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絵本を縦に開くという斬新なスタイルと、描き込まれたアイデア満載の絵で、多くの子どもたちの心をとらえている『100かいだてのいえ』。第2弾『ちか100かいだてのいえ』、第3弾『うみの100かいだてのいえ』のシリーズ3作で累計270万部という大人気の絵本です。
その待望の最新作『そらの100かいだてのいえ』が8月8日(火)に発売されました。
本作では「そら」の上を舞台に、主人公であるシジュウカラのツピくんをはじめ、これまでとは一味違ったキャラクターたちが登場します。作者であるいわいとしおさんに、本作が生まれたきっかけから「絵本」という形に込めた思いまで、お話を伺いました。
ある寒い雪の日のこと。
おなかをすかせたシジュウカラのツピくんがみつけたのは、ひとつぶのひまわりのたねでした。「これじゃ、おなかいっぱいにはならないや……そうだ! はなをさかせて、たねをふやそう!」ツピくんは、植える場所を探しに、空へと飛びたちました。天高くのびるいえにくらすのは、くもさん、あめさん、にじさん……今までとはちょっとちがう、素敵ななかまたちがツピくんをむかえます。
――最新作『そらの100かいだてのいえ』は、「そら」に高くそびえる家が舞台ですね。今回は雨や風など、誰もが知っているようで、普段あまり意識することのない“住人たち”が登場します。
ありがたいことに、このシリーズは新作を発売するたびに、「次は◯◯の100かいだてのいえをかいてください!」という手紙を子どもたちからたくさんもらいます。前作の『うみ』のときは、「次は宇宙の100かいだてのいえをかいてください!」という声がとても多かったのですが、「宇宙、といわれても何が住んでいるんだろう……」と困ってしまって(笑)。宇宙⼈ではリアリティがないし、さすがに描けないなと思っていました。
ところがある時、宇宙より下の空だったらどうだろう?とひらめいたんです。「生き物にこだわらず、雲や⾬、雪、雷といったものを擬⼈化したら、いままでの3冊とは違う新しい世界観の『100かいだてのいえ』が作れるのではないか」と、ピンときたんです。そこから紆余曲折ありましたが、「徐々にこれはいける!」と構想を固めていきました。
――最もご苦労されたのは、どのようなところですか。
いままでの『100かいだてのいえ』には、地上や地下、海の中に実在する⽣き物が住んでいましたが、今回は完全に空想の世界。テントウムシだったらその形や⾊は実際にあるので、それをよりどころに世界観を作ることができます。しかし、⾃然現象は実体のない、抽象的なものばかり。たとえば空気や⾵は、当たり前に我々の周りにあるものですが、形がないので⾒ることはできません。そういう抽象的なものをキャラクターにして、さらにそれらが住む家を描く、というのは、僕自身の想像力や絵がすごく試されるわけです。そこが一番苦労したところですね。
――シリーズの特徴として、「10階ごとに新しい住人に出会える」ことも楽しみの一つですね。キャラクターたちと出会うことで、空についても新たな発見がありそうです。
構想段階で、気象や⾃然現象についてのいろんな本を読んで勉強したのですが、科学的にしすぎると堅苦しくなって、物語としてはつまらなくなるかもな、と思いました。あまり知識にしばられずに、僕が⽇ごろから感じている空や自然現象のおもしろさを元に楽しく描けばいいのかなと。
絵本を描きあげてから、あらためて感じていることですが、特に最近、集中豪雨とか空に関する大きな自然災害が多いですよね。元はといえば、人間が引き起こした地球温暖化のせいだと言われていますが、そんな時代だからこそ、僕もこうした絵本を描きたいと思ったし、絵本を通して⼦どもたちが⾃然や⽣き物と⾃分の関わりについて、興味や意識を向けてくれたらいいなと思っています。
▲『そらの100かいだてのいえ』の住人たちは「自然現象」。左から風、雪、氷、雷、オーロラなど、計10種類のキャラクターが登場します。
▲本作の主人公はシジュウカラのツピくん。
▲『そらの100かいだてのいえ』を描く前に、いわいさんが「イメージを膨らませるために作ってみた」という木彫りのツピくん。トレードマークの紫の帽子と赤いマフラーは、「たまたま家にあった羊毛フェルトがこの色だったので」と絵本もその色になったそう。
――本作の主人公は、シジュウカラのツピくんです。なぜシジュウカラにされたのですか?
我が家では、毎年冬になると家の庭に、バードテーブルという⿃のエサ台を作ります。以前は東京の三鷹に住んでいてそこでもやっていましたが、今は伊⾖に暮らすようになって、よりいろんな⼩⿃が来ます。ミカンを置くとヒヨドリやメジロが、ヒマワリの種を置いておくとシジュウカラやヤマガラがと、置くエサによって来る⿃が違うんです。その様⼦をカーテンの陰から窓越しにこっそりのぞいたり、写真を撮ったりするのが冬の間のひそかな楽しみになっています。
冬は⿃たちの主食である昆虫がいないので、⼈間がそうやってエサを置いてあげることで彼らが集まってくる。僕らも⽬で楽しめるし、⾃然のことを⾝近に感じられる。ペットとして鳥を飼うのではなくて、そっと彼らの好きなものを置いて⾒守る、その関係が僕はいいなあと思ってやっています。
その中で、特に僕の好みなのがシジュウカラ。ヒマワリの種が⼤好物で、バードテーブルに種を置いておくと、何⽻も次々とやって来て、足で種をつかんで、くちばしでコンコンと種を割って食べるのがとてもかわいい。そのうち、彼らが種をこぼした地⾯からいつの間にかヒマワリの芽が出ているんです。それを別の場所に植えかえて育てると、花が咲いて種ができて、それをまた⼩⿃たちが直接⾷べに来ることも。
そうした経験を何回もするうちに、いつかシジュウカラのことを絵本に描いてみたいな、と漠然と思っていました。それが『うみ』のあと、『そら』はどうだろう?と考え始めたときに、シジュウカラを主人公にしたらぴったりだと気がついたんですね。伊⾖で⽣活をしながら体験したこと、吸収したことが⾃然と組み合わさってこのお話ができた気がします。