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〈西加奈子さんの『ふくわらい』文庫版がこのほど発売されました。担当編集者の方から寄せていただいた作品ガイドをお届けします。〉
西さんとの初めての打ち合わせは5年前。「身なりに構わず、不器用で、人付き合いが苦手なんだけど、一生懸命に真っ直ぐ生きる女性を書いてください」との依頼に、「そういうの書いてみたいです!」と快く引き受けてくださいました。
主人公は、マルキ・ド・サドをもじって名づけられた、書籍編集者の鳴木戸定(なるきどさだ)。福笑いを唯一の趣味とする彼女は、幼い頃のある体験がきっかけで、自分と世間を隔てる壁を強く意識しています。そんな彼女を取り巻くのは、アントニオ猪木に憧れ続け、度重なる試合で顔を崩しながらも、全身で自分を表現し続けるロートルレスラー、「良い原稿がほしければ、雨を降らせろ!」と無茶な要求をする作家、定への愛を訴え続ける盲目の男性、顔で原稿を取っていると噂される後輩の美人編集者……。友情や愛情を理解できず、世間との関わり方、そして自分自身のことさえ分からない定。人知れず葛藤する彼女は、彼らと付き合っていくうちに、自分の心の奥底にある本当の気持ち、そして、自らを包み込んでいる愛すべき世界に気づいていきます。自分という存在に真っ向から向き合っていく登場人物たちの言葉は、痛いほど読む者の胸に突き刺さってくるはずです。やがて、定の身体から溢れ出す感情の激流は、衝撃的でありながら、幸せ溢れるラストシーンへと繋がっていきます。
まさしく、西加奈子ワールド全開の作品『ふくわらい』の感動を届けたい一心で、単行本の発売時には、「『ふくわらい』発売前400日 社内ドキュメントバージョン」というフリーペーパーを作って、東京と関西の書店を回ったりもしました。まさに、あの夏は私にとって「ふくわらい祭」。すべてのイベントが終わった時には、激しい喪失感を味わいました。
自分の気持ちも落ち着いた頃、販売部の担当者から、「〈キノベス!2013〉※1位になりました!」との嬉しい報告が。それからあまり日をおかずに、西さんから「日本文学振興会から、直木賞候補になったと連絡ありましたよー」とのお電話をいただきました。もはや祈ることしかできませんでしたが、その日から、「第二次ふくわらい祭」の開幕です。
直木賞は、『サラバ!』(2014年、小学館刊)を待つことになりましたが、『ふくわらい』は、第1回河合隼雄物語賞を受賞し、選考委員でいらっしゃる上橋菜穂子さんには、文庫の解説をお引き受けいただきました。
こんな感動を与えてくれた『ふくわらい』に深く感謝するとともに、一人でも多くの人がこの作品を読んで、幸せな気持ちになってもらえたら、こんなに嬉しいことはありません。
※「キノベス!」…紀伊國屋書店スタッフが全力でおすすめする書籍ベスト30
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文・朝日新聞出版 書籍編集部 国東真之
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