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声優、歌手、エッセイストとしてマルチに活躍する池澤春菜さんは、本を年間300冊以上読破する「本の虫」としても知られています。
池澤さんにとって、本屋さんは昔も今も「果てのない迷宮」なのだそう。今回はそんな池澤さんに、子どもの頃の本屋さんの思い出を綴っていただきました。
池澤春菜
いけざわ・はるな。声優、歌手、エッセイスト。父は作家・池澤夏樹、祖父は作家・福永武彦。声優として「ケロロ軍曹」「とっとこハム太郎」など数多くの作品に出演。また「本の雑誌」「SFマガジン」に連載を持つなど、文筆家としても活躍中。本を年間300冊以上読破する活字中毒者でもある。2017年、SFエッセイ集『SFのSは、ステキのS』で第48回星雲賞ノンフィクション部門受賞。その他の著書に『最愛台湾ごはん 春菜的台湾好吃案内』がある。
子供の頃、一度だけこっぴどく両親に怒られたことがある。
塾の日だった。学校から帰宅し、準備をして家を出た。塾までは電車で10分、まだ少し余裕がある。あまり早く行ってもしょうがないから、駅前の本屋さんでちょっとだけ時間潰ししようかな。
読み始めた本が何だったのかは今となっては覚えていない。でもそれなりにしっかりした厚みのシリーズものの1巻目を読み終え、2巻目を探したところで、その本屋さんに置いてないことに気づいた。大丈夫、本屋さんはまだある。次の本屋さんには2巻目がちゃんとあった。なのに今度は3巻目がない。最初の本屋さんに戻った。
こうやって本屋さんをハシゴして、夢中になって読んでいたら、閉店の時間になっていた。塾行くの忘れちゃったけどまぁいいか、続きが気になるからまた探さなくちゃ、図書館にもあるかなぁ。物語で頭をいっぱいにして、幸せな気持ちで帰って来たら、なにやら家の前が騒がしい。パトカーが来てる……もしやおうちに泥棒が?! 慌てて帰ったら、原因は私だった。
塾に行ってきます、と家を出た子供が、時間になってもちっとも帰ってこない。塾に問い合わせたら今日は来ていないという。時間はもう23時過ぎ。家を出てから6時間以上経過している。これはただごとではない。もしや誘拐か、事故か……
にこにこしながら当の本人が帰ってきたのは、警察官が両親から事情を聞いている真っ最中だった。警察の人には呆れられ、親にはめちゃくちゃ怒られた。ソファにえいやっとうっちゃられた。体罰なんて全くしなかった両親の、最初で最後、そして最大の雷だ。
自分で書いてて思ったけど、これは怒る。子供としてもひどいし、お客さんとしてもひどい。なんなら、本屋さんもついでにえいやっとうっちゃっても文句は言わない。
でも、それだけ本屋さんは魅力的なのだもの(何とかいい話に持っていこうとしています)。
本を読むことが仕事になって、各出版社から本をお送りいただくようになったけれど、今も変わらずせっせと本屋さんに通っている。まだ知らない本、新しい本と出会いたいからだ。さすがに大人になったから、そんなにひどい立ち読みはしない。冒頭3ページくらいは読むかもしれないけれど、シリーズ丸ごと腰を据えてじっくり読んだりはしない。経費経費、と自分に言い訳しながらきちんと(大量に)買っている。親に心配はかけていないし、本屋さんにはお金も落としている。人として少しは成長できたんじゃないかと思う。
本屋さんは、私にとって果てのない迷宮だ。
だから、本屋さんには宝探しのように、売れる本の間に売りたい本をそっと忍ばせておいてもらいたいのだ。きっと重度の活字中毒が、眼をきらきらさせながら探しに来るはず。
私のように、時間を忘れて読みふけっちゃう子供がいるのは困るだろうけど、あまり目くじらは立てないであげて欲しい。幸せな本との出会いを経験したその子は、10年後20年後も本が好きでいるはず。もしかしたら作家になって、素敵な本を生み出しているかもしれない。出版社に勤めて、そのお手伝いをしているかもしれない。本屋さんに勤めて、本と人の仲人をしているかもしれないのだから。
お宝との出会いを求め、今日も私は本屋迷宮に潜る。
【著者の新刊】
台湾が大好き、40回以上、たぶんもうすぐ50回近く行っている、というと、みんなに「どこがそんなに魅力的?」と聞かれます。
食べ物が美味しくて、人が優しくて、町並みが素敵で、物価が安くて、治安が良くて、移動が楽ちんで、日本から近くて、ほどよくゆるくて……全部当たっているけど、でもそれだけじゃない気がする。この本には、私が好きな台湾を、宝箱のようにぎゅっと詰め込みました。全部のページで「台湾大好き」と叫んでいるような本です。
台湾はもう何回か行って、定番の所は見たけど、もっと何かないかな、という人に楽しんで貰えるといいな、と思って書きました(もちろんファースト台湾のガイドブックとしても最適だと思います)。この本を読んで、台湾に行って、台湾が好きな理由の言葉にできない部分が、なんとな~く伝わると嬉しいです。
(はじめにより抜粋)
(「日販通信」2017年9月号「書店との出合い」より転載)
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