'); }else{ document.write(''); } //-->
『金曜日の砂糖ちゃん』『よるくま』といった絵本はもちろん、装画や挿絵でも人気の酒井駒子さん。酒井さんは現在、東京と“森の中の家”を行き来しながら暮らしています。
9月4日(月)に発売された『森のノート』は、そんな酒井さんの初めての画文集。しぐさがなんとも愛らしい子どもたちの絵とともに、酒井さんが森の家で過ごす日々を綴ったエッセイが収められています。
酒井さんの絵は、あえて下地の色に”塗り残し”を作りながら、ラフに色を塗り重ねていく独特の筆遣いが特徴です。『森のノート』はその酒井さんの作風を生かすため、ブックデザインにいたるまで「塗り残しの黒」が意識されているそう。
本書の編集を担当した筑摩書房編集局・大山悦子さんに、酒井さんの制作スタイルやその魅力について作品ガイドを寄せていただきました。
スプーンから零れ落ちる水で月を描く子、降ってくる雪を掌で受ける子、部屋の隅で膝を抱え物思いにふける子……酒井駒子さんの描く子どもたちは、誰にも邪魔されない場所で、ただひたむきに思い思いのことに没頭しています。その子どもたちの何にも侵されないありようがあまりにも素敵で、いつか本を作らせていただきたいと願っていました。
そうしてでき上がった今回の本は、いわゆる〈絵本〉ではなくて、無心な子どもの心を忘れないおとなたちのためのエッセイ+作品集です。
酒井さんの作品は、段ボールの紙の上に下地にマットな絵の具を敷き、その上に思いがけないほどラフな筆致をさらに重ねて、大きく面取りするように描かれています。たとえば、まぶたの影もわざと塗り残した地色とそこに重ねた明るい色の配分で表現されていますし、赤みを帯びた頬はその上をさらにほんのひと刷毛なでただけ、という具合。背景には、必ず地色の黒がかすれてのぞいている部分があって、こういう黒に支えられているからこそ、酒井駒子さんの子どもたちは、ふわふわすることなく、ちゃんと存在しているんだな、と感じます。
酒井さんのけっして甘くない作品の魅力を生かしてブックデザインをしてくださったのが寄藤文平さんと鈴木千佳子さんです。『森のノート』というタイトル文字は、この本のために作ってくださった字。スピンと花切れは黒と濃いグレー。本のデザインの随所に黒を使ったのは、作品の塗り残しの黒を意識しているんです。
さて、それぞれの作品には、森の中の家の日々を綴る不思議なエッセイが添えられています。こんなふうに世界を見ることができる人は、めったにいないと思うのですがいかがでしょうか。ちょっと変? だけどクセになる? 魅惑の酒井駒子ワールドにあなたもどうぞ!
*
文・筑摩書房 編集局 第1編集室 大山悦子