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ほのぼのとした童話や絵本で子どもたちに人気の作家・村上しいこさん。近年は、野間児童文芸賞を受賞した『うたうとは小さないのちひろいあげ』をはじめ、中高生を主人公にした、社会的なテーマをリアルに描いた問題作を次々と発表し、注目を集めています。
7月13日(金)に発売された『死にたい、ですか』は、児童文学作家として知られる著者が、初めて大人の読者を意識して書いた作品です。自身も壮絶ないじめ、虐待をうけた経験がある村上さんが、「どうしても書きたかった」という渾身の力を込めた本作について、編集を担当した小学館出版局の片江佳葉子さんに、文章を寄せていただきました。
村上しいこさんといえば、野間児童文芸賞も受賞している児童文学界のベストセラー作家。私が最初に村上しいこさんの作品を拝読したのも、小学館児童出版文化賞の社内選考担当をしていた時でした。『うたうとは小さないのちひろいあげ』という小説を拝読し、心打たれ、「この著者に一般小説を執筆していただきたい!」と熱い想いで依頼させていただいたのが始まりです。
打ち合わせ当初、「私にはどうしても書きたい内容があるんです」と力強くお話しいただき、私も「いじめ問題」はかねてより取り組んでみたかったテーマだったので、是非、ということでこの企画はスタートしました。
村上さんは、幼少期よりかなり酷い虐待、いじめをうけていらしたそうです。暴力はもちろん、言葉や嫌がらせ。いじめる人の中には先生の顔もあったそうです。あまりに辛い毎日に耐えきれず、ある日、虐待を続ける親に懇願したそうです。
「私を殺してくれ」と。でも、その希望さえ「おまえは家族の奴隷だから殺すわけにはいかない」と叶えてもらえなかった、と。
そんな壮絶な経験を持つ村上さんだからこそ書ける、心に響く言葉。そして、深い人間観察。取材を何度も重ねた法廷シーン。セラピストとのやりとり。
原稿が届いた当初、ずしんと心の奥底まで届いてくる、嘘偽りのない人間の姿に圧倒されました。小説はフィクションなので、嘘偽りない、という表現はおかしいかもしれません。でもその人間を真っ直ぐ見つめる目がとても痛く重く、けれども慈愛に満ちているのです。ただただ、圧倒されました。
そして、村上さんは「生きてきて、今思う。死ななくて良かった、と。私にとって文学とはどうすれば人は幸せになれるだろうか、ということ」と述べていらっしゃいます。どんな絶望の先にも光はある。自死遺族というどん底からも這い上がり、人は生きていく。その尊く、愛おしい人間の姿を感じていただければ、と思います。
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小学館 出版局 片江佳葉子
「お母さん。奇跡は起きないんだよ。だからもう一度、今の家族を見て」
4年前、人見由愛が中1の時に兄・典洋は高校でのいじめに耐えられず、自ら命を絶った。母の伊代は今も立ち直れず、裁判により兄の無念をはらそうと必死だ。父親はアルコール依存症に陥り、会社生活も惨憺たる状態。
家族は崩壊寸前。一方、母親からの依頼でいじめ裁判の取材を進める新聞記者・大同要は、自身のトラウマからこの家族に深入りするようになる。
沈みそうな家族を必死でつなぎ止めたい由愛。
彼女のもがいた末の選択は。そして、家族は……?