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  • 大阪の書店員が読み解く「朝井まかて」の魅力

    2015年09月22日
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    日販 商品情報センター 「新刊展望」編集部
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    荒木:逆に身近な誰かをモデルにして書いてみることはありますか。

    朝井:イケメン好き疑惑はあります。『恋歌』の主人公の夫とかね。現実はそんなことないのですが。

    恋歌
    著者:朝井まかて
    発売日:2013年08月
    発行所:講談社
    価格:1,760円(税込)
    ISBNコード:9784062185004

    明治の世に歌塾「萩の舎」を主宰し一世を風靡した中島歌子。幕末の過酷な運命に翻弄された女の一生を描く感動作。第150回直木賞受賞作。

    荒木:今回は元侍で薬種屋の手代・佐吉さんがしゅっとした二枚目キャラですね。

    朝井:そうですね。ネタバレになるので詳しくは言えませんが、私の書くキャラクターの中では珍しいパターンです。

    荒木:ダメ担当はほかにたくさんいますからね(笑)。

    ―でも結局みんなかっこいいところが素敵です。

    荒木:時代小説ってそういうところがありますよね。ダメな感じが憎めなくて魅力的。現代もので三哲みたいな人がいたら、単なるダメおやじになってしまうかも。

    朝井:舞台や時代が異なることで、何か作用が働くのかもしれません。

    槌賀:いまの時代では起こりえないことも、この時代だからこそスッと書けて、スッと読める。

    荒木:おおらかで、許し許される空気みたいなものが人情話には感じられますね。

     

    本に呼ばれる

    朝井:書店さんも、本を買うのも小さいころから好きでした。ここ2年くらいは仕事もあって、ふらっと行く、というのは難しくなっていますが。以前は本屋さんの中にずっといて、小説のコーナーだけでなく、ありとあらゆる棚を見て回っていました。そうすると本が呼ぶんです。ぱらぱらっと見て、気になったらとりあえず買っておく。手元にあったらいつか読むでしょう。

    槌賀:僕も積んでます。持っているだけで安心するんですよね。「読んでから安心せいや!」と思うんですけれど(笑)。

    ―職場でも、家でも本に囲まれていらっしゃるのですね。

    槌賀:職場の本と家の本は違うんです。本屋は本を売ることを目的にしているので、自分があまり好みでなくても、お客さんが読みたいだろうなと思う本を売る。家にある本はまったくの自分の趣味の世界なので、喜べます。

    朝井:その風景、興味あるわあ。

    槌賀:『藪医 ふらここ堂』も漢方薬など専門用語が多く出てきますが、資料はたくさん集められたのですか。

    朝井:資料集めは好きなんです。『すかたん』も大坂人に大坂の良いところを語らせるよりは、他所の土地の人間から客観的に見せたくて、かつ身分も商人じゃないほうがいいなと知里を侍の妻だった設定にしました。ただ江戸時代は男性は赴任で動きますが、女性は旅は出来ても在所を変えるのはなかなか難しい時代。侍の妻が大坂に来ることがありえるのかどうか、ずいぶん調べました。そうしたら「大坂城代用人日記」で場合によっては家族を連れて赴任してもいいことがあったとわかった。だったら書けると思ったんです。

    ―そういった目当ての一文を探されるのも大変ですね。

    朝井:ちょっとしたことを調べようと思っても、その数倍の範囲の資料をまず買います。そうしたらどれかで行き当たる可能性はある。「大坂城代用人日記」も以前、別の本を買いに行った書店さんで、入口真正面の書棚にあって、ふと手に取ってみたらその記述が出てきたんです。背筋がゾクッとしました。

    荒木:まさしく本に呼ばれたんですね。

    朝井:資料を繰っている間は楽しいんです。書き出すのが……。

    荒木:書き出しが一番苦労されますか。

    朝井:冒頭の一章がなんとなく好きな感じでやれたら、あとはアクセルを踏める気がします。

    荒木:それは読む方も同じかもしれないです。最初の1、2ページを読んで、おもしろいかどうかがなんとなくわかる。

    朝井:読者さんはどのくらい我慢してくれるのかなといつも思うんです。冒頭は読みにくくても、おしまいまで読んだら良かったという作品もあるじゃないですか。

    荒木:読む側の読書経験によるかもしれないですね。いまの時代は忙しないので、「すぐおもしろいもの」を求めてしまう。

    槌賀:よくお客さんに「おもしろい本ある?」と聞かれるのですが、おもしろさは人それぞれなので難しいですね。読書は時間も使うので、本を読むのに費やした時間にその値段だけのお得感があったかどうかは、みなさん気にしているのかなと。「この間の本、おもしろかったよ」と言ってもらえると単純にうれしいですし、「この人得したんやな」と思います。

    ―その意味でも『すかたん』は本読みのプロである書店員の方たちが中心となって選ばれた本なので、まさに一押しの作品ですね。大阪はもちろん、より多くの方に楽しんでいただきたいと思います。本日はありがとうございました。

    (2015・8・7)


    (「新刊展望」2015年10月号より転載)
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