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  • いじめられっ子とヤンキーが作家を目指す、久保寺健彦『青少年のための小説入門』刊行記念インタビュー

    2018年08月24日
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    集英社「青春と読書」6月号より転載(一部編集)
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    小説は無力なのか?

    ――彼らは、実際にデビューを果たし、そこから出版業界の話にもなっていく。「はやく次作を書け」と言われての焦りや、バブル前後の業界の空気感にもリアリティがありました。編集者も、作家を放置するタイプの久間もいれば、自分でコントロールしようとする二ノ宮など、さまざまですね。

    僕も経験していることですから、絵空事ではなくちゃんと書こうと思いました。経験を反映しているけれど、そのままでは弱いので多少誇張していって、過激な方向に行ったのが二ノ宮という編集者。反対に久間という人は作家に指図しないタイプで、僕は無能に書きすぎたかと思っていましたが、周囲の編集者からは「久間さんがよかったです」と言われて意外でした(笑)。

    ――ご自身はどちらのタイプが合いますか?

    僕は言いっ放しでいいので、意見をばんばん言ってくれていいと思うんです。ブレストができればいいので。でも個人的にやめてほしいのは、ブレストでアイデアを口にしているのに「いや、それはダメです」となんでも否定すること。アイデアがしぼんでしまうので。

    ――寺脇という、彼らの作品をけなす文芸評論家も登場します。彼の小説観が強烈でした。

    前の小説『ハロワ!』は連載最終回の締め切りが2011年3月15日だったんです。希望が見える終わり方にしたいなと思いながら最終回を書いていたら、締め切り4日前にああいうことがあって。僕は東京に住んでいるし被災地に親しい人がいるわけでもないから、甘えなんですけれど、小説の最後に希望を持たせることに何か意味があるのか、小説の存在意義みたいなことを考えてしまったんです。

    寺脇さんは「小説は無力だ」と言う。でも自分では、この小説は「そうじゃないんだ」という話だと思っています。そう主張する時に一番の敵となるのが寺脇さん的な「なんの存在意義があるんだ」という考え方ですよね。だから寺脇さんは書いていて一番手応えがありました。

    ――寺脇さんの言うことはその後の出版界を予言しているかのようですし、ある災難が登さんに降りかかるなどの、いろんな設定もあるべくしてあって有機的に繋がって、なるべくしてなる方向へと物語が進んでいくという読み心地です。何度も書き直して、この形になった時に「見つけた」というような感触はありましたか。

    いえ、最初は「あ、これで気持ち悪くない」という消極的な感覚でした(笑)。

    何度も失敗しているので不安だったんですが、読んで気持ち悪くないのでこれで大丈夫という感じ。ただ、最後にどうするかは最初から決めていました。北野武さんの「キッズ・リターン」という映画がすごく好きだったんですよね。まったく違う二人がタッグを組むけれど一人がいなくなって……という。この小説の結末とは違いますが。

    ――あの映画はラストシーンの「俺たちもう終わっちゃったのかな」「まだ始まっちゃいねえよ」のセリフが忘れがたいですよね。そう思うと、これは一真が ”始まる” までの話でもあるんですね。

    そういうことですね。僕も何か、スタート地点にもう一度立てた気がしますね。小説の書き方という面でもそうだし、なぜ自分は小説を書いているのかとか、どういう作品が好きなのかといったことが、改めて分かった気がします。

    デビューした頃のインタビューでも、自分が読みたい小説、書きたい小説は新奇なものなんだと言っていて。それは新鮮味というような意味に近いと思うんですが、そういうものが書きたいですね。

     

    『青少年のための小説入門』作品情報

    青少年のための小説入門
    著者:久保寺健彦
    発売日:2018年08月
    発行所:集英社
    価格:1,815円(税込)
    ISBNコード:9784087754421

    小説家となった入江一真(かずま)のもとに、一枚の葉書が届く。とぎれとぎれの字で「インチキじゃなかったぜ」とだけ書かれたその手紙は、もう20年ほど会っていない「元相棒」から送られてきたものだった――。

    1982年4月、中学2年だった一真は、万引きを強要された現場で、ヤンキーの登(のぼる)と出会う。登は、いじめをやめさせる代わりに、「小説の朗読をして欲しい」と、一風変わった提案を一真に持ちかける。実は登には「小説を書きたい」という野望があった。しかし、登は幼いころから自由に読み書きができなかった。そこで、一真に小説を朗読させてコンビで作家になることを目指そうとしたのだ。はじめは嫌々だった一真だが、たくさんの小説をふたりで読むうちに、「面白い小説を創る」という想いが加速していく。しかし、次々に壁がふたりの前に立ちはだかり……。 熱い友情と挫折を描く、渾身の青春物語。書き下ろし。

    特設サイト:http://renzaburo.jp/kubodera/




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