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ホストが子育てのための資金をクラウドファンディングで募り、日本の子育てに革命を起こそうとする物語『キッズファイヤー・ドットコム』。旧態依然とした子育てのシステムをはじめ、作品に込められたさまざまな問題提起が多くの共感を呼んでいます。
最終回となる今回は、『キッズファイヤー・ドットコム』に収録された後日譚『キャッチャー・イン・ザ・トゥルース』についてお話を伺います。
類を見ないプロジェクトで育てられた赤ちゃんは、その後どうなったのか。彼の成長譚であるとともに、起こりうるかもしれない日本の未来と、誰もが抱える「生と死」について、深く考えさせられる物語です。
これまでのインタビューはこちら
・海猫沢めろんさんの仕事場は、シェアハウスの1室!ホストが日本の育児を世に問う『キッズファイヤー・ドットコム』インタビュー①
・子育てに“愛”は必要か?海猫沢めろん『キッズファイヤー・ドットコム』インタビュー②
――本作には、『キッズファイヤー・ドットコム』の6年後である2021年を舞台にした『キャッチャー・イン・ザ・トゥルース』が収められています。神威に育てられたKJ(カムイジュニア)と小学生新聞の記者である真の物語です。このお話も当初から構想されていたのですか?
『キッズファイヤー・ドットコム』を書いた後にこれも書く予定だったのですが、執筆の間が2年空いてしまって、世の中が変わりましたよね。トランプ政権も誕生したし、東京でもいろんなことがありすぎて、1回気持ちをリセットするしかなかった感じがあります。
――このお話は、クラウドファンディングのプロジェクトによって、特異な状況で育てられたKJの後日譚ですね。
子どもが大人へと成長していく、ビルドゥングスロマンが好きなんです。常に自分が思春期なので、人はどういうふうに大人になるのかということが気になっています。
大人というと漠然としていますが、たとえば僕は40歳ぐらいになったときに、ファッションに困ってしまったんです。持っていた服も、30歳まではギリギリいけても40歳になるとこれは着られないなと。それと同時に、モデルケースにする人がいないということにも気が付きました。40代の男で、サブカルチャーの範疇で、自分がかっこいいと思える人がなかなかいない。「タレントがいるじゃないか」と思うかもしれませんが、彼らは体育会系というかリア充感があるので、オタクの僕たちからするとちょっと違う。つまり、オタクでありつつかっこいい40代がいないんです。
――この物語で神威はホストをやめてはいますが、相変わらずかっこいいですよね。
かっこよすぎますよね。あれはちょっと無理でしょう(笑)。
成熟するということを考えたときに浮かんだのは、「大人になるとはどういうことなのか」ということ。それはおそらく、全能感を失うことでもあるんです。子どものときは何でもできて、自分はスーパーマンだと思っていたけれど、そういう全能感を少しずつ失くしていって、どんどん普通の人になっていく。
思春期はそれが嫌で、「20代で死にたい」と思うんですよね。ロックミュージシャンは27歳で亡くなることが多いけれど、そうすると自分が平凡だということを見なくて済む。将棋の天才も、最終的には負ける時がきます。ピークが過ぎるのが速いか遅いかの違いなのではないでしょうか。
大人になるというのは、象徴的に言えば自分が死に近づいていくということでもある。自分の限界や、やがて死があることにどこで気づくか。これはそこから始まる物語でもあります。
――全編を通して、「愛とは何なのか」「自分だけの生を、どう生きるか」など、登場人物の生き方を通して問いかけられている気がしました。いつ、どんな立場で読むかによっても、違う物語として響いてきそうです。
僕は20代の時にカート・コバーン(注)が好きでした。グランジ世代だから、「ダラダラ生き続けるよりも、一気に燃えて灰になりたい」という思いがあったんです。
それはかっこいいんだけど、裏を返せば、自分の限界に気づいて、大人になることを受け入れられていないということ。生きている人間には無限の選択肢があって、常に変化している唯一の存在です。それが死んだ瞬間に止まって、類型的なものになってしまう。
生きることと大人になることはセットで、その上で“個性”が出てきます。だからこそ、大人になることを受け入れることで、本当の意味での「生きること」は始まるのではないでしょうか。
注:ロックバンド・ニルヴァーナのボーカリスト兼ギタリスト。
海猫沢めろん(うみねこざわ・めろん)
1975年、大阪府生まれ。兵庫県姫路市育ち。2004年『左巻キ式ラストリゾ-ト』でデビュー。著書に『零式』『全滅脳フュ-チャー!!!』『愛についての感じ』『ニコニコ時給800円』『明日、機械がヒトになる ルポ最新科学』『夏の方舟』などがある。