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「葉っぱってどうしてこういう形で、こんなふうに生えるんだろう」そう疑問に思った経験はありますか。
辞典の編集者を描いた『舟を編む』、林業に挑む若者が主人公の『神去なあなあ日常』など、あまり知られていない仕事を取り上げた小説が人気の三浦しをんさん。
最新刊では、大学で植物学を研究する人々が描かれています。身近でありながら、改めて考えると奥が深い植物の世界にのめりこむ登場人物たち。そして、普通の人が一風変わった植物学研究者に恋をしてしまうとどうなるのか……? あなたを未知なる植物の宇宙へ連れ出します。
主人公は洋食屋の見習いの青年・藤丸陽太。出前を届けた先の大学院生・本村紗英に恋をしますが……。
恋のライバルが、人類だとは限らない――!? 洋食屋の見習い・藤丸陽太は、植物学研究者をめざす本村紗英に恋をした。しかし本村は、三度の飯よりシロイヌナズナ(葉っぱ)の研究が好き。見た目が殺し屋のような教授、イモに惚れ込む老教授、サボテンを巨大化させる後輩男子など、愛おしい変わり者たちと地道な研究に情熱を燃やす日々……人生のすべてを植物に捧げる本村に、藤丸は恋の光合成を起こせるのか!? 道端の草も人間も、必死に生きている。世界の隅っこが輝きだす傑作長篇。
植物研究に邁進する本村さんも、研究の道に進む時には多くの悩みがありました。大学院に行っても、研究者として身を立てられる人は一握り。なんの保証もない道を行くことに対する不安は、どんな人でも共感できるのではないでしょうか。
結婚にも生殖にも興味がなく、研究ばかりしている私はもしかしたら不完全なのではないか……と悩みながらも、やっぱり自分は植物が好きなんだと研究に打ち込む本村さんのひたむきさに、思わず胸を打たれます。
本村さんには、決めたことがありました。それは、植物の研究にすべて捧げる、ということ。作品の中のこんな台詞が印象的です。
植物には、脳も神経もありません。つまり、思考も感情もない。人間が言うところの、『愛』という概念がないのです。
(本書P.92より引用)
植物の世界を「愛なき世界」といい、その植物研究にすべてを捧げると決めたため、自らも恋愛をすることをタブーとする本村さん。そんな彼女と、彼女とともに愛なき世界を覗いていく藤丸は、「愛」とはいったい何なのかということを考えていきます。
果たして藤丸の片思いは実るのか? 「植物愛にのめりこむ変人たちの純愛活動」を描いた本作、ぜひお楽しみください。
9月6日(木)発売の「ダ・ヴィンチ」10月号では、三浦しをんさんを大特集! 『愛なき世界』については、東京大学農学部でアサリ研究をしていたという桝太一さんとの対談も収録されています。本作品が作られた経緯などが4ページに亘って掲載されており、読み応え抜群の内容です。