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女性、男性に限らずLGBTQまで、さまざまな人を相手に仕事をする男性セックスワーカーたち。6月20日(水)に発売された『男娼』は、風俗業に従事する人々を長年取材してきた中塩智恵子さんが、彼らがなぜこの仕事を続け、そのなかで何を感じているのかを取材しまとめたルポルタージュです。
多様な性の形や生き方を率直に映し出し、“性を売ることの意味”を問いかける本作。「このテーマを書くことができるのは自分しかいない」という中塩さんに、本作に込めた思いを綴っていただきました。
私が性風俗業界に関わり始めてから、断続的ではありますが、およそ20年が経ちます。男娼(男性セックスワーカー)に取材をするようになってからは16年です。
紙媒体のライターは、雑誌の特性や編集者の依頼に応え仕事をするタイプと、署名原稿や自著を出すタイプにおもに分けられると思いますが、私自身は、いつか自著を1冊出せればいいなと思い、粛々と雑誌の仕事をこなしていくタイプだと思っていました。
しかし、そんな自分でも、書いて残さないと後悔するだろうという出来事がいくつか続き、ある種、意を決して本を出そうと動き始めました。
まずはこれまでの自分の人生を回収する意味でも上梓したのが『風俗嬢という生き方』(光文社知恵の森文庫)。そして2冊目となるのがこの『男娼』です。10年前にはすでに男娼の取材をしていたので、当時、本を出そうと思えばできたかもしれません。ただ、機は熟した、満ちたと思い、万全な状態で取り掛かることができたかどうか。それを考えると『風俗嬢という生き方』も『男娼』も、40を過ぎたこのタイミングで書かれるべき本であったと考えます。情報量が多くなったのも必然で、これまで表立って出してこなかった経験を書いたからだと思います。
取材に関して大きく苦労した点はありませんが、普段は週刊誌で仕事をしているので、毎週の締め切りがありながら本のための執筆時間を確保するのが大変でした。当初は前著から1年半以内に出版するのを目標に進めていたのですが、遅れたのにはそういったいくつかの事情がありました。
あとは、踏み込んだ表現、主張をした先に、踏まれている人はいないか。差別や偏見を助長してはいないか。そこに注意を払ったつもりではいます。
私はもともと宮城県石巻市の、そのなかでも特に田舎のほうで育ちました。日がな一日ボーっとしていることが好きな子でしたし、いまでも時間に追われて何かをすることが苦手です。それでも現在は、書きたいテーマがまだいくつかあるので、のんびりもしていられません。どのテーマも「機は熟した」と思っています。
『風俗嬢という生き方』『男娼』と、寄稿等をさせていただいた『エッチなお仕事なぜいけないの?』(中村うさぎ編・ポット出版)で、自分なりに日本の性風俗を書ききった感はあります。
「男娼をテーマに本を書きたいです」と光文社ノンフィクション編集長に言ったのが『男娼』の始まりですが、厳密にいうと、「このテーマを書くことができるのはたぶん自分しかいません」という台詞の続きがあります。
女性のライターが見続けた日本の性風俗の実情をぜひお読みいただけたらと思います。
中塩智恵子 Chieko Nakashio
1974年生まれ。宮城県石巻市出身。アダルト系出版社を経てフリーランスのライターに。現在はおもに女性週刊誌で執筆。政治家、文化人、芸能人、風俗嬢、ウリセンボーイまで幅広く取材活動を行なう。2002~2006年までタイ・バンコクに在住。