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10月31日(火)、お笑いコンビ「カラテカ」の矢部太郎さんによるコミックエッセイ『大家さんと僕』が発売されました。
矢部さんが引っ越すことになった、新宿区の外れにある木造2階建ての一軒家。1階には、大家である87歳(当時)のおばあさんが1人で暮らしています。二世帯ながら階下から生活の気配が感じられたり、洗濯物が勝手に(!)取り込まれていたり、大家さんとのあまりの“距離の近さ”に最初は戸惑っていた矢部さんですが、やがて2人の間には「これはもはや2人暮らし!?」と思えるほどの素敵な関係が築かれていきます。
そんな実体験が、ほのぼのとしたイラストで描かれたコミックエッセイ『大家さんと僕』。「漫画を描くのは初めて」という矢部さんに、連載を始めたきっかけから作品に込めた思いまで、たっぷりお話を伺いました。
1階には大家のおばあさん、2階にはトホホな芸人の僕。挨拶は「ごきげんよう」、好きなタイプはマッカーサー元帥(渋い!)、牛丼もハンバーガーも食べたことがなく、僕を俳優と勘違いしている……。一緒に旅行するほど仲良くなった大家さんとの“二人暮らし”がずっと続けばいい、そう思っていた―― 。泣き笑い、奇跡の実話漫画。
〈新潮社公式サイト『大家さんと僕』より〉
―― 本作では、大家さんとまさに「ひとつ屋根の下」で暮らす矢部さんの実体験が描かれていますね。このお話を、なぜ漫画で描こうと思われたのですか?
大家さんと京王プラザホテルでお茶をしていた時に、以前お仕事をご一緒したことのある漫画原作者の倉科遼さんと偶然お会いしたんです。大家さんを僕のお祖母ちゃんだと思われたようなので、「あの方は大家さんなんです」と説明すると、「それはおもしろいね。ぜひ漫画にしてみたら」と勧めてくださったことがきっかけです。
芸人になってからは、ネタでイラストを使いたい人に「描いて」といわれることはあります。絵を描く機会は多いのですが、漫画を本格的に描いたのは初めてです。
―― 京王プラザホテルでお茶! 素敵ですね。大家さんはお食事やお買い物は伊勢丹でされるのですよね。
前に外国の方にその話をしたら「ポッシュだね」といわれました。僕はどういう意味かよくわからなかったのですが、たぶんそんな感じだと思います。
※ポッシュ=贅沢な、豪華なという意味
▼お食事もお買い物も「伊勢丹」が行きつけの大家さん。そこには大家さんのこんな思いが込められています。
―― 掲載されたのは月刊誌「小説新潮」ですね。初漫画にして毎月の連載だとご苦労もあったのではないですか。
無理のないように、1回4ページの連載にしてもらいました。第1回はロケに行っていたケニアで、第2回は仕事先の香川のホテルで描いたのを思い出します。特にケニアは10日間くらい行っていて、ちょうど締め切りに当たってしまったんです。
―― 旅先でも描かれるとのことですが、漫画は何を使って描いていらっしゃるのですか?
ペンタブレットを使っています。本当は紙に描きたかったのですが、何回も消しゴムで消して直しているうちに、紙がぐしゃぐしゃになってしまって。デジタルだと何度でも直せるので便利ですね。
―― お父様は絵本作家のやべみつのりさんですが、絵を描くにあたって、お父様からの影響はありましたか?
