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『あらしのよるに』の絵や、『ゴリラにっき』『新世界へ』などで知られる絵本作家のあべ弘士さん。最新作『クマと少年』の刊行を記念して6月22日(金)、ブロンズ新社にてトークショーと同作の原画展が開催されました。
今回はトークショーの内容を、展示された絵とともにお送りします。
あべ弘士さんは、北海道旭川市生まれ。旭川動物園で25年間働いた日々を創作の原点として、絵本作家として独立後、生きものの“いのち”に真摯に向き合った作品を多数発表しています。
今年5月に刊行された『クマと少年』は、本当の兄弟のように村で育ったアイヌの少年と、ヒグマの子を描く物語。本作に描いたことは、実に約40年にわたって、あべさんが考えてきたテーマだといいます。
トークショーでは、ヒグマの生態やアイヌの人々との関係、本作に込めた思いなどがたっぷりと語られました。
日本では北海道だけに生息しているヒグマ。“狩りをする肉食動物”としては国内最大級であり、世界的に見ると、カムチャッカ半島やシベリア、カナダ、アラスカにも生息しています。
ふだん動物園で見られるクマにはマレーグマやエゾヒグマがいますが、マレーグマが25~65kg、エゾヒグマが150~250kgであるのに対して、北海道のヒグマは300~400kg。アラスカには800kgを超えるヒグマもいるといい、その大きさは段違いです。
身体能力も高く、とりわけ腕力がすこぶる強いそう。またライオンやトラと違って“下からすくって投げ上げる動き”ができるため、あべ弘士さんも飼育員時代には、「檻の戸を跳ね上げられるのではないか」とヒヤヒヤする経験をしたのだといいます。
しかしヒグマは、単なる“猛獣”ではありません。アイヌの人々の間では、“神様”として畏れ崇められているのです。
ヒグマの生態について紹介したあと、本作でも描かれるアイヌとヒグマの関係について語り始めたあべさん。
「アイヌの人たちの世界には、まず『アイヌモシリ』という国があって、その向こうに『カムイモシリ』という国があります。アイヌモシリは自分たちが住む“人間の国”、カムイモシリは“神の国”です。カムイモシリに住む神様は、アイヌの人たちと同じ格好をしていると考えられており、アイヌモシリにやってくるときには、動物となって自分たちのところへ現れるとされています」
「カムイモシリからアイヌモシリに神様が来るとき、神様はお土産を持ってきます。ヒグマの場合ですと、自分(=ヒグマ)の毛皮、肉、そして胆のうがお土産です。胆のうは胆汁という消化酵素を出す非常に重要な臓器で、漢方薬にもなっています。実際に猟師は、クマを獲った後、胆のうを取り出して煎じ、舐めるのだそうです」
10月末頃から冬ごもりに入り、4月末頃に子グマとともに巣穴を出てくるヒグマ。アイヌの人々はこのとき、「クマを迎える」といってヒグマを狩るのだといいます。
「母グマを殺して“お土産”をもらい、子グマがいた場合は、コタン(村)に連れて帰って育てます。とはいってもクマは神様なので、飼うのではなく“もてなす”という感覚ですね。実際にその子グマには、ごちそうを食べさせたりして、一定期間大切にもてなします」
子グマがまだ大きくなっていない場合は、人間の赤ちゃんと同じように母乳を与えて育てることもあるそう。『クマと少年』でも、少年と子グマのキムルンは、母親のおっぱいを飲んで一緒に育ちます。
そして一定期間育てた後に、「イオマンテ」という儀式が執り行なわれるのです。
「(イオマンテで)死んでもらってカムイモシリに送ることで、ごちそうを食べさせてもらったという報告をしてもらうのです。イオマンテで送られないクマは、いつまでも野生にいるため、神の国で報告ができません」
しかし『クマと少年』では、このイオマンテを前に、子グマが姿を消してしまいます。少年と子グマはその後8年を経て再会することになるのですが……。
気になる方はぜひ、絵本を手に取ってみてください。
旭川出身で、小学校の運動会にアイヌの人々が参加するなど、幼い頃からアイヌの人々が身近な存在だったというあべ弘士さん。しかし彼らを絵本の題材にすることについては、難しさを感じていました。
「アイヌたちは江戸時代から松前藩の人たちにひどくいじめられ、明治時代に入っても変わらず差別されてきました。土人と呼ばれて、『旧土人保護法』が廃止されたのだって平成になってからのことなんですから。私の友人にもアイヌの人がいます。だからアイヌの人たちを物語で扱うのは、どうもつらくてできませんでした」
しかしあべさんはその一方で、絵本を描くようになって「アイヌの人たちを題材にできるのは自分しかいない」とも思うようになったといいます。
「難しいテーマということもあって、全体的にもやもやとしたものをどう絵本にするか、最初はとても悩みました。アイヌには口伝の昔話がたくさんあって、それも面白いので、それを絵本にすることもできましたが……」
「いろいろと考えた結果、ヒグマと少年を主人公として、二人のいのちのやりとりや葛藤を縦糸に、北海道の自然や、イオマンテをはじめとしたアイヌの文化を横糸にして物語を書きました」
『ゴールデンカムイ』のヒットもあって、私たちにとっても、次第に身近になってきたアイヌの人々。彼らのとらえる“いのち”は、私たちが普段考えているのとはまた少し違ったかたちをしているかもしれません。あべ弘士さんだからこそ描けた物語を通して、いのちについて、またアイヌの人々とその生き方について、思いをめぐらせてみてはいかがでしょうか。