シャーロック・ホームズ、アルセーヌ・ルパン、エルキュール・ポワロ、エラリー・クイーン、御手洗潔。書店で出会ったそれらの名探偵たちの活躍に心を躍らせ、『リング』や『パラサイト・イヴ』の世界に入り込んで恐怖に震え、『二重螺旋の悪魔』、『ジェノサイド』、『天使の囀り』などを読みながらスリリングな冒険を楽しんだ。

小説を読むということは仮想体験である。実際では決して味わうことのできないことを、活字を追って体験していく。その経験は間違いなく人生を豊かにしてくれるはずだ。特に子供にとっては。私はそう信じている。

さて出版不況が叫ばれる昨今、書店経営はかなり苦戦を強いられている。残念なことに閉店する書店が相次ぎ、全国の書店数は年々減少の一途をたどっている。これは由々しき事態だ。物語との出会いの場が減っているのだから。

書店が苦戦している原因の一つ(もちろん他にもたくさん原因はあるだろうが)と言われているのがネット書店だ。しかし、あれは現実に存在する書店には絶対にかなわない点がある。

そこに偶然の出会いがないことだ。

とくに何を買うか決めることなく書店内をぶらつき、面白そうな本を見つけて手に取ってみる。本好きなら、日常的に行っていることだろう。そうやって何気なく手に取った本が、一生の宝物になるような物語であることは少なくない。これこそが、書店を訪れる醍醐味ともいえる。

しかし、ネット書店では基本的にそれがない。利用者はあらかじめ欲しいと思っていた本を検索して購入する。そこに新しい読書の世界の広がりはなかなか生まれない。だからこそ私は、多くの人のそばに書店という出会いの場があって欲しいと望んでいる。

この数年で、私はただ書店で本を買うだけの立場から、そこに物語を供給する立場になった。その中で、多くの書店員さんが読者と私の作品の「偶然の出会い」を後押しするために、平台に展開したりPOPを書いて飾って下さっているのを見てきて本当にありがたかった。このネット書店にはない血の通った姿こそ、物語と出会う場所としての書店の姿だと思っている。

その素晴らしい場所が今後も残り続けるために、微力ながら執筆に励み、出会ってくれた読者に喜んでもらえるような物語を紡いでいきたいと思っている。

【著者の新刊】

ひとつむぎの手
著者:知念実希人
発売日:2018年09月
発行所:新潮社
価格:1,540円(税込)
ISBNコード:9784103343820

大学病院で過酷な勤務に耐えている平良祐介は、医局の最高権力者・赤石教授に、3人の研修医の指導を指示される。彼らを入局させれば、念願の心臓外科医への道が開けるが、失敗すれば……。さらに、赤石を告発する怪文書が出回り、祐介は「犯人探し」を命じられる。医療ミステリーの旗手が挑む、スリリングなヒューマンドラマ。

(新潮社公式サイト『 ひとつむぎの手』より)

(「日販通信」2018年10月号「書店との出合い」より転載)

 

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