'); }else{ document.write(''); } //-->
人気ロックバンド「クリープハイプ」でフロントマンを務めるかたわら、文筆家としても活躍中の尾崎世界観さん。そんな尾崎さんの日記エッセイ『苦汁200%』が、3月16日(金)に発売されました。
本書は、メールマガジン「水道橋博士のメルマ旬報」で連載中のエッセイが書籍化されたもの。昨年5月に発売された『苦汁100%』の第2弾です。
『苦汁200%』に収録されているのは、2016年7月から2017年9月まで、1日も欠かさずに執筆された尾崎さんの日記です。
音楽活動に加え、テレビ、ラジオ、雑誌の取材、執筆活動などに忙殺される日々。一方で、呑み歩き、ラーメンを食べ、大好きな野球観戦のために神宮球場へ向かう……そんな尾崎さんのリアルな日常が、ウィットにとんだ言葉で綴られています。
皆さんは、アーティストが作曲やライブの最中に何を考えているのか、気になりませんか? 『苦汁200%』から、尾崎さんの音楽活動に関する記述をいくつかご紹介します。
アンコールで、勢い余ってまだやる予定のない不完全な状態の新曲をやってしまった。
昔から友達が家に来ると、なんか貸したり、あげたりしたくなる性分はここでも一緒。(本書p.12より引用)
未完成の新曲を、あえてライブで披露する心境とは? それを例えた比喩を読むと、ストンと理解できる気がします。
ライブは本当に楽しかった。理屈も超えて、結果として歌えた。この日の為に色んなことを我慢してきた。それが全部報われた。やっぱり、音楽をしっかりやれた時の喜びは計り知れない。今日ライブができて本当に良かった。
体力が追いつかず、途中で倒れそうになりながら、つんのめったまま終わった。こんな日のことはずっと覚えていたい。(本書p.30より引用)
高熱で寝込み、全快にはほど遠いコンディションで敢行したライブについての記述。つらいシチュエーションだっただけに、ライブを完走したあとに噛みしめる喜びも格別だったようです。
スタジオで練習。バンドで久しぶりに音を出すと、新鮮で良い。楽しい、と思う瞬間は貴重だ。普段から感じている、苦しいの奥の、カラメルソースのような「楽しい」。それとは違う、純粋な楽しい。この感じをライブで出せたらどれだけ良いか。
(本書p.89より引用)
初期衝動のような「純粋な楽しさ」。これを普段から出せれば……と願う一節です。
1日をドブに捨てたと絶望しかけたところで、曲作りがすこしだけ進んだ。もう曲が良いかどうかよりも、1日を無駄にしたくないという気持ちが強いんだろうな。とにかく、これを作ったから生きた意味があった、と言い聞かせるような曲。言い訳だな。曲を作ることなんて生きてることへの言い訳だ!
(本書p.124より引用)
この気持ちは、納期に追われる仕事を抱えている人にも共感できそうです。アウトプットの良し悪しはともかく、「やることはやった!」という満足感で自分を納得させる感じ……。
相変わらず、めちゃくちゃに当てずっぽうでやったけれど、それなりに当たる瞬間が増えた。音楽が、表現が、わからないんだ。答えを知らないのにステージに上がる恐怖と言ったら。正解を知らないなりになんかを残したい、そうやってもがいているところを見せる。今は一所懸命にそれをやりたいし、すこしずつ伝わっている手ごたえがある。
(本書p.225より引用)
音楽ファンにとっては、色々なアーティストが見られて楽しいロックフェス。一方、アーティストにとっては「自分のファンはどの程度いるか」「自分たちを知らないお客さんにどう見られるか」ということが気にかかるようです。単独でのライブとは違った緊張感が伝わってきます。
***
喜怒哀楽をまっすぐに表現する尾崎さん。中でも印象的なのは、「自分の思い描く曲が作れない」「ライブで思うような演奏ができない」といったことに対する、いら立ちや苦しみ。すなわち、自分に対する「怒」「哀」の部分が多いことです。
多忙な日々のなか、もがきながら「表現」に向き合い、なめる苦汁。この苦悩があるからこそ、人の心を動かす音楽や文章を作れるのだろうなと感じる一冊です。
前作『苦汁100%』、小説家デビュー作『祐介』を未読の方は、あわせて手に取ってみてください。