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薬丸岳さんの新刊『刑事の怒り』が、1月31日(水)に発売されました。『刑事の怒り』は、第1作『刑事のまなざし』がテレビドラマ化(主演:椎名桔平さん)された「刑事・夏目信人」シリーズの最新刊。第70回日本推理作家協会賞〈短編部門〉を受賞した「黄昏」を含む、4編が収録されています。
今回は新刊の刊行を機に、薬丸岳さんに本屋さんにまつわるエッセイをお寄せいただきました。作品はもとより、その誠実な人柄に触れて薬丸さんのファンになった書店員さんは全国にたくさんいらっしゃるのではないでしょうか。そんなみなさんにぜひ読んでいただきたい、薬丸さんからのパーソナルなメッセージも綴られています。
薬丸 岳
やくまる・がく。1969年兵庫県生まれ。2005年『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2016年『Aではない君と』で第37回吉川英治文学新人賞、2017年「黄昏」で第70回日本推理作家協会賞〈短編部門〉受賞。著書に『ガーディアン』『ラストナイト』『アノニマス・コール』『誓約』『神の子』『友罪』『逃走』『死命』ほか多数。新刊『刑事の怒り』は、『刑事のまなざし』『その鏡は嘘をつく』『刑事の約束』に続く「刑事・夏目信人」シリーズ4作目。
最新刊『刑事の怒り』の最後の修正作業の合間にこの原稿を書いているのですが、刊行が近づく今ぐらいの時期になると何だかそわそわして落ち着かなくなります。ちょうど飛行機に乗っていてこれから離陸しようとしているときのような、ワクワクともドキドキともつかない感覚に似ているかもしれません。
装丁のデザインを眺めながら、これが本になって書店に置かれている光景を想像してひとり悦に入ったり、作品を読んだかたがたからどのような感想が寄せられるだろうかと期待と不安が入り混じったような感情になったり、と。
そんな落ち着かない日々を経てようやく作品が刊行されると、ぼくが最も楽しみにしている「書店まわり」というイベントが始まります。
その名の通り、新刊が出たときなどに書店にお伺いして、サイン本やメッセージ入りの色紙やPOPなどを作ったりするのですが、ぼくはこの書店まわりがとても好きです。
初めて書店まわりをしたのは、13年前のデビュー作のときで、それ以降は新刊が出るたびに欠かさず行っています。数年前には一日に20軒の書店を回ったこともあります(ここまでくると書店まわりというよりかは何かの競技のようでもありましたが。ただ、この記録を超える作家はいないだろうと勝手に自慢のネタにしています。もしいらっしゃったらごめんなさい)。
けれど、そういうぼくも最初の頃から書店まわりがことさら好きだったというわけではありません(かといって嫌いだったわけでもありませんが)。新人作家が新刊を出したときに行う慣例行事のように受け止めていました。
何がきっかけで今のように書店まわりが好きになったのだろうと考えているうちに、北海道での出来事を思い出しました。
あるとき、編集者さんから、ぼくの作品の北海道での売り上げがものすごく伸びていると聞かされました。心当たりがあるとすれば、数年前に出した『虚夢』という作品が北海道を舞台にしていることです。ただ、それ以外の作品の売り上げもいいという話を受けて、初めて北海道での書店まわりをすることになりました。
いくつかの書店で、自作のPOPを添えてぼくの作品を大きく展開してくださっていました。北海道出身でもないぼくの作品を、地元の作家さんと並べて応援してくださっているのを目にして、胸が熱くなるのを感じました。そのときのご縁がもとで、次に北海道に伺ったときには初めてのサイン会をさせていただくことになりました。
まだ駆け出しの作家であったにもかかわらず、たくさんのかたがサイン会に来てくださいました。それはひとえに、ぼくの作品を書店で盛り上げてくださった書店員さんの力によるものだと思います。
もちろん北海道以外でも、ぼくのことを応援してくださっていた書店員さんや読者のかたはいました。ただ、自分にとっては馴染みの薄かった土地での温かい歓迎ということで、北海道での書店まわりやサイン会は特に強い印象として残っています。そのときの経験から、もっといろいろな場所の書店に行き、たくさんの書店員さんにお会いしたいと思うようになったのでしょう。
今では関東や関西や北海道だけでなく、いろいろな場所の書店にお伺いしています。そしてその都度、書店員さんたちとの楽しい時間を過ごしています。
最新刊の『刑事の怒り』は1月末に発売予定なので、書店まわりは2月の前半あたりでしょうか。ということで、今回も書店にお伺いしたときには、よろしくお願いします!
【著者の新刊】
被害者と加害者、その家族たちのやむにやまれぬ“想い”をみつめてきた刑事・夏目信人が出会った4つの事件。
年金不正受給、性犯罪、外国人労働、介護。
社会の歪みが生み出す不平等や、やり場のない虚しさを抱えつつも懸命に前を向く人々。彼らを理不尽に踏みにじる凶悪な犯人を前に、常に温かみに満ちていた彼のまなざしが悲しき“怒り”に燃えたとき、胸をこみ上げる激情に我々は思わず言葉を失う――。“涙が溢れる”だけでは終わらない。刑事・夏目信人シリーズ最新作!
(講談社BOOK倶楽部『刑事の怒り』より ※試し読みできます)
(「日販通信」2018年2月号「書店との出合い」より転載)
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