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小説『ナラタージュ』が映画化され、10月7日(土)に公開される島本理生さん。前回は、映画化された感想や執筆当時に島本さんが小説に込めた思いについてお聞きしました。
映画はすでに試写を観た人の間でその濃厚なラブシーンが話題となっていますが、島本さん自身も「若い人の性」を大事に恋愛小説を紡いできたそう。今回は、そんな小説と映画に共通する世界観についてもお話を伺いました。
――映画は、濃厚なラブシーンでも話題になっていますね。
私の小説全般にいえることですが、若い人や普通の恋愛を書いていても、ラブシーンとかベッドシーンの割合が多いと思うんです。それは「若い人の性ってすごく大事だな」と思っているから。恋愛すれば性の問題は必ず突き当たるところですし、しかも若いときのほうが感情をコントロールすることが難しい。相手を傷つけたり、この小説でも暴走してしまったりと、かなり危うい部分ですよね。
そのわりには最近、小説でも映画でもその部分があまり描かれない気がしていて。性の部分が濃厚なものは、一段飛びで不倫ものとかになってしまいます。この作品も登場人物が若いわりにはラブシーンが多いのですが、そこをあまりぼかさずに、映画としても向き合ってほしいなと思っていました。具体的に何かお願いをしたわけではないのですが、監督がたぶん同じように「重要だ」と感じて撮ってくださったことがありがたかったです。
――特に印象に残っている場面はありますか?
いくつかあって甲乙つけがたいのですが、ひとつは葉山先生と泉が浴室でもみ合っているシーンですね。
書いているときにも、盛り上がっているシーンだなと意識はしていたのですが、映像で見たときの緊張感と衝撃はすごいなと思いました。いい意味で、小説と映画は全然違うなと。きれいなんですけれど、恐ろしいほどの緊張感もあって……。
――全編を通して、静かだけれど不穏な、なんともいえない空気が流れていましたよね。
ちょっと怖いんですよね。私は、ラブシーンは全体的にもっと色っぽい感じを想像していたんです。実際に小説ではそういう描写が多いですし。でもいざ映画を観てみたら、それよりも恋愛の怖さに触れるような奥行きと緊張感を感じました。
――性の問題にも真っ直ぐに向き合っているからこそ、大人の胸にも深く迫る映画になっているのでしょうね。
役者さんが映像として動いていて、感情がぶつかったり、行き来したりしている。その生々しさとリアリティは、映画ならではの醍醐味だと思います。それがこれだけの組合せで実現するというのは、なかなかないのではないでしょうか。
――「生々しくて、激しくて、それでも美しい」というのは小説とも共通するところですね。
性描写のリアリティは求めつつも、「女性読者が読んできれいだなと思う一線は保ちたい」と思いながら書いています。恋愛には残酷な面も多いですが、それでも「こういう恋愛をしてみたい」と思ってもらえるのが、恋愛小説では大事だと思うので。
――「若い人の性」を大事に書かれたとのことですが、書かれたご自身も、当時はまだ20歳とお若いですよね。
おそらく書いていた当時は、自分より大人の方が何を考えているかわからないところがあったと思います。周りを観察して、感覚で書いていたのだろうと映画を観て感じました。そうして小説にしていたものが、いまになってその意味がわかることもあって。若い年齢で書いた小説だからこそ、そういう発見があったのかもしません。
――若いときのご自分の作品に、いまの年齢ならではの答えを見つけることができるというのは、作品の奥深さを感じさせるエピソードですね。おそらく読者にも、そんな瞬間があるのではないでしょうか。
時間っておもしろいですよね。時が経つことによって、作品に対する自分の理解や感情移入できるところが変わるので。それはきっと、この映画も同じだと思います。
――島本さんの小説の映画化は今回が初めてのことですが、今後の創作活動に何か影響はありそうですか?
あると思います。私はちょっとくせのあるタイプの男性や、必ずしも正しいとは言えない恋愛を書くのが好きだったんです。でもこの映画を観て、いろんなシーンのあまりの激しさに、心乱れる男性キャラクターは1作につき1人程度にしておこうかなと。葉山先生と小野くんが両方動き出すと、なかなかハードですよね(笑)。見応えもあるんですけれど。
――書いているご本人はハードではないのですか。
小説は文字ですし、文章を淡々と書いていたので、こんなに危ういところの多い話だとは思っていなくて。「ヒロインに土下座させるとは思わなかった」ということは、小説の発売当時も結構いろいろな人に言われたのですが、映画で見るとあの場面は異様ですね……。そこで取り乱している、坂口健太郎さん演じる小野くんのリアリティも含めて、映画のインパクトはすごかったです。
▲坂口さんは泉に想いを寄せる大学生・小野を演じています。
ただ「その激しさこそが、この小説だな」という気もするんです。小説と映画の世界観が離れることなく、さらに映画で振り切れているような濃さがあったので、それはとてもうれしいですね。
――共有している世界観があるからこそ、小説と映画双方を味わうことで、さらに物語の世界に深く入っていける気がします。
映画を観て、「この恋愛関係の複雑さは、小説だとどう描かれているのかな」と読んでくださる方もいるのでは。また、小説を読んですでに登場人物のイメージがある方は、映画を観て「そうそう、こんな物語だった」と思い起こしたり、オリジナルの場面でも「先生はこういう人だったんだな」と思ってもらえるのではないでしょうか。ぜひ映画、小説どちらも楽しんでいただけたらと思います。
映画「ナラタージュ」
10月7日(土)全国ロードショー
配給:東宝=アスミック・エース
映画「ナラタージュ」公式サイト
http://www.narratage.com/
島本理生 Rio Shimamoto
1983年生まれ、東京都出身。98年、「ヨル」で「鳩よ!」掌編小説コンクール第二期10月号当選(年間MVP受賞)。高校在学中の2001年に「シルエット」で群像新人文学賞優秀作を受賞。03年、『リトル・バイ・リトル』で野間文芸新人賞を同賞史上最年少受賞。15年、『Red』で第21回島清恋愛文学賞を受賞。著書に『わたしたちは銀のフォークと薬を手にして』『イノセント』『夏の裁断』『アンダスタンド・メイビー』ほか多数。