小さいときはよく父と一緒に描いていましたが、特に絵を習ったことはないんです。ただ父は、絵にいわゆる「巧みさ」を求めるタイプではないので、そういう好みの面での影響はあるかもしれないですね。
―― 家を借りる時、不動産屋を通すと大家さんの顔もわからないことが多いので、矢部さんと大家さんとの関係がとても新鮮に感じられました。
僕もオートロックのあるような普通のマンションにばかり住んでいたので、これまで大家さんとの交流はありませんでした。いまの大家さんとは最初から距離感が近くて、実家に住んでいたときを思い出しました。
―― 木造の二世帯住宅で、矢部さんの部屋は外階段を上がった2階にあります。お互いの生活まで見えてしまうような近さですね。
大家さんは早寝早起きの方なので、僕も家に帰るのが遅くなった時は、階段は音を立てないように登ったり、夜はテレビのボリュームを落としたり。最初は「家賃払っているのに、何してるんだろう」という気持ちになったこともあります(笑)。
でも僕は、大家さんがいま住んでいる物件の一番のセールスポイントだと思っています。不動産屋さんで物件として紹介されたときにも、「大家さんのおばあさんが1階にお一人でいらして、おしとやかな方で」と説明されて、その時点ですごく大家さんに興味を持っていたんですね。家を「人で借りる」というか、「大家さん」も家を選ぶ要素として、大事だなと実感しています。
―― 大家さんは、「ごきげんよう」とあいさつされるほど上品で、ちょっと浮世離れした方ですね。芸人としての矢部さんのことはご存知なくて、笑いのツボもまったく違う。そんな2人が会話を交わして、お互いのことを気遣うことで仲良くなっていく様子は微笑ましかったです。
まさか僕も、大家さんとこんなに仲良くなるとは思わなかったのですが、読んでくれた方から、「実は僕も大家さんと仲が良いんです」といわれることもあります。いま共演している女優さんも、大家さんと一緒にテレビを見たり、あしかがフラワーパークに花を見に行ったりしているそうです。大家さんと仲良くしている人も多いんだなと思いました。
―― そうなんですね。お一人で暮らしている高齢の方も、周りの人とこうした関係が築けると心強いでしょうね。「大家と店子」というだけでない、なんとも名付けがたい関係がいいなと感じました。
先輩の板尾創路さんに大家さんとの話をしたら、「それはもう、契約書の甲と乙の関係超えとるがな」と言われました。確かに賃貸契約書に書いていないことばっかりしてますからね(笑)。
僕と大家さんは真逆というか、こういう関係じゃなかったら絶対に交わることはなかったと思うんです。年代も、職業も、クラスも違う。そういう意味では差がすごく大きいから良かったのかもしれないですね。異文化交流に近いというか。
―― お互い新鮮でありながら、距離を感じさせないお付き合いがまたいいですね。
僕自身も今の関係をすごくいいなあと思っています。大家さんから聞く話はとてもおもしろいですし、いま住んでいる辺りの昔の様子や戦争の時のことなど、知らなかったこともたくさん教えてくれます。そういうことも、この漫画で描きたかったことのひとつです。
―― 世代が違うからこそ教えてもらえることですね。
振り返ってみると、僕には“おばあちゃん体験”があまりなかったんです。両親は東京にいますが、祖父母は岡山、松山と遠くて、数回しか会ったことがありません。もしおばあちゃんと一緒に住んでいたらこうした話を聞く機会もあったのでしょうが、もうみんな亡くなってしまっているし。
なので、大家さんの話は僕にとってすごく新鮮で、戦争のことも実体験として話してくれるので興味が湧きます。雪が降った日に、「2.26事件の時もすごい雪だったの」と聞くと、「そういうふうにこの雪を見ているんだな」と思います。そういう感覚って僕には全くないですし、伊勢丹に行って「戦後はここもGHQに接収されて」「このあたりもドヤ街だったのにこんなにきれいになっちゃって」という話からは、いまとは全く違う姿が見えてきます。それがとてもおもしろいんです。
矢部太郎 Taro Yabe
1977年生まれ。お笑いコンビ・カラテカのボケ担当。芸人としてだけでなく、舞台やドラマ、映画で俳優としても活躍している。父親は絵本作家のやべみつのり。本書は初めて描いた漫画。今も大家さんの家の2階で暮らしている。
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矢部さんが『大家さんと僕』の表紙を再現してくださった1枚。大家さんと矢部さんの仲睦まじい様子が伝わってきます!
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