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貴族を模した格好で「ルネッサーーンス!」の掛け声とともに乾杯するネタで一世を風靡した、お笑いコンビ「髭男爵」の山田ルイ53世さん。
5月31日(木)に発売された『一発屋芸人列伝』は、自らも“一発屋”を自認する山田さんが「消えた」芸人のその後を追跡取材したノンフィクションです。
レイザーラモンHG、テツandトモ、ジョイマン、波田陽区など10組の“現在”に芸人ならではの視点で迫り、「新潮45」連載時には2018年の「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を受賞した本作。芸に生きる人たちの涙あり、笑いありの人生と、芸人初の快挙を成し遂げた本作への思いについて、山田さんに文章を寄せていただきました。
「新潮45」誌上で筆者が連載していた、「⼀発屋芸⼈列伝」が賞を頂いた。
「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」……その名の通り、⼤⼿出版社編集者の⽅々の投票で決まるタイトルである。
四十を超えて貰う表彰状はまた格別……などと⾃ら吹聴するのは決して褒められた話ではない。百も承知だが、なにせ当⽅“⼀発屋”。⼈⽣唯⼀の勲章である「⼀度売れた」事実も、「消えた」「死んだ」とSNS上で揶揄する⼈々にかかれば、もはや汚点の如き言われよう。ほとんど“バツイチ”と同じ扱いである。
結果、“一発当てた”2008年から10年間、特段評価されることも無く、腹ペコ状態の自尊心を抱え、まるで給⽔ポイント無しのマラソンを走る様な日々を過ごしてきた。それが30キロ地点を過ぎた頃にようやく……となれば、些か“今さら感”も否めないが、久し振りに⼝にする⽔の旨さに喉が鳴るのは⽌めようがない。
要するに、嬉しかったのである。⾒逃して頂きたい。
*
昨年、2017年の暮れ。
「どーもー! ルネッサーンス!!」
僕と相方は、元気良くステージに⾶び出した。
「本⽇司会を務めさせて頂きます、髭男爵です! よろしくお願いしま――す!!」
短めのオープニングトークで、サッと場を盛り上げると、
「それでは参りましょう! トップバッターはこの⽅です、どうぞ―!!」
演者を呼び込み、舞台袖へと消える。
⼊れ替わりに現れたのは、
「イエェェェェェェェ――――!!!」
⽩いノースリーブに⻘の短パン、腰⾻が折れんばかりに上半⾝を反り返し絶叫する、異様なテンションの持ち主。ご存知、サンシャイン池崎である。
彼がパフォーマンスを終え退場すると、再び僕達の出番。少し感想を述べた後、
「さっ、どんどん参りましょう! 続いてはこの⽅々、どうぞ―!」
……以後は、これの繰り返し。ブルゾンちえみに平野ノラ、ぺこ&りゅうちぇるにピコ太郎と錚々たる“売れっ⼦”の⾯々が次々と登場し、会場は沸きに沸いた。
まるで、正⽉特番のような豪華な顔ぶれだが、勿論違う。大体、“⼀発屋”がMCのテレビ番組など有り得ない。その⽇の僕達の役回りはMCと言っても、とある企業の忘年会、その余興のステージの仕切りであった。
いわゆる営業の仕事である。当然、先述の“売れっ⼦達”は全員偽者……コスプレをした各部署の若手社員達だったが、彼らを前に、その日唯一の本物たる僕は、あろうことか少々気後れしていた。
と言うのも、会場の大歓声は専ら偽ブルゾンやサンシャイン偽崎に向けられており、その人気は僕達を遥かに上回っていたからである。只の“内輪受け”ではない。
偽者ご本人達(ややこしい物言いで申し訳ないが)も肌で感じていたのか、
「ちわーす!」
「わっ、懐かしー……」
「ちゃんと盛り上げてくださいよー!?」
舞台袖の暗闇で、擦れ違いざま僕達に投げかける言葉には、芸能人を前にした緊張感どころか、年長者に対する敬意さえ微塵もなく、むしろ、やや上から目線であった。
本物の一発屋より、偽者の売れっ子……“旬”の勢い、そのオーラは、コスプレにすら宿る。“一発屋”が舐められるのは、日常茶飯事。慣れっこだが。
この本で描かれるのは、サクセスストーリーでも美談でもない。むしろ、全てが終わった後の物語である。
ホームランでチームを勝利に導いた主砲も、ノーベル賞受賞の科学者も、大きな案件を獲得した営業マンも、大学受験に成功した若者や、運動会のかけっこで一番になった小学生も……打ち上げや授賞式に顔を出し、上司や家族に祝福された後、家路につき眠る。
そうして、目が覚めると“次の日”が始まる。
一発屋達も然り。“紅白に出場”、“流行語大賞受賞”、“月収数百万円!”……人生を変えた魔法のようなその一発が、「めでたしめでたし」と幕を閉じても、否応なしに人生は続く。キリの良い所で終わることなど出来ない。
“お伽噺の翌日”を生き抜いてきた、一発屋と呼ばれる彼らの姿が、読者の皆様の次の日の糧……とまでは言わぬが、フリスクくらいの気晴らしになれば幸いである。
▼本書のPVにも山田さんが登場! 読者へのメッセージを語っています。