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島原の乱を描いた『出星前夜』(大佛次郎賞、2008年刊)や幕末の“隠岐騒動”を舞台にした『狗賓童子の島』(司馬遼太郎賞、2015年刊)など、寡作でありながら、「飯嶋和一にハズレなし」といわれるほど歴史小説の大作を世に送り出してきた飯嶋和一さん。
3年半ぶりとなる新刊『星夜航行』が、6月29日(金)に上下巻で発売されました。
罪なくして徳川家を追われ、秀吉の天下統一、朝鮮出兵という激動の時代の荒波に翻弄されながら、不屈の精神で生き抜いた男を描く本作。その完成までには、なんと9年の歳月を要したそうです。そんなに時間がかかったのはなぜなのか? 幾度となく担当編集者の魂を震わせたという本作について、刊行までの道のりを、新潮社出版部の田中範央さんに綴っていただきました。
「小説新潮」の連載期間は5年、その後、著者校正(=直しや確認など)に4年、刊行までに9年かかった――。6月末に刊行された飯嶋和一さん著『星夜航行』は社内外でこのように説明してきました。「連載期間5年」については誰もがご納得の上下2巻ですが、「著者校正に4年」には「なぜ、そんなに時間がかかったのか?」「その間、なにやってたの?」といった疑問が浮かぶかもしれません。ということで、サッカーのワールドカップがブラジルで始まろうとしていた4年前の初夏からのことを記します。
連載終了後、編集者(私)がまず通して読み、人物の動きや相関関係、全体の流れをパソコンに打ち込み、飯嶋さんにお尋ねする疑問を整理しました。そのメモはA4の用紙で44枚に。最初の著者校正だけで1年が過ぎていました。つづいて校閲者が加わり、史実や人名、地名などに関する確認作業をしていきましたが、著者に確認する際には根拠となる資料の複写をお渡します。その複写の束は上下巻の各巻あたり30cmくらいの厚さになり、校閲者が各巻の確認作業をするだけでおよそ半年、これを受けた飯嶋さんの著者校正も同じくらいの期間を要しました。
『星夜航行』の主人公、沢瀬甚五郎は徳川家に取り立てられたものの、仕えていた家康の嫡男が武田家に通じていた嫌疑を持たれ、家康の命で切腹、甚五郎は恩ある者の相次ぐ死を受け、徳川家を出奔します。時代は本能寺の変、秀吉の天下統一、海外交易の隆盛、そして秀吉による朝鮮出兵という激動期で、甚五郎の足取りと朝鮮役に到る交渉や合戦の様子が詳しく記され、確認すべき事項は膨大な量になるのは必至だったものの、校閲者の丁寧な確認作業には頭がさがりました。
また、壮大な内容だけに「この人物やこの箇所はもっと掘り下げられないか」「ここはカットしても良いのでは?」等々、加筆修正欲や編集欲(!)を掻き立てられる大作で、著者校正は異例の4度に及びました。
この4年間、感嘆感心することは何度かありましたが、大げさでなく魂が震えたのは最後のシーンの加筆をいただいたときのこと。そこで描かれる勇姿は沢瀬甚五郎が徳川家に取り立てられるきっかけとなった、あることと繋がっていたのです!(←どうかお見逃しなく、というか、是非ご一読を!)
また、装幀家のミルキィ・イソベさんから本のカバーが届いて目にしたときは、飯嶋さんとの長い航行が終わりに近づいたことと、主人公の流転と不屈の精神を感じさせ、胸が熱くなり、魂がまた震えていました。純度100%の9年の歳月と著者の魂のこもった『星夜航行』を、ひとりでも多くの人にお読みいただきたいです。
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新潮社 出版部 田中範央
徳川家に取り立てられるも、罪なくして追われ、堺、薩摩、呂宋の地を転々とした沢瀬甚五郎。天下統一の激動の波に飲まれ、秀吉の朝鮮出兵の暴挙が襲いかかるが、彼は屈しなかった。史料の中に埋もれていた実在の男を、九年の歳月を費やして描いた著者最高傑作。
〈新潮社公式サイト『星夜航行』より〉