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6月22日(木)、万城目学さんの小説『パーマネント神喜劇』が発売されます。
デートの途中、突然時が止まり、現れたのは「神」と名乗る謎の2人組。ペラペラまくしたてる彼らに肩を叩かれ戻った世界は、何かが違う……? 日常の中に奇想天外な“ファンタジー”が盛り込まれた本作は、まさに万城目ワールド全開のおもしろさです。
サスペンダーからお腹がはみ出す、口の軽い中年男。横分け、メガネのサラリーマン風男。ニコニコ顔で近づくこの人たち、いったい何者? あやしすぎる「神様」に願いを託し、叶えられたり振り回されたりする人間の、わちゃわちゃ神頼みエンターテインメント!
今回はそんな万城目学さんに、読書日記を寄せていただきました。
独特な世界観で多くの読者を魅了する奇才・万城目学を「うらやましい」「悔しい」と焦らせ圧倒するのは、どの作家のどんな作品なのでしょうか?
ひと足お先に届きました、『パーマネント神喜劇』。記念すべき10作目の小説となります今作は、縁結びの神が繰り広げる、まるで茅(ち)の輪のような物語。どういう意味かって? 茅の輪は何百の茅(ちがや)を集めて編むもの、つまり一筋縄ではいかない物語てことですよ!は22日(木)に発売です。 pic.twitter.com/g1HrXHZHnh
— 万城目学 (@maqime) 2017年6月18日
小説であれ、映画であれ、海外の良質な作品を目にすると、
「日本に置き換えて作るとしたら、何を題材に持ってきたらいいだろう」
とついつい考え始めてしまうのだが、はじめてガルシア・マルケスの『百年の孤独』を読んだときは、
「これを室町時代でできたらなあ。めちゃくちゃなこと、やりたい放題だろうし」
と思った。私のなかで室町時代のイメージとは「混沌とフリーダム」だ。そこには物語の大油田が眠っている。この時代を舞台に書かないと損だ。
そんなことを十年以上前に考えた。
考えたきり放っておいたら、最近、続々と室町時代を舞台にした作品が登場し、何となく焦っている。
『平家物語 犬王の巻』(古川日出男著)も舞台は室町時代。世阿弥が登場する前に活躍した能役者「犬王」と琵琶奏者「友魚(ともな)」の物語である。
彼らは平家滅亡の物語を、亡霊たちから直接教わる。そして、散逸したはずのレパートリーを増やしていく。
「そう、この使い方!」
とまさしく思う。私のイメージする室町時代の世界で主人公たちが躍動している姿にうらやましさを感じる。ちょっとくやしい。やはり、焦ってくる。
海外だけではない。
国内の作品でも、「こういうのを書けるようになりたい」と我が身に置き換え思うことはある。憧れは執筆のきっかけにじゅうぶんになり得る。
司馬遼太郎の『この国のかたち(1~6)』を読むたびに感じるのは、定点観測の気持ちよさである。窓枠の位置をぴしゃりと決め、そこから知性あふれる眼差しで外界を望む文章には、自然と奥行きが生まれる。窓枠のサイズに本人を狭める過程で、知性の圧縮が実行されるからだ。それが読者の脳に送りこまれたのち、再度解凍される。
『すべての雑貨』(三品輝起著)を読み、「これは『この国のかたち』ではないか」とうなった。この本における窓枠は「雑貨」である。そこから定点観測の視線を社会に向ける。いっさいぶれることなく、「雑貨」でもってこの国のかたちを切り取っていく。これが実に気持ちがいい。私がまだ見つけていない窓枠を持っていることをうらやましく感じる。ちょっとくやしい。やはり、焦ってくる。
一方で、いっさい「こういうのを書けたら」と思わない作品もある。あまりに独特で自身の道を進みすぎているため、それに追随することを許してくれないのである。
デビュー作の『姑獲鳥の夏』を読んだときから、
「この人は同じ人間なのかな」
とその物語を構成する力に圧倒されたものだが、『書楼弔堂 破暁』(京極夏彦著)でも、やはり同じことを思った。
これを書くということが、個人が持つ脳のキャパシティーを超えた行為に思えるのである。何度人生をやり直し、知識を貯めこんでもこれは書けない。まさしく超人の仕業。ひたすら、「ひゃあ」と圧倒されるのである。
今は続く『書楼弔堂 炎昼』を読んでいる。先日、対談ではじめてお会いしたとき、御本にサインをいただいてしまった。
もちろん、くやしいことなどないし、焦りがあろうはずもない。
うむ。
ただ、自慢がしたかっただけである。
万城目 学 Manabu Makime
1976年、大阪府生まれ。京都大学法学部卒業。化学繊維会社勤務を経て、2006年に『鴨川ホルモー』でボイルドエッグズ新人賞を受賞しデビュー。ほかの著書に『鹿男あをによし』『プリンセス・トヨトミ』『かのこちゃんとマドレーヌ夫人』『偉大なる、しゅららぼん』『とっぴんぱらりの風太郎』『バベル九朔』『悟浄出立』などがある。