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100万部を超えるベストセラー『向日葵の咲かない夏』をはじめ、『カラスの親指』(日本推理作家協会賞)、『龍神の雨』(大藪春彦賞)、『光媒の花』(山本周五郎賞)、『月と蟹』(直木賞)など、本格ミステリーから心温まる物語まで、数々の傑作を生みだしている道尾秀介さん。
そんな道尾さんの最新作『満月の泥枕』が、6月8日(木)に発売されました。
娘を失った二美男と母親に捨てられた汐子は、貧乏アパートでその日暮らしの生活を送る。このアパートの住人は、訳アリ人間ばかりだ。
二美男はある人物から、公園の池に沈む死体を探してほしいと頼まれる。大金に目がくらみ無謀な企てを実行するが、実際、池からとんでもないものが見つかった! その結果、二美男たちは、不可解な事件に巻き込まれていくことになる……。
先の読めない怒濤の展開に引き込まれ、やがて明らかになる二美男と彼を取り巻く人々の思いが、心に確かな灯をともしてくれる、まさに著者真骨頂の物語です。
さらに本作には「長編2冊分の楽しみ」があるのだとか。編集を担当した毎日新聞出版図書第一編集部・柳悠美さんに、作品ガイドを寄せていただきました。
すでに本書を読まれた方は、途中で「エッ?」と驚かれたことだろう。
家族を失い、貧乏アパートでその日暮らしの二美男は、ある人から「公園の池に沈む死体を探してほしい」と頼まれる。大金につられ、アパートの仲間たちと地元の祭りをジャックする無謀な計画を立て、実行する。ここで話の盛り上がりが最高潮に達し、ふと手元を見ると、しかし、本の頁はまだ半分以上残っている……。
最初に原稿を読んだとき、誰より自分が一番驚いた。池から出てきた“とんでもないもの”、その謎を解いてこのまま終わるのかなと想像していたが、安易だった。
「ここから登場人物全員で遠い場所に移動して、後半のヤマ場に向かって書きます」と道尾さんが言った。でも、どこへ行くか。池から見つかったものを狙う男たちの正体など、まだ具体的に決めていません、とも。え、それはつまり、いまからもう1本長編を書くと言っているのと同じではないですか――?
大阪育ちで生意気盛りの姪・汐子(しおこ)に加え、アパートの住人は皆一筋縄でいかない者ばかり。そんな面々を細かいプロットなしにどうやって導くのだろうか。浅はかな担当編集は、その後しばらくして送られてきた完成稿で度肝を抜かれることとなる。
前半とは一転、閉鎖空間へ追い込まれた二美男たちがない知恵を振り絞り、泥まみれで逃げまわる。暗闇のジェットコースターの如くおさまることのないドキドキ、ハラハラ、そして、最後に訪れるラストの美しさ、余韻……エンタメと人情ばなしが見事融合し、圧巻の一言だった。
「彼らならどう動くか、何を言うか、突き詰めていったらこうなりました」と道尾さんは言う。物語を信じる気持ちと、まさに経験と筆力の為せる技。小説の面白さをどこまでも追求する作家の姿をまざまざと見せつけられた。
かくして、2冊分の長編小説が凝縮された『満月の泥枕』は完成した。自分が体験した驚きと興奮と感動を、ぜひ読者の皆様と一緒に分かち合いたい。
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文・毎日新聞出版 図書第一編集部 柳 悠美