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  • 大阪の書店員が読み解く「朝井まかて」の魅力

    2015年09月22日
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    日販 商品情報センター 「新刊展望」編集部
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    朝井:デビュー作が花を作る人(『花競べ 向嶋なずな屋繁盛記』)、2作目は庭師が主人公(『ちゃんちゃら』)だったので、次は野菜を扱いたかったんです。当時、野菜の種類は大坂のほうがはるかに豊か。『すかたん』で取り上げた田辺大根は、昭和になって復興されてからの名称なのでそうは書けなかったのですが、これがおいしいんです。その味も書きたくて、大坂を舞台にしました。

    ―田辺大根は作中で「おろしたら辛うて、煮(た)いたら甘い」と書かれていますが、実際にそうなのですか。

    朝井:そう。いまの青首大根とはまったく違う、「これが大根の真骨頂!」という味。でもみんなこれ(表紙の絵を指さして)、蕪だと思うてはるんです(笑)。いまの田辺大根はもっと長いので、また形が違うのですが。

    ―野菜をはじめ、初めて聞くような言葉もたくさんあって、時代の風物を大切に書かれている印象を受けました。

    朝井:大坂ものに限らず、江戸時代の物はどんどん通じなくなっていますね。「火鉢の猫板って何?」とか。それこそ米朝師匠が落語の枕で「煙管の雁首って言うても、いま通じへんのですわ。あんまり説明したら話が途切れるし」と言うてはったことを思い出します。私たちも説明しないと伝わらへんなという時があるし、暦も違うでしょう。それが難儀なんです。当時は7月になったらもう初秋ですからね。

    槌賀:漢字でも、小説の中で書かれているのを見てそうだったと改めて気づくことがあります。一冊でいろんな知識を学べるのも本のいいところですよね。

    ―朝井さんの新刊『藪医 ふらここ堂』でも鯔背(いなせ)※と漢字で書かれていてはっとしました。

    ※「いな」は魚のボラの幼魚のこと。その「いな」の背に似た髪型を「鯔背銀杏(いちょう)」といい、江戸日本橋の魚河岸の若者が好んで結ったことが「鯔背」という言葉の由来といわれる。

    薮医ふらここ堂
    著者:朝井まかて
    発売日:2015年08月
    発行所:講談社
    価格:1,760円(税込)
    ISBNコード:9784062196895

    天野三哲は江戸・神田三河町で開業している小児医。近所でも有名な藪医者だ。ところが、ひょんなことから患者が押し寄せてきて、ふらここ堂は大騒ぎに―。

     

    朝井:私の本は漢字が多いとよく言われます。若い人は特に漢字が苦手だし、年配の方でもルビをもっと入れてほしいと。でも鯔背もあの字で江戸時代の風物、価値観とつながることができるでしょう。だからこれからも確信犯で使い続けます。

    槌賀:漢字だからこそ伝わるものがありますよね。

    朝井:平仮名にしすぎると、かえって判読スピードが落ちることがある。「これ、ええ字やねんけどな」と思いながらどんどん平仮名になっていくのは寂しいですね。

     

    イケメン好き疑惑!?

    ―『藪医 ふらここ堂』では、周りからは藪と思われている小児医の三哲が過保護や子どもへの過度な期待など、診療を通じて現代にも通じるような子育ての問題を解決していきます。ほかにも三哲の娘・おゆんと幼馴染み・次郎助の恋や家族の話など読みどころが満載です。

    朝井:この話も、ほんまに藪なのになぜかお城の奧医師に召されて大出世を遂げた男がいたという、その小さな史実との巡り合いから生まれました。あとは全部フィクションですが、彼の実家が紀州藩の藩医だったのも事実です。

    荒木:今回も芯の通った、タイプの違う女性が出てきますね。凄腕の産婆であるお亀ばあさんなど、かなり印象的です(笑)。男性のほうはちょっと踏み外し気味で、三哲をはじめ好きなようにやっている人たちの手綱を女性が引き直している。

    ―朝井さんの作品では、その男性たちにびしっと喝を入れる女性たちの啖呵も爽快です。朝井さんご自身はとても穏やかなお話しぶりですが。

    朝井:私自身は、自分のことをものすごく穏和やと思っています。そういう本人に限って怪しいんやけど(笑)。登場人物に自分の人生や感情、主義主張を託したりもしたことないです。あくまでも作中の人物たちがどう生き、何に苦悩し、何を摑むかに寄り添っていきたい。

    荒木:書いているうちに、登場人物が自分に似てきたなということもないですか。

    朝井:『すかたん』の主人公の知里は、小学校の同級生に「君の小さい頃にそっくりや」と言われました。猪突猛進なところとか。書いている本人はそうは思わないのですが、性根の部分はにじんでしまうのかもしれないです。

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