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今年の11月で放送開始から満60年を迎えた長寿番組、NHK「きょうの料理」。その番組テキストである「NHKテキスト きょうの料理」の編集長から、エッセイをお寄せいただきました。
「放送媒体を持つテキスト」という、一般的な料理雑誌とは性質の異なる誌面は、どのように作られているのでしょうか。そして、番組とテキストの関係とは?
この11月4日、NHK「きょうの料理」は、放送開始から満60歳の誕生日を迎えました。1957年の放送開始時は生放送で、テキストはまだ無し。テキストが創刊されたのは、半年後の1958年5・6月号(創刊当時は隔月刊)。おそらく放送開始と同時にテキスト編集をスタートしたので、テキスト発売までに半年のずれがあったのだと推測されます。
テキスト編集部として、60周年でいちばん大事にしたかったのは「読者の皆様への感謝の気持ち」。単なる内輪のお祭りは、読者にとってあまり意味のないこと。放送もテキストも60年続いているというのは、「きょうの料理」を楽しみに待っていてくれる方がいてこそ。そんな「ありがとうございます」の気持ちを誌面で伝えたくて、11月号では、講師おすすめのキッチングッズのプレゼントや、根強い人気の“お酢”にさらに体にいい素材をプラスした万能酢の新提案など、喜んでいただけるような企画を盛り込みました。
ここで話は変わりますが、「きょうの料理」の番組とテキストの関係について少しご紹介します。毎週月曜~木曜の番組の企画内容、講師の選定、料理内容などは、番組スタッフとテキスト編集部が一体となり、双方で企画を出し、打ち合わせを重ねながら決めていきます。時には、テレビでウケる要素である「華やかさ」「見ためのインパクトの強さ」や「20~30代の若い人にも観てもらいたい」という思惑と、テキストで求められる「料理をつくりたい読者にとって本当に知りたいレシピや情報」とのギャップに悩むことも。それでも放送媒体を持つテキストというのは、全国津々浦々で認知されているので、ありがたい限りです。反面、そこに甘えていては、紙媒体に厳しいこの時代を乗り切れないのは他の雑誌と同じ状況。ネットとの共存も見据えながら、料理が好きな読者はもちろん、あまり料理をしないという人に、どのように「料理をつくる楽しさ」を発信するか、日々模索しています。
放送では、「いかにEテレに広い(若い)世代の人々の関心を集めるか」という課題がある一方、テキストへの反響や毎月たくさん寄せられるメールやお便りを読んでいると、最近非常に増えていると感じるのが、“定年女子、男子”の読者です。これまで仕事をしっかりこなしながら子育てをして、家事や食事づくりはだいぶ二の次……だった方たちが定年退職して、「やっと自分の時間ができたから、料理づくりを楽しもうかな」と思っている。でも、親世代から自然に料理を教わるような機会はなく、市販のお惣菜や合わせ調味料を便利に使ってきたので、いざ「ちゃんと料理を」と思っても、何を頼りにしたらよいやら……。ネットのレシピも、玉石混淆でわからない。スーパーに行っても、あふれる食材から何を買えばよいか途方に暮れる。こういった方たちを、私は勝手に「エントリー・シニア」と名付けて、これからどんどん応援していきたいと思っています。この世代の方々が、「きょうの料理」を手にとって、「おいしくできた、ありがとう!」という声を寄せてくださるのです。夜、社内が静かになった時間にお便りを読みながら、「こちらこそ……」と、涙目になってしまうこともしばしば。ネットの海からは拾いにくい、「難しくないけれど、確実においしい」料理や、料理の周辺の情報を、エントリー・シニアの皆様に届けたい、手づくり料理の楽しさを再発見していただきたい、という思いが、日々強くなっています。
60年を経て、新たなスタートをきる「きょうの料理」。テキストは、「545円を出してでも知りたい、と思える情報が詰まっているのか」をいつも自分に問いかけながら、歩みを進めていきたいと思っています。
NHK出版「NHKテキスト きょうの料理」編集長
草場道子―KUSABA Michiko
1992年NHK出版入社。獅子座B型。営業局、「きょうの料理」「おしゃれ工房」「すてきにハンドメイド」、通販カタログのバイヤー&編集、「きょうの料理ビギナーズ」などを経て、2016年7月より現職。趣味は料理とチェロ。
「きょうの料理」
「おうちで食べる料理が、いちばんおいしい!」。土井善晴、栗原はるみ、大原千鶴などの人気講師陣による、確実においしいレシピや、“おいしい理由”を丁寧に紹介します。11月号(10月21日発売)は放送開始60周年記念特大号。レシピ総数180点! 講師15人の愛用品が計60名様に当たる「愛読者ありがとうプレゼント」は11月号・12月号連続企画です。
(「日販通信」2017年11月号「編集長雑記」より転載)