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  • 道尾秀介の10年が結実した“やさしい嘘”の物語『透明カメレオン』インタビュー

    2018年02月15日
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    日販 ほんのひきだし編集部「新刊展望」担当 猪越
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    実人生と地続きの物語を

    (単行本発売時の)帯には、〈今夜も僕は、世界をつくる。少しの嘘と、願いを込めて〉とある。道尾さんが読者に届けてくれる、思いに満ちたその作品世界と、つい重ねあわせてしまう言葉ではないだろうか。

    「これは編集者が考えてくれたのですが、物語全体を象徴する、いい言葉をつけてくれたなと思っています。僕も読んでただ楽しかったという小説はなるべく書きたくない。実人生と地続きのものを書きたいという思いがあって、それを強く意識したのがこの『透明カメレオン』です。

    実際には〈こんな人たちいるわけないよ〉といわれるようなフェイキーなキャラクターも、読み進めていくと本当にいるように感じてもらえる。この作品のテーマである〈人の弱さ〉とがっちりリンクしてくれました」

    デビュー以来「救い」をテーマに書いてきたが、本作で描きたかったのは「弱い人が救われるストーリー」ではなく、「弱さそのものが、一つの価値である」ということ。

    人の弱さとは何なのか。恭太郎は恵に、〈弱いってのは、強くないことだって考えている人もいるけど、僕はそうじゃないって信じてるから〉、そう語りかける。誰もが抱える弱さそのものを互いに受け入れ、共にいること。変えられない“過去”ではなく、新しい“いま”を信じ、願うこと。

    人間を描くことはその弱さを描くことなのだと、深い陰影を持つキャラクターたちが教えてくれる。ハラハラドキドキのストーリーの先に、思いもかけない真実が見えてきたとき、これはここから始まる“再生の物語”なんだと気づく。

    ラストについては、「どこで終わらせるかすごく悩みました。エピローグを用意することもできるけれど、僕が文章で書くよりも、読者の方が頭の中で想像するエピローグの方が、絶対にきれいだろうなと」。

    この世は、大切なものほど目に見えない。小学生のころ、恭太郎の友だちが飼っていた〈透明カメレオン〉もその象徴だ。

    「僕が小学校3年生か4年生のときに実際にあった話です。カメレオンを飼っていると言い張る友だちがいて、家に見せてもらいに行ったら、〈あそこだ〉と天井近くを指さして教えてくれる。そうしているうちに、だんだんそこに本当にカメレオンがいるように見えてきた。思えばいる、信じればそこにあるという不思議な体験でした」

    人の思いやこの世界から消えてしまった人の存在、ラジオの電波だって目には見えないけれど、それは確かに存在し、誰かに何かを届けることができる。それは〈文字〉から読む人それぞれの景色を描かせる、小説の力でもある。

     

    10年目のプレゼント

    「あっという間の中にもいろいろなことを試してきて、次のステップを踏みたいなと思った時期がちょうど10年目と重なっていたんです。何かできることはないかと考えて、『透明カメレオン』を書いたのも大きなステップでした」

    もう一つの記念となる出来事は、尊敬する憧れの作家、トマス・H・クックに会うため渡米し、一緒に過ごしたこと。

    「『背の眼』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞したと連絡をもらったのが、10年前の10月15日。彼とは前々からメールのやりとりはしていて、実際に会おうという話になった時に、実は記念日だということでその日に会って、一緒にお祝いしてもらいました」

    「それはすごくその後のモチベーションになっています。クックにもずっと憧れていた作家がいて、彼が生まれて初めての海外旅行でイギリスに行ったときに、その作家の家を調べて、ドアの前まで行ったらしいんです。でも怖くてどうしてもそのドアをノックすることができなくて、それをいまだに後悔している。

    〈君は勇敢だ、ここまで会いに来てくれて〉と言われて、〈そうか、これは勇敢なことなんだ。勇敢なことをすると、これだけ得るものがあるんだ〉と実感したので、これからは小説に直に跳ね返っていくと思います」

    これまでも、そうした一つ一つの体験が物語を生み出してきた。

    「小さい頃は本をまるっきり読まなかったですし、いろんな人といろんな経験を積んで育ってきた。生身の人間同士の係わりあいや、自分で見てきたたくさんの景色から作品が生まれてきます。若い頃、外に出ずに小説を読むだけだったら、たぶん作家にはなれなかったと思います」

    これからの創作活動については、「いろんな読者の方を100パーセント以上満足させるものを書くことはこんなに難しいことなんだとわかったので、今後はその難しいことを基本ベースとしながら、本当にわがままな、10人に1人だけでもわかってくださいという作品もたまに書いていくと思います」

    道尾さんが新しい作品を書くときの絶対条件は、「やったことのないもの、これまで書いたどれとも似ていないもの」。

    「そうやって違うテイストのものを書いていると、読者の方から不満が出てくることも。たとえば前作の『貘の檻』は、横溝正史の世界が好きな人は評価してくれるのですが、ピンとこない人にはまるっきりわからない作品だったと思います。

    エンタメ性の強いものを読みたい読者もいれば、あまりトリックが入っていないほうが好みという人もいる。ただこれまでの本が、たとえば(近著の)『貘の檻』でデビュー、『鏡の花』が2冊目と、刊行順がすべて逆だったとしても、たぶんそういった声の数は同じだったろうなと気付いてからは少し楽になりました」

    そんな勇気と覚悟を持って生み出された作品たち。10周年にあたり、特に思い出深い作品は、と尋ねると「『透明カメレオン』は24冊目の小説にあたりますが、24人子どもがいてどの子が一番好きかと言われれば、どれも同じですとしかいいようがない。ただ、お兄ちゃん、お姉ちゃんたちのことをよく見て学んでいるので、末っ子ほど出来がいいことは確かです(笑)」。

    まさに“道尾秀介”という作家の粋が、たっぷりつまった会心作。小説ならではの心ふるわす感動を、ぜひ堪能してほしい。

    貘の檻
    著者:道尾秀介
    発売日:2017年01月
    発行所:新潮社
    価格:869円(税込)
    ISBNコード:9784101355566
    鏡の花
    著者:道尾秀介
    発売日:2016年09月
    発行所:集英社
    価格:704円(税込)
    ISBNコード:9784087454871

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    (「新刊展望」2015年3月号より)

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