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『君の膵臓をたべたい』でデビューして以来、次々とベストセラーを生み出している住野よるさん。3月2日(金)、1年ぶりの新刊となる『青くて痛くて脆い』が発売されました。
本作は住野さんが初めて大学生を主人公に据え、社会に出る前の数か月間という「青春の終わり」の光と影をリアルに描いた物語。
インタビュー前編では本作を書いたきっかけや、これまでの登場人物の中で最も住野さんに似ている(!)という主人公について語っていただきました。後編では、住野さんが小説を書く理由や、読者への熱い思いについて伺っています。
―― 住野さんの作品に大学生が登場するのは、初めてだそうですね。
いままでの作品では小中高生を登場させてきたので、今度は大人か大学生を書きたいと思っていました。
大学時代は、いわゆる最後の青春ですよね。授業をさぼろうと思えばさぼれるし、学校に行きたくなければ行かなくてもなんとかなる。でも縛られていないからこその閉塞感もあって。「社会に出る」というタイムリミットがある中で、最後の青春の間にしかできないような、「歪んだ人が何かを覆す話を書きたいな」と思いました。
―― 大学に入ったばかりの主人公・田端楓は、同じように周囲となじめない秋好寿乃と出会い、「モアイ」という秘密結社を始めます。モアイは社会人と積極的に交流を行なう、いわゆる就活に強い学生団体として描かれていますね。
モアイは担当さんが大学時代に所属していた、いわゆる「意識高い系」の団体がモデルになっています。そこでのお話を聞いていたら、ものすごくおもしろくて。その団体のことをいろいろ参考にして、モアイを作っていきました。
―― 楓と秋好を取り巻く人々のキャラクターも印象的ですね。私は、楓のバイト仲間の川原さんが好きでした。
僕自身は楓の友人の後輩である、ぽんちゃんが一番好きなキャラクターなんです。男性読者さんからも、ぽんちゃんは人気があるみたいで嬉しいです。
見た目のイメージはぼんやりですが、川原さんは僕の中では、tricotというバンドのキダ・モティフォさんのような感じでした。ぽんちゃんは、いまよりもう少しお若い頃のおかもとまりさんですかね。
いままで書いた作品では、実在の人物をイメージするようなことは一切していなかったのですが、今回は各キャラクターの造形を担当さんたちとかなり話し合いました。たとえば容姿や兄弟との関係性なども性格に影響しますよね。その中で「この人物は芸能人だったら誰に似ていると思うか」という話もしていたので、初めて僕の中でキャラクターたちを芸能人とかに当てはめた作品でした。
―― 登場人物たちの、大学生といった時期ならではの距離感が絶妙でした。
大学での関係には匿名性がありますよね。ぽんちゃんは、僕も本名を知らないですし(笑)。社会に出たら敵でも味方でもない人が多いから、そういう中で、いままで書いた4作とは違う関係性が描けていたら嬉しいです。
―― 刊行にあたっての「読んでくださった皆様の心の奥のところを、鋭利な切っ先で突き刺せますように。」というメッセージが印象的でした。
僕も好きだった本や影響を受けてきた本によって、今でも心に傷跡がついていると感じています。でもその傷跡こそが、人の心に光と影を生むのではないでしょうか。
『青くて痛くて脆い』の中で登場人物たちが学ぶのは、光だけじゃなく影の部分も必要だということ。その影の部分をちゃんと見ることだと思うんです。
今作の打ち合わせ時には、担当さんたちと「自分はこんなふうに傷ついてきた」ということを暴露し合う会をやりました。バーの奥で3人でひそひそ話しているうちに、1人が突然泣き始めて、店員さんからも「なんなんだ、あの団体は」みたいな目で見られて(笑)。この本自体が僕らの自傷行為が詰まっているようなものなので、一緒に傷ついていただきたいと思っています。
―― 物語の終盤で楓がある人物から言われるセリフに、「つまり君は、過去の自分を助けてあげたいだけなんだな」というものがありますね。
あれはまさに僕自身の思いです。そうやって僕が先輩作家さんたちからもらった希望をまた誰かに渡して、それを受け取ってくれた方がまた誰かに違う希望を渡してくれたら、僕が小説家として存在している意味があるかなと。
BLUE ENCOUNTさんの「もっと光を」という曲の中に、「これ以上誰かがこの思いを繰り返さないように」という歌詞があるのですが、それと同じ思いを僕もこの本に込めています。読者さんたちに、楓みたいな後悔がなければいいなと。
―― 大学生だけではなくて、「助けてあげたい過去」を持っている人なら誰もが共感できる要素を持った作品だと思います。いろんな世代の人に感想を聞いてみたくなりました。
今回は年齢にかかわらず、大学生活を経験していない人にもリアルに感じてもらえるような話にしようと考えていました。
これまでより大人の方にも支持していただいていて、30~40代の男性に「僕は楓だ」とおっしゃる方が多いんですよ。
―― 先ほどBLUE ENCOUNTの楽曲についてのお話が出ましたが、住野さんの作品で「テーマソング」があるのは本作が初めてではないですか?
読書が本好きだけの遊びじゃなくて、日本中の人たちのエンターテイメントであったら嬉しいなと思っています。そういうこともあって、今回はテーマソングとしてBLUE ENCOUNTさんの「もっと光を」という曲を使わせていただいています。
―― 住野さんは日頃から、「読書は娯楽」だとおっしゃっていますよね。
娯楽というのは遊びだからどうでもいいという意味じゃなくて、「もっと楽しいものだよ」ということなんです。たまたま僕が書く側で、みなさんが読んでくれる側だけれども、一緒に遊ぼうよって。
僕が読んできた本もそうだったと思うんです。有川浩さんや西尾維新さん、乙一さん、越谷オサムさんの作品が好きで、そこから学んで小説家になっています。一番大事なのは、退屈だった時間を本が楽しませてくれたということ。自分も普段読書をしない子たちに、そういう本を届けられるようになりたい。
自分の本を、読書好きにしか読んでもらえないものには絶対したくないんです。この本を書き始めるときに担当さんが、「自分たちの作るものは、1年に1冊しか本を手に取らない人にもおもしろいものじゃないといけない」と話していて、本当にそうだなと。
本好きのほうだけを向いているなんてもったいない。本が音楽とかスマホとか、そういうものと一緒に楽しんでもらえるものだったらいいなと思うんです。
普段本なんて読まないけれど、たまたま僕の本を選んでくれた人にも、小説を読み慣れている人にも楽しんでもらえるものにしたい。そのレンジを広く遠くできたらいいなといつも思っています。
【著者プロフィール】
住野よる(すみの・よる)
高校時代より執筆活動を開始。デビュー作『君の膵臓をたべたい』がベストセラーとなり、2016年の本屋大賞第2位にランクイン。他の著書に『また、同じ夢を見ていた』『よるのばけもの』『か「」く「」し「」ご「」と「』。よなよなエールが好き。
・「キミスイ」「また夢」の住野よるさんってどんな人?本人に直接聞いてみた〈単独インタビュー〉
・住野よるインタビュー『よるのばけもの』と読書について思うこと ―特集:本と、ともに①