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松尾スズキさんの最新小説『もう「はい」としか言えない』が、6月29日(金)に発売されました。
今年、主宰する劇団「大人計画」が旗揚げ30周年を迎え、俳優や劇作家としても活躍する松尾さんですが、本作の主人公・海馬五郎も映画監督であり俳優という、松尾さんの“分身”のような人物。五郎は浮気がバレて妻から逃げるようにパリに旅立ちますが、そこで妻より怖ろしい悪夢のような出来事に巻き込まれていきます。
7月18日(水)に発表される第159回芥川賞の候補作品でもある本作。その内容と魅力について、編集を担当した文藝春秋第一文藝部の山田憲和さんに文章を寄せていただきました。
デビュー30周年を迎えた松尾スズキさんが、新しい小説を発表しました。
『もう「はい」としか言えない』という斬新なタイトル。読み終わると、せつなさに胸が震えます。どんなことを言われても、「はい」としか言えないような気分になるのです。まさに天才的な視野で、いまという時代をとらえているのではないでしょうか。
主人公の海馬五郎は、松尾さんの分身です。ここは強調せねばなりませんが、もちろん、松尾さんが浮気をしたわけではありません! 海馬五郎は、浮気をしました。妻にバレました。妻の黒いヒールスリッパの鼻先に土下座するしかありませんでした。無条件降伏として、仕事場の解約と、毎日のセックスを、妻から宣言されました。性に淡白な海馬五郎は、じりじりと追い詰められていたのです。
そんな息苦しい日々を過ごしていた海馬五郎は、ある日突然、フランスのエドルアール・クレスト賞の受賞を知らされます。「世界を代表する5人の自由人のための賞……?」という胡散臭いものですが、パリへの旅費と1週間の滞在費を支給してくれるらしいのです。飛行機が嫌いで外国人が怖い海馬五郎も、妻とのセックスを1週間も休めるのが嬉しくて、誘いにのりました。これが悪夢の旅になったのでした……。
表題作『もう「はい」としか言えない』の他、海馬五郎の恥ずかしい少年時代をヴィヴィッドに描いた『神様ノイローゼ』をカップリングしました。こちらも傑作です。シュールでエンタテイメント精神にあふれる、まったく新しい小説世界をお楽しみください!
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文藝春秋 第一文藝部 山田憲和