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7月20日(木)、額賀澪さんの『潮風エスケープ』が発売されました。
『潮風エスケープ』は、ある島で行われる「12年に一度」の祭を舞台に、大人と子供、自由と伝統、恋と友情に揺れる高校生たちの姿を描く青春小説です。
額賀さんは、2015年に『ヒトリコ』で小学館文庫小説賞を、『屋上のウインドノーツ』で松本清張賞を受賞し、その2作がWデビュー作として同時刊行された逸材です。その後も、部活やスポーツ、恋愛といった青春のきらめきを見事に映しとった作品を立て続けに刊行し、読者の心を着実につかんでいます。
そんな額賀さんには、自分の新刊の発売日や、「作家としていいことがあったとき」に必ず読む本があるのだそう。それは誰の、どの作品なのか。どんな思いでその本を手に取っているのか。読書日記として綴っていただきました。
新刊の発売日に、必ず読む本がある。
その本は普段、本棚の一番下の視界に入らない場所に置いてあり、自分の本が発売された日に必ず手に取る。1冊丸々読むこともあれば、1章だけ読んで終わりにすることも、冒頭の数行を読んで元の場所に戻してしまうこともある。
その本との出合いは2010年2月。作者の名前を知ったのはその少し前の、2009年の秋。私は大学1年生だった。彼は当時大学2年生で、第22回小説すばる新人賞を受賞してデビューした。実は私は、そのとき一次選考で落選している。
だから私は、自分の新刊が発売される日に、彼のデビュー作を読むことにしている。
それが、朝井リョウさんの『桐島、部活やめるってよ』である。
自分が作家になってから丸2年がたち、朝井リョウさんという作家に対して抱える一方的な確執について、私は今回初めて文章にしている。
岐阜弁の聞こえる田舎の高校の、バレー部のキャプテン・桐島君が、突然部活を辞める。同じバレー部の補欠とか、吹奏楽部の女の子とか、地味で目立たない映画部の男の子とか、いろんな子に桐島君の退部の影響が広がっていく。
この物語を当時、私は一人暮らしをしていた所沢のアパートの一室で読んだ。自分が応募した原稿と何が違うのかと思いながら、読んだ。奥歯をぎりぎり噛み締め、自分の小説に桐島君がいないことを嘆いていた。自分の中に桐島君が生まれる世界がないことを思い知った。
その後しばらく、小説を書くたびにそのことを思い出してしまって、「くそう、桐島! どっか行け!」と自分の頭をこんこんと叩きながら執筆する羽目になった。結果、彼の本は本棚の一番下に並べることになった。
ちなみに、作家としていいことがあったとき(重版とか)に読む本も決まっている。
朝井さんの直木賞受賞作『何者』だ。
彼が直木賞を受賞したのは2013年1月。私が、目標だった在学中のデビューもできず大学を卒業しようとしていた頃。あのときの衝撃といったらない。よりによって就活をテーマにした小説である。こちらが何者にもなれなかった大学生活を嘆いているときに、『何者』である。
発表直後に自分が何と言ったのか、はっきりと思い出せない。ただ、大学の卒業制作として提出した小説と、どこかの賞に応募しようと書き進めていた原稿を読み返したことは覚えている。それが、のちにデビュー作となる『ヒトリコ』と『屋上のウインドノーツ』だった。
いいことがあって浮かれていた気持ちがあっという間に冷めて、何者にもなれなかった自分を思い出す。調子にのらない薬。それが、『何者』が私に与えるものだ。
私が作家デビューしてから歩いている道には、あらゆるところに朝井さんの足跡がある。彼が数年前に歩いた場所をこれでも全力で走っているつもりなのだが、背中が見える気配すらない。
私が兼業作家を続けられたのは、彼が作家をしながら会社員として働いていたからだし。私がガス欠覚悟で次々と小説を書いているのは、彼がデビュー5年で10冊の本を出したからだ。私も5年目までに10冊出したいから、ひたすら書く。彼から5年も遅れてデビューした私にとって、止まらないことが唯一の安息なのだと思う。
この7月、私にとって6冊目の単行本『潮風エスケープ』が発売された。この本の発売日にも私は、彼の本を読んだ。自分の本が書店に並んだ日に、私はあの日に帰る。何度でも何度でも、大嫌いな桐島君に会いに行く。
【告知・拡散希望】
7/20発売の『潮風エスケープ』(中央公論新社)のPVを作りました!
少しでも興味を持っていただけたら嬉しいです。舞台は夏の読書にぴったりな南の島。「自分の生き方」を見つけようとする少年少女達の、ひと夏の恋と友情と願いの物語です。
よろしくお願いします! pic.twitter.com/YhW4Ku0fwT
— 額賀澪『潮風エスケープ』7/20発売 (@NUKAGA_Mio) 2017年7月10日
額賀 澪 Mio Nukaga
1990年、茨城県行方市生まれ。日本大学芸術学部文芸学科卒。2015年『屋上のウインドノーツ』で第22回松本清張賞、『ヒトリコ』で第16回小学館文庫小説賞を受賞。この2作で2015年6月に同時デビューを果たし、話題を呼ぶ。著書に『タスキメシ』『さよならクリームソーダ』『君はレフティ』がある。