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薩摩の下級武士の家に生まれながら、やがて明治維新の立役者として活躍した西郷隆盛。明治維新から150年となる2018年のNHK大河ドラマは、西郷の波乱の生涯を描く「西郷(せご)どん」に決定しています。
その原作小説である林真理子さんの『西郷どん!』が、11月1日(水)に発売されました。幕末の英雄として絶大な人気を誇りながら、実は知られざる部分も多い西郷隆盛。本作は、彼の第一子・菊次郎を語り手に、西郷の素顔と生涯を描く本格歴史小説でありながら、複雑怪奇な幕末についてすらすら読めるわかりやすさも魅力です。
今回は林真理子さんに、作品に込めた思いと、いま西郷隆盛の物語を描いた理由についてお話を伺いました。
▼『西郷どん!』は、前後編の2冊で刊行された上製版と、上中下巻の3冊で刊行された並製版の2種類が販売されています。
なんという目をした男だ――。吉之助の目を見た者は、誰もがそう呟いた。下級武士の家に生まれた西郷吉之助(のちの隆盛)は、貧しいながらも家族やのちに大久保利通となる正助ら友に恵まれて育つ。島津斉彬の雄姿を間近に見た吉之助は、いつの日かこのお方にお仕えしたいと焦がれるようになる。時は幕末。夢がかない、藩主となった斉彬の側仕えとなった吉之助は江戸に京都に飛び回る様になった。敬愛する斉彬の死、度重なる遠島、奄美の島で知った初めての愛。激動の幕末を駆け抜け、新たな時代をつくった男の生涯を描く。
――『西郷どん!』は、西郷隆盛の幼少期から西南の役で果てるまでを描いた小説です。なぜいま、西郷隆盛について書こうと思われたのですか?
4年前に『正妻 慶喜と美賀子』という小説で、徳川慶喜とその妻のことを書きました。歴史小説を書けば誰しもが考えるように、「NHK大河ドラマの原作になったらいいな」と思っていたのですが、実現しなくて。その時に歴史学者の磯田道史さんが、「次は西郷隆盛を書いたら」と言ってくださったんです。
慶喜を書いたことで当時の資料はいっぱいありましたし、幕末という時代は難しいけれどおもしろかった。「西郷さんはハードルが高いな」と思いつつも、「そもそも西郷隆盛ってどういう人だったのだろう」という興味から、調べて書いてみたいなという気持ちになりました。
――西郷隆盛というと上野の銅像がすぐ思い浮かびますが、確かに、その人となりについては今回『西郷どん!』を読んで初めて知ることがたくさんありました。
私もそうです。島流しになっていたことは知っていましたけれど、こんなに長い間だったとは思わなかったし、その地で子どもをなしていたのも知らなかった。
――そうすると、執筆に際してかなりお調べになったのでしょうね。
2年間にわたり月に1回、学者の方や編集者と一緒に勉強しました。鹿児島や奄美にも何度も取材に行って。みんなで知恵を出し合ったり、歴史オタクの編集者には、先生のご指導をさらにかみ砕いてもらったり。いろいろ教わることが多かったです。
――幕末は重要人物も多いですし、さまざまな立場や思惑が絡み合って、理解するのが難しい時代ですよね。『正妻』もそうでしたが、本書でも西郷という人物を軸に、幕末という時代を1本の太い流れとしてつかむことができて、全体像がわかりやすかったです。
ありがとうございます。幕末は本当に奇々怪々で複雑です。たとえば長州は、尊王攘夷といいながらも5人の若者をロンドンに留学させています。みんな二枚舌を使ったり、命を惜しんで簡単に前言を翻したり、真意がわからないんです。そこは資料を吟味した上で、想像を駆使するようにしました。
――『西郷どん!』は明治37年、西郷の第一子である菊次郎が京都市長として着任するシーンから幕を開けます。菊次郎が部下となる川村に、父である西郷のことを語る形で物語が進みますね。しかも菊次郎は洗練された美男子です。
そうなんです(笑)。その彼を歓迎する宴会は、芸妓さん、舞妓さんが手毬唄を歌うという劇的な世界にしています。
「文政10年に、西郷どんは貧しい下級武士の家に生れました」という書き出しでは読者の心を摑むことはできません。小説の冒頭はいつもすごく頭を悩ませます。「映像化になったらいいな」とイメージをふくらませながら、最初のシーンは華やかに書いています。
――西郷の肖像画として知られる絵は本人をモデルにしたものではなく、「隆盛」も本名ではないそうですね。それだけでも西郷が謎の多い人物ということがわかりますが、書き始められた時点では、西郷の人間像をどのように捉えていましたか?
私の中でも、人間像はまだ完全には固まっていませんでした。西郷は理想の国家を作ろうとし、また、それだけの力もあったけれど、最期は悲劇的な死を迎えます。なまじ人気があったために彼を利用しようという動きもあったでしょうし、国家が成熟していない部分を彼が担わされてしまったのかなと思います。
――それだけの人気者を描くにあたってのご苦労はありましたか?
親しみやすく書くと卑小な人間になるし、偉大すぎると読者から遠ざかる。その辺は、伝記を書くときにもっとも難しいところです。たとえば坂本龍馬は若くして、事をなし終える前に死んでしまいますよね。変わり者で人たらし、明るくて、突っ走っている途中でパッといなくなってしまうので、破天荒なキャラクターがそのまま維持できます。
一方の西郷は、一度は国家の中枢を担っているので、ハチャメチャなキャラクターにはできない。しかも寡黙で思慮深い人柄ですから、思いが人に伝わりにくい。その分書きづらいところはありましたね。
西郷に比べると、慶喜のほうがずっと書きやすかったです。かなりの変わり者ですから。今作にも登場していますが、慶喜が出てくるとほっとします。紛糾した会議の後に嬉々として記念写真を撮りたがるなど、緊迫した場面でも空気を読まないですし。
――西郷と慶喜は、明治維新へと向かう情勢の中で、まさに敵対する2人です。『西郷どん!』と『正妻』の2作品で、倒幕側・幕府側双方から明治維新を描く形になりましたね。
西郷は、会議を開くといっては江戸、京、大阪と動き回っている。「なぜこの人はこんなにしょっちゅう移動しているのだろう」と思うと、会議の根回しをしているんです。今でいったらロビイストですね。そして何のためにそんなにロビー活動をしているかというと、慶喜との一進一退の戦いのため。
慶喜も頭がいいので、例えば先回りして「絶対自分を入れての会議にしよう」と主張するのを、西郷が何とかしてそうさせないように図っている。大政奉還も、結果的には倒幕直前に慶喜に先手を打たれてのこと。書いてみてわかったのは、明治維新に至る過程は、慶喜と西郷との戦いなんだということです。
次回(2017年11月28日公開)に続く
・維新から150年、いま“西郷隆盛”を書く意味とは――林真理子『西郷どん!』インタビュー【後編】
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