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雑誌やWebが「絵本特集」を組むときにほぼ100%取り上げられる絵本に、故・佐野洋子さんの『100万回生きたねこ』(1977年初版、講談社)があります。
「著名人が選ぶ私のお気に入り絵本」などの企画でも十中八九選ばれる本作ですが、内容が良いというのはもちろん、「人当たりの良いタイトル」も大きな要因だと思います。
そんな佐野さんのデビュー作『おじさんのかさ』について、雑誌「編集会議」のインタビューで、ご本人は次のように答えていらっしゃいます。
(「最初に出版された作品はなんですか?」という質問に対し)
『おじさんのかさ』。銀河社って今はもうなくなった会社だけど。(中略)ずいぶんあちこちに持ちこんだ。(中略)なんでおじさんが傘を好きになったのかそのプロセスが必要だって言われたんだけど、私また根拠なく必要ないって思ったんだよね。(出典:「編集会議」(宣伝会議)2003年8月号「総力特集 絵本に恋して!」)
出版権は銀河社から講談社に移りましたが、本作が佐野さんのデビュー作です。
内容は「傘を偏愛する謎の紳士」の話で、紳士は仕事も年齢も不詳です。彼は外出時に常に傘を持ち歩きますが、これは「いつ雨が降っても大丈夫なように」と用心してのことではなく、単純に傘が好きなだけで、雨が降っても傘を差しません。理由は「傘が濡れるから」です。
しかし、ある「きっかけ」で、雨の中、ついに傘を開きます。そしてこの「きっかけ」が実に何てことのないもので、初読時にはびっくりします。
絵本作家の川端誠先生は、自著『絵本を楽しく読見ましょう』(1993年、リブロポート)の中で、本作について次のように語っていらっしゃいます。
この絵本は『100万回生きたねこ』と対になった作品といっていいかもしれない。絵本の作りがとても似ているのです。
確かに、とても似ています。
雨中を経て帰宅後、紳士は濡れた傘を見てこうつぶやきます。「ぐっしょりぬれたかさもいいもんだなあ。だいいち、かさらしいじゃないか」。これまでの思考と180度違いますよね。紳士はある「きっかけ」を経て、考え方が次のフェイズに進んだのです。この構造は『100万回生きたねこ』と一緒です。
本作が刊行されてから3年後の1977年、『100万回生きたねこ』が世に出ます。当時「100万」+「ねこ」というタイトルは、石井桃子先生が翻訳されたガアグの『100まんびきのねこ』(1961年初版、福音館書店)を連想させるものであり、佐野さんもそのことを承知していたのではないかと思います。そんな中でこの「人当たりの良いタイトル」を付けたセンス。これはすごいことだと思います。
※ちなみに、銀河社さんは今もございます。